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若き日の父の回想

父は「作る」のが得意な人だった。
母が不在だったある日、父は昼食にオムライスを作ってくれた。
食堂で出されるような本格的なオムライス
 細かく刻んだハムや野菜入りのケチャップ御飯、ふんわり黄色いオムレツ
 「お父さん、すごい!お料理上手だね」
 「お父さんはコックさんになりたかったんだよ」
たぶん、それは幼い娘を喜ばすための優しい作り話
 
ちなみに、料理の苦手な母のオムライスは薄焼き卵で白いご飯を包んだもの ~それでも、幼い私は喜んで食べていた なつかしい母の味。
 

生家のあまり広くない庭には、所狭しと多種多様な植物が植えられていた。
海に近い温暖な気候の地だったので四季折々の花が咲いた
ぶどう棚まであった。夏の昼下がり、ぶどう棚の下にゴザを敷いて寝転ぶ
生い茂る葉や、まだ青い小粒なブドウの房を見上げた記憶が残っている。
盛夏の日差しに透けた緑が、宝石のように輝いて見えた。

庭の土を掘って大きな瓶が埋め込まれ「池」が作られていた。
満々に張った水の中にはホテイアオイ、赤い金魚やメダカが泳いでいた。

毎年梅干を作るのも、父の役目だった。私は梅干が大好き。
天日干しで大きなザルに並べられた大粒の梅干し。
見ているだけで口の中に酸っぱい梅干しの味が広がってくる。
しょっちゅうつまみ食いして怒られた。それでも食べたくて、隅っこの方に干されていた紫蘇を千切ってこっそり食べた。

草餅も手作りした。野山でヨモギの葉を摘んで、大きなすり鉢にすりこ木でゴリゴリ。香しいヨモギを混ぜた上新粉で丸いお団子をたくさん作った。
白いお団子も丸めて、私の好きなみたらし団子も作ってくれた。
醤油と砂糖のとろ~りと甘辛い飴色のたれ。

 
父は大の甘党。甘いものが大好物だった。
ある年の父の日に、町のお菓子屋さんに行ってお小遣いでショートケーキを一つ箱に入れてもらい、父に渡したことがある。
こんもり白い生クリームの上に真っ赤なイチゴが乗っていた。
イチゴは私の大好物。食べたいのを必死で我慢した。
でも、どうしても視線がイチゴに向いてしまう。
そんな私を察して、父は太い指でイチゴをつまんで私の口に入れてくれた。

 
父を思い出す時、真っ先に明るく温かな記憶が次々と湯の様に沸いてくる。
父は平凡な人だった。我慢強く勤勉ではあったが、頑固でくそ真面目。
人並みに欠点も多かった。若い頃は特に怒りっぽく、兄や私を叱る時、父の顔は大魔神のように怖ろしかった。
それでも、短所より、長所や美点が先に思い出されるのは、父の人柄の良さ、娘の私への愛情の証なのだと思う。


 ☆ 今日の写真は、サギソウ(鷺草) 
白い鷺が舞い飛ぶような花の形から「サギソウ」の名が。
この山野草の存在も、名前の由来も亡き父に教えてもらいました。

≪ ここに掲載する花や鳥の写真は、私が撮影したものです。
 文章といっしょにご覧いただければ、幸いです。≫

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