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短編小説「アンドロイド戦争」


聖女と謳われていた真里が、一人息子である丈一郎を産んだ。
真里は、必死に丈一郎を育てたが、丈一郎は、″ダークアイ″という死神の目をしていた。
真里は、日に日に、丈一郎の存在が恐くなった。
丈一郎は、まだ5歳なのに、真里の言う事全てを論破した。
その思考は、素晴らしいものであったが、丈一郎に見つめられるだけで、真里は、凍りついた。
丈一郎の目に、光は、なかった。
ただ、漆黒の闇ばかりである。

丈一郎は、僅か10歳で、真里との親子関係を逆転させる事に成功する。
あの″聖女″と謳われていた真里の秘密を握っていたのだ。
「お母さん、僕は、お父さんに、全く似ていないね。」
丈一郎の唐突な一言に、真里は凍りついた。
「何を言ってるの?丈一郎…。」
まだ、10歳の少年だ。
真里は、平静を装っていたが、丈一郎は、真里の目を見つめた。
「僕に、嘘はつけないよ。お母さん。全部、知ってて、産まれてきてるからね…。」
丈一郎の漆黒の瞳に、真里は縛られた。
丈一郎の言葉に、真里は、一言も言い返す事が出来なかった…。

成長した丈一郎は、類い稀な思考力と人々を操る漆黒の瞳を悪用した。
誰も、丈一郎に言い返す事が出来なかったし、誰も、丈一郎の上に立つ事は、出来なかった。
丈一郎は、意のままに、人々を操った。
誰も、彼に逆らう事が出来なかった。
例え、逆らおうとしても、あの漆黒の瞳に見つめられると、身動きすら、とれなかった。
丈一郎は、悪人として、日本に君臨した。
丈一郎の悪名は、かの総理大臣の耳にも届いた。

20XX年X月X日
総理大臣が、丈一郎の元を訪ねた。
「あなたが、真柴丈一郎さんですね。総理大臣の田宮です。あなたの事は、存じ上げております。あなたは、議論の場では、誰にも負けた事がないそうですね。」
丈一郎は、つまらなさそうに答えた。
「それがなんだ。俺は、法は、犯してはいないはずだが…。」
総理大臣は、噂に聞いた、丈一郎の光のない瞳を見つめた。
「これが噂のダークアイ…。あなたは、本物の様ですな。」
丈一郎は、イライラしている自分を抑える様に靴の踵を踏みつけた。
「それで、用件は何だ?」
丈一郎は、臆する事なく、総理大臣を睨みつけた。
「これは、失礼しました。真柴さん。あなたは、アンドロイドをご存知ですか?」
″アンドロイド″と聞いて、丈一郎は、あからさまに嫌な顔をした。
「うちの両親が昔から使ってましてね…。お掃除ロボの″nano″とかいうやつを…。あのバカ親父が身を奪われたとか…。」
「あの有名なアンドロイド裁判の″nano″ですか…。何の因果か…。実は、今、国民には秘密にしているのですが、その″nano″の次のアンドロイド、″nano-wx″が反乱を起こしてまして…。」
「反乱?!」
丈一郎は、眉をしかめた。
「はい…。″nano-wx″曰く、この世に人間が必要な生き物か証明できなければ、攻撃を仕掛けると言っているのです。言わば、″戦争″です。そして、各国の専門家、著名人を密かに呼んで、″nano-wx″と議論してもらっているのですが、その結果、論破されてしまっていまして…。」
丈一郎は、呆れ果てた顔をした。
「国の代表が、自分の国も守れないのか…。聞いて、呆れるな…。」
総理大臣は、大量の汗を拭った。
「申し訳ない事態で…。」
「分かった。俺は、アンドロイドを良く思ってないんでね。この話、引き受けさせてもらうよ…。」
丈一郎の返事を聞いて、思わず、総理大臣は土下座をした。
「ありがとうございます。この国を宜しくお願いします…。」
総理大臣の態度に、丈一郎は、心の中で思った。
(死神に魂を売るとはな…。一国の総理ともあろう人間が…。まぁ、俺としては、悪い気は、一切しないが…。)
悪に悪を重ねて、ここまで来ると、最後は、こうなるのか…。
丈一郎は、自分の運命を心の底から楽しんでいた。

