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【知られざるアーティストの記憶】番外:まさに「泡日記」!青葉犀子さんの『よか に ふる』に励まされる

イラスト:hohoさん

こんな些細な出来事の記述は、読者の皆様にはつまらないんじゃないだろうか。彼を愛していた私が記録しておきたい自己満足を満たすにすぎず、読者様はそんなことより早く答えが知りたいか、少なくとも話の展開に関わる重要な事項のみを読みたいかもしれない。

実は、執筆を続けながら常にそんな問いと向き合い続けている。 

そんなとき、coucouさんを通して知り、その清楚で深みのある文章に憧れていたnoterの青葉犀子さんの『よか に ふる』を手に取った。

(犀子さん、ごめんなさい。購入をゆっくり検討している最中、近くに購入されたかたからお借りするという幸運に恵まれてしまいまして、購入する前に読ませていただきました。)

手に乗ってしまうほどのかわいらしいサイズなのに、隅々にまで工夫と愛情とこだわりを行き渡らせた、美しくセンスあふれる装丁にため息がこぼれた。

中身の文章もそれと同様、隅々にまで思いを行き渡らせ、丁寧に選ばれた言葉が並んでいる。気は抜いていないのだけど、余分な力はどこにも入っていない、瑞々しい文章。そして、同じ人の一本の人生の中で出会ってきた体験とは思えないほどに、語られる物語の背景やジャンルがバリエーションに富み、彼女の様々な側面を見せてくれている。人生の様々な時期における出会いと体験と、それに反応してきた彼女の感性がすべて今の彼女につながっているんだなあ、と感じる。

そこで、「泡日記」。彼女のnoteにも「泡日記」をタイトルに冠する記事が多くあるのだが、『よか に ふる』は3章構成のうち最終章が「泡日記」となっていた。

(再びごめんなさい。私は読み終えて急いで持ち主に返してしまって、ただいま手元に本がない状態でこの記事を書くという無謀なことをしております。「よかにふる(ZINE)」のリンクから目次は見られます。)

本が手元にないので、私の記憶からの言葉になってしまうのだけれど、この本の「泡日記・はじまり」の中で、犀子さんにとっての「泡日記」とは何かが語られる。それは、彼女の寝ている右側には息子さんが彼女の体に足をくっつけて寝ていて、そのいつもと同じ寝相であるとか、左側は犬と触れていて、その命の感触など、彼らと触れている日々における内面の感覚――それは書き留めておかないと泡のように消えてしまうもの――を書き留めておきたい、そんな思いだったような気がする。(ニュアンスが違ったらごめんなさい。あくまで私の記憶というフィルターを通した言葉です。)

そうか、私が書いておきたい彼の記憶も、私にとっての「泡日記」なんだな、と私は合点した。犀子さんの文学は私に、読者にとってはどうでもよいエピソードかなと思えてしまうような些末な彼との思い出も、ちゃんと自分の感性とつながった丁寧な言葉選びで綴っていけば、読む人の心の中にある体験や感性ともどこか重なって、文学になり得るのだということを教えてくれた。文学に触れる人にとっては常識かも知れないけれどね。

「些末なことを深く書く。」
ボキャブラの乏しい私にはさしあたり「深く書く」としか表現できないが、これこそきっと文学が長年やってきたことなのかもしれない。これまで私は「題材ありき」で、自分が深く感動したネタ(つまり、些末ではないこと)を題材にエッセイをほぼ専門で書いていたのだが、これはぶっちゃけ文章が下手でも内容で勝負ができてしまうものなのだ。私が文章を書く動機は自分が感動した体験を伝えたいということだったので、文章自体を上手に書けるようになりたいという願望があまりない。なるべく私の思いをそのままに届けたい、ということだけに心を砕いていた。

私が今書いているものも、全体として見ればそれと同じなのであるが、うーん何が違うのだ?体験に基づいたノンフィクションは限りなくエッセイに近いけれど、ドカンと感動した部分だけをまとめて書くエッセイとは違って、少なくとも今私が書いている物語は、どんな些末な記憶であってもなるべく残したい、そのどれもが彼を構成する一部であり、今の私につながるものだから、という気持ちで取り組む。だから、些末なことほど丁寧に、自分とのつながりを意識しながら描写していくことを心がけたいと改めて思った。

犀子さんの書かれる文章は、私とは極めて近いジャンルで、彼女の感性にはいちいち共感する部分が多くて、表現力は遥かに上なので、とても勉強になるとともに励ましていただいた。

みなさんもぜひ、「泡日記」に触れてみてください♪

<青葉犀子さんへ>
突然のご紹介に、驚かれたと思います。普段はたまに読ませていただき、コメントも一度だけつけさせてもらったかな?程度の交流でしたので。犀子さんの文章にはいつもひそかに温かさと刺激をいただいておりますが、今回「泡日記」の意味を知ったことで感動して、衝動的にこの記事を書きました。お許しください。そして、いつも素敵な言葉を届けてくれてありがとうございます。

※ヘッダー画像にはhohoさんのイラストを使わせていただきました。
 三日月を見上げて物思いにふける人魚さんですが、三日月をどうしても入れたくて、人魚さんの体を入れることができませんでした。素敵なイラストを使わせていただき、ありがとうございます。


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