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春風が吹く

ふわっと風が吹いていったような空気感がしばらく会場に残った。その風はふんわりとあたたかい、春風。紫色のグラデーションとオフホワイトでコーディネートされたペア選手の衣装は、女性には薄紫色と桜色の花があしらわれている。美しい衣装だ。その二人は物語の妖精のようにフリースケーティングを滑りきる。
 
2023年3月23日、世界フィギュアスケート選手権のペア種目では日本初となる優勝が三浦璃来・木原龍一ペアによってもたらされた。物語《Atlas: TWO》は、ライアン・オニールが率いる音楽プロジェクト Sleeping At Lastの曲にのせたもの。TWOと聞けば単純に二人を連想するけれど、この音楽の「TWO」は9つあるパーソナリティのうちの二つ目を曲にしたもので、GIVER(与える人)の愛を歌い上げているという。
 
It's okay if you can't catch a breath
You can take the oxygen straight out of my own chest
息ができなくても大丈夫
あなたは私の胸から酸素を受け取ることができるのだから
 
でも、自己犠牲を厭わない愛だけでなく、愛される方法も学ぼうと歌われている。
I just want to learn how, somehow, to be loved myself
 
フィギュアスケートのペア種目は、女性と男性の揺るぎない信頼によって引き出される技に一体感があるほど感動が増す種目だが、二人の絆の必然がつくりだすものにも胸がうたれる。三浦・木原ペアは6分間練習のときに二人の絆が見られた。出場ペアの多くは練習がはじまると、先に一人一人が自分のジャンプの確認に入っていくのだが、三浦・木原ペアはしばらくの間、手を離さず二人のスケートを確認しているのが印象的だった。

「TWO」のメロディはストリングスの音とともに軽やかに響く。明るくあたたかな曲の雰囲気に包まれながら、二人はリンクの隅から隅まで大きく広く、伸びやかに演技してみせた。コンビネーションジャンプ(3T+2T+2A)ではやわらかな風を吹かせ、スピードにのったアクセルラッソーリフトでは、高さのあるタワーの回転からふわりとした風をおこした。笑顔で向き合い、踊る二人は妖精のように見え、リンクに吹いたあたたかな空気が演技の後も長く会場を包んでいた。りくりゅうの快挙、喜ぼう。

■世界フィギュアスケート選手権2023
 2023年3月23日 さいたまスーパーアリーナ
三浦璃来・木原龍一ペア フリースケーティング《Atlas: Two》
音楽:Sleeping At Last 「Atlas: Two」(2017年)
振付:ジュリー・マルコット(カナダ)
ジャッジ詳細:総得点 141.44 (技術点 70.25 演技構成点 72.19 減点-1.00)/ RANK2(FS)

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ライアン・オニール(米国)、シンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリストとして活躍

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