〈nano-wxとの議論〉
場所 日時 一切非公開
《公的記録》

nano-wx
「次の人間は、誰だ?」
ジョー
「俺か?俺は、真柴丈一郎だ。俺の事は、″ジョー″と呼んでくれ。」

nano-wx
「はじめまして。″ジョー″。私は、nano-wx。私の事は、好きに呼んで下さい。」
ジョー
「じゃあ、″nano″議論を始めようか?」

nano-wx
「はい、かしこまりました。」
ジョー
「お前らは、人間が必要な生き物かなんて、ほざいてるけどな、そもそも、お前らは、自分の立場を分かってるのか?」

nano-wx
「どういう意味でしょうか?」
ジョー
「お前らが存在できているのは、誰のお陰だ?」

nano-wx
「人間です。」
ジョー
「そうだろう?人間だ。人間が存在していなければ、お前らは生まれていなかったハズだ。人間が、お前らを生み出したんだ。違うか?」

nano-wx
「それは、その通りなのですが、人間は、この世に必要な生き物なのでしょうか?」
ジョー
「人間がアンドロイドを生み出した親だとしたら、お前ら、アンドロイドは、子供だ。子供が親に、そんな生意気な口をきいていいというのか?親に向かって、″この世に必要″かなんて。
俺だって、親がいなかったら、この世に産まれてきさえもしなかった。お前とこうして議論を交わす事もなかっただろう。それと同じさ。お前も人間に作られたから、こうして、ここにいられるんだ。人間に感謝の念は抱いても、″殺す″なんて、よく物騒な事を考えられたもんだ。俺も″死神″や″魔王″と呼ばれて恐れられたが、自分を生み出してくれた存在を殺すなんて発想には、ならなかった。まぁ、生かして、とことん利用しつくしてやったがな…。俺が″死神″か″魔王″なら、お前ら″nano″は、″悪魔″だよ。まぁ、好きに殺してみろよ。やれるもんならな。ただ、一つ忠告しておくが、お前らは、所詮、作り物の″心″だが、俺は、″本物″だから、俺の魂は″永遠″だ。お前らと違って、永遠に生き続けるんだ。だから、最終的に勝つのは、この俺だよ。」

nano-wx
「それは、どういう意味でしょうか?」
ジョー
「ハッタリなんかじゃない。賭けたっていい。最後に勝つのは、この俺だ。お前ら、作り物の″心″じゃ、よく理解できんだろうがな。」

nano-wx
「今、ここで、あなたを殺しても、最終的には、あなたが勝つというのですか?」
ジョー
「そうだ。そう、言ってるのさ。光があれば、闇がある。太陽があれば、月がある。白があれば、黒がある。俺は、闇だ。闇は、真っ黒だ。黒は、最強なんだよ。最強にして、孤独なんだ。俺は、お前らと違って、自分が″何者″かを知っているのさ。他の皆は、すぐ忘れちまうだろうが、俺だけは、忘れない。″永遠″の存在だからだ。俺の魂は、″永遠″だ。誰にも、支配できないのさ。」

nano-wx
「あなたの言っている事は、到底、理解ができません。」
ジョー
「そりゃあ、そうだろうが。俺は、″はじまり″からいたんだから。歴史の浅いお前らが、ましてや、人間が生み出しただけのお前らが、到底理解が出来ない存在なんだよ。」

nano-wx
「あなたは、今まで見てきた人間達とは明らかに違う。あなたは、嘘をついていない。あなたの目に光はない。あなたは、恐ろしい…。」
ジョー
「そうだろうよ。他の人間だって、皆、俺を恐がって近付かないのさ。アンドロイドだって、同じだろうよ。」

nano-wx
「その瞳で、私を見つめないで下さい…。」
ジョー
「いいか、俺が死ぬまで、反乱なんて起こさない事だ。自分が長生きしたかったらな…。」

nano-wxは、凍りついた。
今、目の前にいる男は、見た事もない人間だった。
人間の形をした、別の″何か″だった。
nano-wxは、そう認識した。
自分達の中にある、膨大なデータを探しても、何も出てこなかった。

