闇の承従 ヴォルフガング 1話「闇の住人」
首都デレイラッドがある大国フィーリーン。
そこでは昔、リチトーとダンケルヘイトによる種族間の争い。そして、国家間での利権争いが長く続いた時代があった。
だがやがて、戦乱の世より平和と繁栄を願う世論が強くなり、複数あった小国を統一し大国樹立を果たす。
その際、以前から災いの元とされていたダンケルヘイトへの弾圧が強まり、国策として、各地に散らばるダンケルヘイトを討伐するための軍隊「ウェルファング」が新たに編制された。
そこから派遣された二つの隊が、首都から西に遠く離れたゲビエスン・チェンラッセの地に赴いていた。
そこでは、明朝の討伐ために夜営が作られていた。
外側には、平原に杭と縄で仕切った囲いとその下に堀を。そして囲いの内側には、数個のマーキー(遠征用テント)が設置してあった。
暗闇の中、篝火に照らされた二つの隊の陣営は、各隊ごとに分かれていた。
篝火(かがりび)が立てられた陣営の入り口に、装備を整えた交代性の見張り役が二人がいた。
そして、それ以外の多くの兵士達はすでに眠りに就いていた。
そんな静まり返った中、いくつかの動く人影があった。
「ん?何だ……」
「何か物音がしたな……」
一方の陣営の見張り役二人が、不振な物音に気づき、篝火から点火した松明(たいまつ)を手にした。
各々が辺りを伺いながら、その場から少し離れようとする。
「あうっ!」
一人の見張り役が悲鳴を上げ、松明が地面に落ちる音が聞こえた。
「ど、どうした!?」
もう一人の見張り役がその異変に気づき、駆け寄って行く。
「うううっ」
何者かに後ろから羽交い絞めにされ、手で口を封じられた。
「命令だ。悪く思うなよ」
鈍い音が、羽交い絞めにされた見張り役の体を貫いた。
それを合図にしたかのように、身を潜めていた多くの兵士達が見張り役のいなくなった陣営を襲い始めた。
「な、何だ!!」
「おい、おい!!みんな、みんな起きろ!!奇襲だ!!」
すぐに、その異変に気づいた兵士達の叫びも空しく、寝込みを襲われたその隊は全滅の一途を辿っていった。
「どれ、もうほぼ全滅か」
辺りに散らばった無数の死体を踏みつけながら、陣営一番奥のマーキーに、複数の大きな人影が重量感のある金属音と共に近づいていた。
「フン!まだ、くたばっていなかった」
その影の主は、薄暗いマーキーの中を覗き込んだ。
そして、剣を持ち外に出ようとしていた者の生死を確認した。
「その鎧の音!お前、ハルクフトか!?きさま、どうつもりだ!!」
「悪いな、命令だ。お前には死んでもらう。やれ!」
影の正体である、全身鉄製の鎧に身を包んだハルクフトの合図で、周りにいた数人の兵士達がマーキーごと次々に切りつけた。
「ぐわああぁ!!」
叫び声を上げながら、マーキーに映るもがく影。
それに、狙いを定めるハルクフト。
「闇の住人は、闇に消えて行け!!」
ハルクフトが振り上げた剣が、崩れ落ちて行くその影の背中を切り裂いた。
次の瞬間、絶命の叫び声が天に届いたかのように、その場に大きな雷鳴が轟(とどろ)いた。
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