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詩「彩、ふたたび」




「この荒れ果てた大地に、また花が咲くとは思わなかった。」
彼女は、静かに、そう口にした
私達は、神妙な面持ちで、其の声の湿度を想った

この大地にどんな事が起ころうとも花は咲くのだ
(人間だけが、様々な手段で汚してきた。)
人の想像を超えた異常な事態は、未来を信じる力さえも奪った

人の記憶は消えて行く
しかし、大地は憶えているのだ
かなりの時が過ぎて行ったが
去るのは活動している者のみである
大地は、そこに
あり続ける

大地は、騒ぐ
大地は、喜ぶ
姿、容姿かたちは変わったが
彼の方が帰ってきたのだ
この地へ
まるで、この場所に立つ事が当然かの様に…
導かれる
引き寄せられる
強大な引力によって
もう戦は終わったのだ

野の花が咲き誇り
風の囁きが茎を揺らす
土の歓喜の大合唱
彼の方の魂が返って来る
我々の元に
喪失感が満たされる

今こそ
声高らかに
愉悦を謳おう

この哀しみが
沸き起こった地に
溢れんばかりの
彩、ふたたび


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