見出し画像

後藤広史他「ソーシャルワーカーのソダチ」生活書院


わかるようでわからない分野。しかし、これからの未来を考えると極めて重要な分野。少し知ってみたいという好奇心で読んだ。著者は地方の短期大学でソーシャルワーカー育成に携わっている教育者だ。俺と同じ教育現場の人だ。ソーシャルワーカーとは具体的にどんな職業なのか?わかっているようでわからない。ケアワーカーと何が違うんだろ?正直なところ明確な境界線ははっきりしていない。

「社会福祉士及び介護福祉士法」の誕生でその曖昧さが一層高まったらしい。ソーシャルワーカーに該当する職業は多岐にわたる。児童福祉司、知的障害福祉司、社会福祉協議会職員、特別養護老人ホーム相談員、児童指導員、障害者施設支援員等・・。資格としては社会福祉士、精神保健福祉士といった国家資格だが、日本標準職業分類には出てこない。つまりソーシャルワーカーが職業として育っていないという現実があるということなのだそうだ。俺は初めて知ったのだが、ソーシャルワークのグローバル定義がある。

「ソーシャルワークは社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する実践に基づいた専門職であり学問である。社会主義、人権、集団的責任および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは生活課題に取り組み、ウェルビイングをたかめるよう、人々やさまざまな構造に働きかける」。この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい」・・なんとも長ったらしい・・という印象。まずこの定義を変えたほうが良くないか?なんて素人考えに思ってしまうが、業界ではこれをもとに教育が展開されているらしい。

本著を手にとってみて有益だったことが3つある。1つは「ソーシャルワーカーの掟」がわかったこと、2つめはソーシャルワーカーのルーツがわかったこと、3つめはソーシャルワーカーの課題について認識が深まったことだ。

1つ目の掟だがこれは「利用者と私的な関係になってはならない」つまり物の授受等は絶対にしないことなのだそうだ。どこまでも公的な立場としての中立性をはかることが重要なのだろう。

2番目のルーツは「ケースワークの母」といわれるM・E・リッチモンドという方だそうで、1905年に発表した「改革の小売的方法」が今後のソーシャルワーカーのあり方にヒントになるそうだ。

3つ目は専門家視線からの脱皮・・・ようするに答えのない分野であるから、常に利用者の目線に立つことが求められているし、「教えない教育」(学生に余白をあたえる教育)が大事になってくるというわけだ。今時のことばでいえばアクテイブラーニング型学習ということになってくるだろう。

利用者はどこかで負い目をもっており、彼らが「人の役に立ちたい」と思っている場合も多い。それを読み解くことで対応のしかたも違ってくるわけだ。ステレオタイプの対応は害のもととなる。これは教育の現場に直結する内容でもある。どんな職業でもコアになるスピリットはあるはずだ。それを忘れたらマイナス要因しか残らない。このソーシャルワークは別に特別なステージのことでなく俺たちが生活の中ですべき哲学・スキルなんだろうな・・ということを感じる。「教える」という仕事をさせてきただいている者として重要な視点を与えてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?