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【005】心の鍛え方

人間は信用ならない。
試験直前に「全然勉強してない」と言う友人が本当に勉強していなかったためしがない。
失恋した女子が「もう恋なんてしない」と言いながら数週間後に新たな彼氏と歩いている。
大学時代に「トライアスロンなんて超人的スポーツに挑戦する人の気がしれない」と言っていたが、十五年の時を経て大会に参加申し込みをしてしまった者もいる。
私だ。

エントリーしたのはオリンピックディスタンス(水泳1.5km、自転車40km、ランニング10km)である。
万一、二時間少々でゴールすることが出来れば、私もメダリストに肩を並べることができる。
しかし常に私は謙虚な姿勢で物事に臨むので、当面の目標は「無事完走」である。
更に謙虚になるべく、他の熱心なアスリートに私の一枠を譲ろうと念のためエントリー要項を確認したが、もうキャンセルは出来ないようだ。

各競技に対する私の作戦は次の通りである。

水泳:これが一番の問題である。
高校生以来なので体が上手く動かせない。
下手すると溺れてしまう。
不格好でも良いから丁寧に熟すつもりだ。

自転車:平地コースが大半なのでスピードが乗ればあとは惰性で進められる。
転倒には気を付けなければならない。

ランニング:最終競技なのであとは気力のみである。
歩いてでも制限時間に間に合えば良い。

三競技をそれぞれトレーニングしないといけないため、時間の工面も大変である。
娘が寝て、育児の手間がかからない時間帯を狙って私はトレーニングしている。
朝食前の朝練か、夕食前の夕練が多い。

このように、心・技・体の内、技・体は日々のトレーニングで鍛えている。
しかし心は鍛え切れておらず、雨が降っているからランニングは止めよう、とか、気分が乗らないから自転車は止めよう、とか、妻から怒られるから机の上を片付けよう、と受け身な姿勢でいることはしょっちゅうである。

どうしたら心を鍛えられるかとモヤモヤしながら朝ランニングをしていると、急に閃いた。

心を鍛えるにあたり、まずは土台となる平穏な精神状態を手に入れなければならない。
そのためには清々しい朝を迎えられれば良い。

清々しい朝を迎えるためのトライアスロン、すなわちトライ朝スロンを提唱しようと思う。
競技は次の三つだ。

(1)朝早く(できれば日の出前に)起きて
(2)珈琲ミルで豆を挽き珈琲を淹れ
(3)トーストパンにジャムを塗り、食卓に着く

書いているだけで良い一日を迎えられる気がしてきた。

各競技に対する私の作戦は次の通りである。

起床:これが一番の問題である。
前日遅く寝ようものならば体が上手く動かせない。
気を抜くと二度寝してしまう。
妻からうるさいと言われようがアラームを何度もかけるつもりだ。

珈琲:私の持っているミルは手動である。
勢いに乗れば惰性でハンドルを回せられる。
挽き終わった後、粉をこぼさないよう気を付けなければならない。

トースト:食事までもう少しである。
多少パンを焦がしてでもジャムの甘さでごまかせばよい。

この競技の難点は、一日一回しか練習できないことだ。
どうしても朝練として行わざるを得ない。

しかし私のことだ、月日が経てば、これを朝練ではなく夕練として行っているかもしれない。

その時には昼夜逆転の自堕落な生活で、鍛えるべき心は無くなっているだろう。

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