見出し画像

パトリク・オウジェドニーク「エウロペアナ」白水社

本著は歴史本でありながら、当時の時代に生きた民衆の意識を視点において、物語的に展開されている。ちっと変わった本だ。第1次世界大戦時のドイツ人と周辺国の人々の考えのギャップ、宗教から距離をおくようになった人々の意識など、当時のヨーロッパの空気を生々しく描いている。

技術革新と文化の成熟が、人間の成熟にもつながると信じられていたが、実際には大量殺人、拷問などを「芸術愛好家」が率先して執行し、人々の大いなる失望につながっていった。ナチスドイツのユダヤ人虐殺の場合、民族浄化と同時に行われた「人間石鹸の製造」など、到底文明の発展とは言い難い事態が展開されたのだ。

あるドイツ人兵士が使っていた石鹸について仲間が「その石鹸は戦前お前が付き合っていたユダヤ人女性の死体から作ったものだ」と言い、その兵士が精神病院に収容されるといったことも実際おこっていたらしい。

この話は日本人にとっては他人事ではない。731部隊が満州で同様の行為をしていたからだ。話はセックスにも及ぶ。20世紀のヨーロッパで性交自体の多様性、薬等の使用が進み、この現象と同時進行でフロイトによる精神分析が進んでいく。この否定的側面を社会主義体制の国は恐れ、拒んだ。自由主義陣営において精神病患者は60年代以降急増し、フロイトを祖とする精神分析はその地位を確固たるものとしていく。

人類が待ち望んできた情報革命は、当初制度化された権力の衰退と崩壊をもたらし、真の平等をもたらすと信じられてきた。インターネット使用者はハイパーシティズンとなり真の自由を獲得するはずだった。ところが実際には毎週一つの言語が世界から消滅し、3500ヘクタールの森が消失している。

地球上の96%の住民が240の言語を話し、残り4%が5821の言語を話し、話者が1人しかいない言語は51だという。これは知らなかったが1996年国際連合がユニヴァーサル・ネットワーク・ランゲージと称するプログラムを発表している。人間が作ろうとした世界は未だ実現していない。未来に何が待っているかわからない。権力者のロジックには騙されない。その様子をじっくり観察してやろうといった意地悪な視線が印象に残った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?