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ロベルト・ユンク「テクノクラシー帝国の崩壊」藤原書店


著者はドイツ出身のユダヤ系ジャーナリスト。1994年に亡くなっており、この著作は1988年に出ている。反核運動の旗手としても有名でヒロシマ被爆を欧州に伝えた。また、ザルツブルクに「未来問題のための国際図書館」を設立するなど、未来の問題に向けてあらゆる可能性を模索する運動家でもあった。

歴史的にみると啓蒙と抵抗は繰り返しながら支配者の権力をさらに強める結果をもたらしてきた。民主主義の礎とされるフランス革命の自由・平等・平和も結局は更に進化した支配体制を生む結果となった。技術の発達は人間を解放するものであるはずが、人間を更なる危機にさらす結果をもたらした、その象徴が原子力帝国だ。これを支配するテクノクラートと技術者が危険性を隠蔽し利権をむさぼっている。ここには民主主義は存在しない。

現代社会では機構の中で従順にその役割を果たすものが評価をうける。受動性がさらに高まり、理性の腐食が進んでいる。農業においても売れる種だけが重んじられ、種の多様性は否定されていく。この代案としてユンクは「未来工房」というものを提案し実践した。技術者と市民運動が一体となったものだ。この集まりでは批判を排除せず、多様性を包括する。自分の意見がいえるので人々は大いなる創造力を発揮する。失敗をしてもそこから学ぶという哲学がコアとしてある。

「実験的世界」から世界は変わっていく。このユンクの予言と希望は未だ達成されていない。しかし、今という時代をどういきるか!についての指針は明確だ。「どうせ・・」はわが身を滅ぼし、社会も崩壊させる。だからこそ思索と挑戦はわが身を守り、この社会を崩壊から守る盾となりうる。その努力を怠ってはならない。

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