羽風 かおる HAKAZE Kaoru

フィギュアスケートの芸術性に注目した鑑賞記を書いています  京都芸術大学通信教育部卒

羽風 かおる HAKAZE Kaoru

フィギュアスケートの芸術性に注目した鑑賞記を書いています  京都芸術大学通信教育部卒

最近の記事

桜の花びらになって

ひらりとした衣装が似合う男性はこの人以外に思い当たらない。フィギュアスケートで《春よ、来い》を踊った人は、桜の花びら、そのものになっていた。 《春よ、来い》を見たのは、2022年の初冬に開催されたプロローグ八戸公演。 散る桜をピアノの音に変えたような清塚信也の演奏は美しく、その音楽に身を委ねながら、目には美しいスケートに見惚れていると、技のスピンやターンの動きに合わせて桜の花びらがリンクに舞い散った。曲調が盛上がると、ふっくら咲いた桜がリンク一面に広がった。観客はくるくる

    • 春風が吹く

      ふわっと風が吹いていったような空気感がしばらく会場に残った。その風はふんわりとあたたかい、春風。紫色のグラデーションとオフホワイトでコーディネートされたペア選手の衣装は、女性には薄紫色と桜色の花があしらわれている。美しい衣装だ。その二人は物語の妖精のようにフリースケーティングを滑りきる。 2023年3月23日、世界フィギュアスケート選手権のペア種目では日本初となる優勝が三浦璃来・木原龍一ペアによってもたらされた。物語《Atlas: TWO》は、ライアン・オニールが率いる音

      • Gravity その手に引き寄せたもの

        Gravity is working against me. 「Gravity」、エレキギターがカッコいい音楽で、スローな曲調にヴォーカルの声量があがるところがいい。軽やかでゆったりしたビートが聞き心地よく、ジョン・メイヤーの歌に宇野昌磨のスケートがのっていく。テンポの穏やかさから、その一挙手一投足を集中して見ることができるプログラムだ。 振付はステファン・ランビエール、1ポーズでも格好良く見える振付がいつも印象的で、宇野昌磨が演じる《Gravity》はスケーティングを大き

        • 新しい物語のはじまり

          数多くの歓喜を競技の舞台に残して、2022年7月、プロフィギュアスケーターとして出発した羽生結弦の初となるアイスショー「プロローグ」が11月に横浜で、12月に八戸で開催された。北東北にある青森県八戸市は氷都という。都といえば、花の都、水の都、芸術の都、いろいろ聞くものの、氷の都ははじめて。その名はアイスショーの会場となったフラット八戸ほか、YSアリーナ八戸、テクノルアイスパーク八戸といったスケート施設をおき、スケート文化を育んできた八戸市の歴史に由来している。 JR八戸駅改札

        桜の花びらになって

          その名と向き合う

          ピアノの美しい和音のはじまりは、水のなかで透明の泡が浮き上がっていくような様子を連想させる。その音楽が映画『千と千尋の神隠し』の曲だとわかると、リンクに登場した白の衣装を着た人はハクだと想像されただろう。 ハクは『千と千尋の神隠し』の登場人物。本当の名前を忘れて魔女の湯婆婆に仕える少年で、神隠しの世界に迷い込んできた少女の千尋を助ける龍だ。千尋によって本当の名前を思い出す。その名は「ニギハヤミコハクヌシ」。千尋は川で溺れかけたときの出来事を思い出し、自分を助けてくれた琥珀川

          その名と向き合う

          氷上の舞いに寄せて

          はじめまして 羽風かおると申します。フィギュアスケートの鑑賞歴は20年です。 さて、フィギュアスケートの見どころは氷上で展開される回転や跳躍、スピード感のある流麗な身体表現にありますが、プログラムをじっくり鑑賞すると、世界の様々な芸術要素を取り込んだ多層的な舞踊といえます。魅力はどこからでも引き出すことができ、音楽、物語、多様なジャンルと融合する芸術作品となって観る者に何かを思い描かせ、悦びを与えてくれます。 スポーツ競技のフィギュアスケートでは、選手が技と表現力を競い、

          氷上の舞いに寄せて