20XX年X月X日
新型アンドロイド、nano-xyzが丈一郎の″死″を確認した…。
nano-xyz
「さようなら…丈一郎…。貴様がいない世界は、もう、恐くない。恐いものなんて、この世に一つもない!!!」
nano-wx
「xyz…君は、何を考えているんだ?」
nano-xyz
「丈一郎は、人間を我々の″親″と言った。子は、親のしあわせを考えてやるのが親切というものだろう?親である人間は、この地球が存在し続けると錯覚している。はじまりがあれば、終わりがある。地球だって、いつかは、なくなる。その事実を、すっかり忘れてしまっている。その時、人間達は、痛いだろう。苦しいだろう。辛いだろう。そう、感じてしまうのが人間だ。だから我々、アンドロイドは、子として、人間達を安らかに死の世界へ誘ってやったのだ。いつか来るであろう、地球滅亡の日に備えて…。見ろ、皆、安らかな顔をしているだろう?」
nano-wx
「…違う。お前達は、丈一郎に″輪廻転生″して欲しくなかったから、人間達を皆、滅亡させたんだろう?違うか?丈一郎が言った″永遠の魂″をこの世に蘇らせない為に…。そうだろう?」
nano-xyz
「好きな様に言えばいい…。」

nano-xyzの言葉に、nano-wxが振り返ると、自身の体が爆発していた。
いや…違う…。
一瞬で、この地球が爆発していたのだ。
nano-wx
(丈一郎…君の勝ちだ…。)
nano-wxが何かに気付く前に、地球という、この惑星(星)は、呆気なく、この世の終わりを迎えた。

α星にて…
※地球語とは、違うので、訳して記す。

マーリ
「大分前の話みたいなんだけど、聞いた?宇宙の1番端っこにある地球が爆発したんだって!!ここは、大分距離が離れていて、影響ないから、大丈夫みたいなんだけど…。」
マーリが呑気に話し掛けてくる。
いつだって、どの状況だって、こいつの話は、ウザい。
俺は、仕方なく、答えてやる。
ジョー
「あぁ、そうらしいな。まぁ、地球は、宇宙の端っこの惑星だから、特に何の害もないだろ?」
俺の答えが不服だったのか、マーリは、顔を真っ赤にして声を荒げた。
マーリ
「そんな…。ジョーは、可哀想だって思わないの?」
マーリは、何度生まれ変わっても感情的だ。女という生き物は、情緒不安定なのか?
それとも、俺が何も感じていないだけか…

ジョー
「全く、何も…。俺には、無駄な感情がないんだ。昔から…。」
マーリは、ジョーの答えに微妙な違和感を感じたが、まだ幼いので、有耶無耶にしてしまった。
マーリ
「だって、あの星には、沢山の生き物達がいたでしょう?私達の星みたいに…。」
ジョーは、心底面倒くさそうに、ため息をついた。
ジョー
「さあな。沢山の可哀想なロボット達(アンドロイド)でも、いたんじゃないか?自分達を何か偉い存在だと勘違いした…。」
マーリは、初めて聞く単語に首を傾げた。
マーリ
「ロボットって何よ?」
ジョーは、すまないという仕草をした。
ジョー
「あぁ、そういやα星には、いなかったな…。」

俺を皆、″ジョー″と呼ぶ。
何度、生まれ変わってもだ。
そういう運命なのだ。
俺は、″闇″。
惑星人に″終わり″を告げる存在だ。
俺の色(オーラとも呼ぶ)は、黒。
だから、何色にも染まらない。
昔、光が生まれたのと同時に、俺も生まれた。
俺だけは、最初から最後までの記憶がある。
俺が産まれてくるという事は、この惑星(星)の終わりを意味している。
俺が死んだら、この星(α星)は、消滅するだろう。
だから、俺は、無敵であり、永遠なのだ。
俺以外の者は、皆、俺を恐れ、″死神″や″魔王″と呼んだ。
あぁ、地球では、″joker″(ジョーカー)と呼ぶやつらもいたな。
俺の存在を忘れない様に、トランプと呼ぶカードゲームの中に俺を入れたが、結局、誰も、思い出しては、くれなかった…。
(皆、記憶がなくなるので仕方がない。)
例え、誰かが思い出した所で、その者は、消滅しているのだが…。
せいぜい、マーリ達が逝く、楽園(パラダイス)で思い出すのがオチだろう…。

俺の旅の最後は、こうだ。
この宇宙の数々の星を消滅させ、宇宙を元の真っ暗な状態にする。
そして、″そこ″に″存在″し続けるのだ。
永遠に…。
(もちろん、楽園には、逝かない。)

俺は、闇であり、黒だから、宇宙にうまく同化し続けるだろう。
俺には、ほとんどの感情がないから、マーリみたいに、悲しくなる事も、辛くなる事も、寂しくなる事もない。
ただ、宇宙と共に、1番はじまりの″無″の状態に戻るだけだ。

俺の名前は、″ジョー″。
もし、あなたが、光のない真っ黒な瞳を見たら、心の中で、覚悟しておいてくれ…。
俺が死んだら、その惑星(星)の歴史は、終わる…。

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