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伊藤氏貴「奇跡の教室」小学館


副題は「伝説の灘校国語教師・橋本武 エチ先生と『銀の匙』の子ども達」となっている。私立学校だからこそできた「3年間で文庫本1冊の授業」「わからないことは全くない」領域まで1冊を味わいつくす崇高な「遅読」「味読」(スローリーディング)。この授業がたくさんの生徒を東大へ導き、日本のリーダー達の人生の背骨を作っていく。

「横道こそが王道!」この授業を可能にした橋本先生とは、どんな人なのか?どんな学びの実績をもってらっしゃるのか?読んでいてハッとさせられた。諸橋徹次(漢字研究の第一人者)である。世界最大の漢和辞典である「大漢和辞典」の編集に携わっていたのだ。

そこで培った学びの力をもって読み込んだ『銀の匙』は「奇跡のプリント」を生みだすことになる。一冊の文庫本から日本の古典、詩の世界、中国の兵法、アラビアンナイトまで、エチ先生の果てしない宇宙にいざなっていく授業・・・聞いているだけでゾクゾクしてくる。

この「奇跡のプリント」にはこの宇宙への自分の思いが描けるような工夫が緻密になされているらしい。見てみたいものだ(ポートフォリオの天才ともいえる)。それにしても、こういう教育こそが真の国際化につながるんだなあとつくづく感じた。

橋本先生に育てられたあるリーダーの方が言っていたことで「海外で安倍仲麻呂の詩「天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも」が紹介できることが大事。真の国際化は足元をしっかりみることから始まる。」という下りがあって、胸にズシンと響いた。こういう教師がいたということを知ったことが俺にとっての幸福だ。大切にしたい。

<橋本先生の名言集>

「追体験こそが、学ぶ意欲を引き出す」

「季節のグラデーションを察知する感受性こそが『気付き』の力につながり、興味を起こして学んでいく姿勢の基礎になっていった」

「学ぶ力が弱い学生は学びの背骨、体幹が弱い人だ。壁を前に『なんとか乗り越えてやる』と腕まくりする学生は読書量の多い学生である。」

「国語は学ぶ力の背骨である」

「行間を読む」に留まらず、「行間に書く」ことが新しい眼をつくりだす。

「正解よりも自分の興味に忠実であれ」

「還暦からが第二の人生。全然やったことないことを始めるのにちょうどいい時期です」


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