見出し画像

読書を禁止された女性たち~クリス・コルファー

前回の記事では、『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』に続く新シリーズ『魔法ものがたり』が、「思いやり」を育むために書かれた作品であることをお伝えしました。

具体的には、どのような物語なのでしょうか。


実際の差別がモデル

発刊時のインタビューを見てみましょう。

クリス:当初、これは自分にとって 、簡単な仕事になるはずだったんです。 『ザ・ランド・ビフォー・ストーリーズ』だとか呼ぶ予定で 、これは儲かるぞ、なんてね(笑) 
しかし、最近の世界情勢を見たら、 いい加減なことなど、決してできませんでした。
 世の若者を勇気づけるものを書かねばと思い 、「抑圧と偏見に打ち勝つストーリー」となったのです 。
(つづく)

「抑圧と偏見に打ち勝つ」…少しハードな内容のようですね。

ー これは、女性が本を読めないお話でしたね ?

クリス:はい、読めないのです。そういうことが、実際に起きているのです。

ー 読書が許されていない、と ?

クリス:はい、女性が抑圧され、法律で禁止されているんです 。

ー まあ !

ー クリス・コルファー 2019.9.30 TV番組 NY LIVE より
https://youtu.be/0_fjlYXZ82M

画像4

『魔法ものがたり』では、いつも隠れて本を読んでいる主人公が、図書館の雑用係になったことから物語が動いていきます。
また、「魔法が使える」ということで、弾圧を受けていくようです。


タリバン政権による女子教育の禁止

このお話が、現実のどの地域のことなのかはわかりませんが、私は、2014年にノーベル平和賞を受賞されたマララ・ユスフザイさんのことを思い出しました。

▲ こちらのVOGUE誌(2020.7.22)には、

パキスタン北部に生まれたマララは、学校を経営していた父の影響もあり、幼いころから学ぶことが好きだったという。
しかし、規律が厳しいイスラム教の国で女子が教育を受けることは非常に稀だ。
それだけではない。過激さを増す武装勢力は2008年には400以上の学校を爆破し、政府は女子教育を全面的に禁止した。

と説明があります。女子教育を全面的に禁止…。

画像2

さらに、2012年にタリバンに襲われ、生死の境をさまよう経験をされたことについて、マララさん自身の言葉が掲載されています。

マララ:タリバンは失敗しました。わたしの声を大きくしただけなのです。そして今日、まだ学校に通うことのできない1億3000万人の女の子のために、私はここにいます。
(中略)
女子が教育を受けることは権利ではなく犯罪だと言われるのも、もうこれで終わりにしましょう。

勉強することが犯罪。これがまだ、昨年夏の発言なのです。

また、教育問題以外に目を向ければ、中国によるウイグル弾圧も、現在進行形の深刻な問題です。

このように、地球上ではまだまだ、不当な「抑圧と偏見」が続いているのが現状です。


本来は、LGBTQをたとえた物語

「偏見」と言えば、クリスさん自身もゲイであり、世界中のゲイの若者を励ましていらっしゃいます。

ー 「A Tale of Magic」は、単なる小説というだけではなく、LGBTQ運動の作品でもあるのですか?

クリス:僕は、そのように思いたいですね。
けれども、他の人たちがどう解釈するかについては、おまかせします。
僕にとっては、「A Tale of Magic」における「魔法」というのは、ゲイであることの譬えです。

登場人物たちは、魔法は「悪魔的で異常なもの」だと信じこむように育てられ、「魔法祓(ばら)い」をする収容所に送られます。
そして、彼らは皆、「魔法は、自ら好んで選んだものではない」と証明する使命を担っているのです。

ー In addition to A Tale of Magic being a novel, do you see it as a work of LGBTQ activism?

I’d like to think so. Although, I have no control over how other people will interpret it. For me,the magic in A Tale of Magic is an allegory for being gay.
The characters are raised to believe magic is demonic and unnatural. They’re sent to camps where they “pray the magic away.” And they’re all on a mission to prove "magic isn’t a choice."
(つづく)

画像3


誰もが受けている抑圧に打ち勝つ

しかし、「魔法」が表しているものは、僕にとってのものと、エジプトの小さな女の子や日本の10代の男の子にとってのものとでは、異なるかもしれません。

誰にでも、自分を抑えつける障害物はあります。
境遇によって異なるスティグマ(stigma、烙印、差別・偏見の対象となるもの)を、誰もが割り与えられているのです。
ですので、あなたの「魔法」が何であれ、「A Tale of Magic」は、それゆえに抑圧してくる力に打ち勝っていく物語なのです。

ー クリス・コルファー 2019.10.15 Advocate.com インタビューより

But what magic represents for me may be different for a little girl in Egypt or a teenage boy in Japan.
We all have obstacles that hold us back. We’re all assigned different stigmas based on our circumstances.
So, whatever your “magic” may be, A Tale of Magic is about overcoming the forces that suppress it.

▼ このインタビューでも、このようにコメントされています。

ー この本では、主人公のブリストルが、女性であることや魔法を使う力を持っているために差別されますね。
差別のお話という発想は、現実の生活やご自身の体験を反映しているのですか?

クリス:全くその通りだよ。
この本を「魔法のお話」と名付けたけど、「魔法」というのは、あなただって持っているかもしれない特性…そのために世間の人や住んでいる環境から抑圧されるような、あらゆる特徴や個性のことをたとえているんだ。
だから、僕の「魔法」の定義は、普通とはかなり違うかもしれないね。

僕は、誰でもその「魔法」を持っていると考えているんだ。
僕たちはみな、人に知られるのが怖いこと…そのことで判断されたり、迫害されたり、愛する人に嫌われたりする恐れがあることを抱えている。
それが、この本を書いた、大きな理由なんだ。

ー クリス・コルファー 2019.11.12 Kids Press インタビューより

『魔法ものがたり』は、イスラムの女性やLGTBQの方々だけではなく、誰もがそれぞれ受けている「抑圧」に勝っていくための物語なのですね。
この作品で、弾圧の理不尽さや、差別される主人公たちの気持ちについて読んだ子どもたちは、単なる優しさを超えた深い「思いやり」を身に着けられることでしょう。

画像4

▲ 日本語版上巻。下巻は、2022年春に刊行予定です。
小学校高学年以上。『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』を読んでいなくても大丈夫です。