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『航空エンジニアのやり直し』レビュー

小説投稿サイト「小説家になろう」において、僕が愛読している小説があります。

それが、『航空エンジニアのやり直し ~航空技術者は二度目に引き起こされた大戦から祖国を守り抜く~』です。

https://ncode.syosetu.com/n3926fe/

今回は、その魅力について書いていきます。

1.「航空エンジニアのやり直し」の世界観

「航空エンジニアのやり直し」は、御代出 実葉(ミヨデ ミヨ)さんという方が書いている、いわゆる「逆行モノ」と言われるジャンルの小説です。

「航空エンジニアのやり直し」の世界は、第二次世界大戦で日本が敗北し、ロシアに占領されたような世界観です(物語の構成上、登場する国名や企業名はすべて変更されています)。

そして主人公は、航空エンジニア、特に大学の機械科等で学べる「流体力学」の専門家である信濃忠清(しなの ただきよ)という人物です。

彼は旧日本陸軍の航空エンジニアであり、国を取り戻すために60年以上も戦い抜き、死の間際に「過去に戻ることができる実験」によって、国を救うために過去へ飛びます。

過去に戻った信濃は、現代技術の知識を持ったスーパーエンジニアです。

その技術を、過去の大戦時に使用可能だった技術で次々に再現していくという物語になっています。

2.「圧倒的な科学技術知識」が魅力!

「航空エンジニアのやり直し」の魅力は、なんと言っても作者自身の「圧倒的な科学技術知識」です。

正直にいいましょう。

電気工学を専攻し、実務経験が10年以上ある僕であっても、作者の説明が専門的過ぎて何をいっているのか分かりません。

そして、その技術の説明に関しても、「読者は当然、参考書や参考資料となる画像を手元に用意して、見ているよね?」という前提で書いているとしか思えない描写がいくつもあります。

そのため、「いや、そんなことを言われても分かりません」という読者が大多数であると思われます。

しかし、それでも「面白い」と言えるのは、作者がしっかりと現代技術を学んでいるからです。


作者は、第二次世界大戦から現在までにどのような技術発展があったのかを理解し、自分の中で噛み砕いてから、過去の技術で再現をするのであればどうなるかを考えて書いています。

さらに、技術史に残る発見や、偉業を成し遂げた技術者についても書いてあり、元ネタを調べることで、非常に勉強になります。

一見、意味が分からない科学技術知識ですが、僕は「とても難解な魔法の設定がある世界観だ」と思って流し読みをしています。

ただ、「これは現実世界ではすでに実現しており、作者の中で一本筋が通っていて、第二次世界大戦時でも実現可能だと考えている」と思うと、非常に面白く感じます。


現実世界を、技術という面で深堀りをして、世界観に深みをもたせているのが、「航空エンジニアのやり直し」の最大の魅力だと思います。

3.主人公 信濃忠清が一貫した技術バカである点が魅力

主人公である信濃忠清の目的は、共産主義から国を守ることにあります。

好感が持てるのは、「持てる技術で国を救う」という主人公の一貫した姿勢です。

つまり、ヒロイン不在で技術開発しかしていません。

そのため、彼が得意とする流体力学を用いて、航空機だけではなく様々なものに対して技術発展を試みます。

その範囲は多岐にわたり、蒸気機関車、戦車、潜水艦、ヘリコプター、ジェットエンジン、農耕器具、歩兵兵装、機関銃等を開発します。

流体力学が魔法の技術のように感じます。

しかも技術開発がメインの話であるため、物語の構成上、戦場での様子は控えめです。

あくまでも、技術開発に重点を置き、主人公が現場へ赴くのは技術的なサポートが必要となった場合のみで、自らが戦場で戦うという描写はまずありません。

自分にできることを、最大限やる点はとても魅力だと思います。

3.「航空エンジニアのやり直し」で知っておいた方が良いこと

「航空エンジニアのやり直し」は、技術開発をした後でも、試作機開発、量産、戦場への投入という3つの段階を通るため、戦場での活躍がなされるのは物語が少し進んだ後となります。

開発したものが戦場で大活躍をする様は、とても面白い場面のですが、それが遅れることは知っておいたほうが良いと思います。

唯一残念なのは、書籍化をするのであれば、挿絵や物語の基礎となる説明をしっかりと書いてくれそうなエンターブレインさん等でなければ厳しいと思う点です。

ただ、書籍化されなかったとしても、作者が物語の最後に追記しているURLを見れば、どんなものを開発しているのかを知ることができるので、問題は少ないとおもいます。

4.さいごに

「航空エンジニアのやり直し」は、科学技術、考察、歴史が好きな人にオススメな小説です。

技術史という、なかなか勉強しづらい内容を物語形式で知ることができるので、興味がある人はぜひ読んでみてほしい作品です。

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