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内科診療所に通院する人の約2割が危険な飲酒をしている可能性! 他者から心配された経験がある人はアルコール依存症を疑った方が良い!?

<5/15は国際家族デー!家族と一緒に考えたい「減酒」という選択肢>


当社社員の宋医師が、飲酒に関する最新論文を解説

毎年5月15日は国連が定める「国際家族デー」です。ゴールデンウィークにお酒を飲み過ぎ、ご家族から心配された方もいらっしゃるのではないでしょうか?過度の飲酒はがん等の重篤な疾病発症の身体的リスクだけでなく、対人トラブルなどの行動面でのリスク上昇にも繋がります。ぜひ5月15日の「国際家族デー」を、家族と一緒に飲酒について考える機会にしてみてください。

 そこで今回は、先月4月23日に発表された飲酒に関する最新論文と、手軽にできる「減酒」方法をCureApp社員の宋医師が紹介します。周りの人から飲酒について心配されたことがある人、すでに何らかの疾患で内科へ通院されている方などに必読の内容です。

<宋医師が解説!>

まずはアルコール問題のスクリーニングテストをやってみよう

 AUDIT(*1)というアルコールに関する問題をスコアリングするスクリーニングテストは、WHOが問題飲酒を早期に発見する目的で作成したもので、世界で最もよく使われています。ご自身、もしくは飲酒習慣が心配な人を想像して質問に答えてみてください。「正常飲酒」の範囲は、40点満点中7点以下です。8点から14点は「危険な飲酒」とされ、健康に色々な影響が出てくるとされています。そして15点以上だと「アルコール依存症疑い」とされています。すぐにできるので、ぜひ一度受けてみてください。

AUDITをやってみよう(久里浜医療センターWebサイトへ)

リンクから:https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/audit.html

QRコードから:

(*1): AUDITとは https://kurihama.hosp.go.jp/research/pdf/20140604_hoken-program3_06.pdf

内科診療所に通院する人の約2割が危険な飲酒をしている可能性
 

 今回紹介する論文は、学術誌General Hospital Psychiatryに掲載され私が筆頭著者を担った「 Prevalence of hazardous drinking and suspected alcohol dependence in Japanese primary care settings」(*2)です。日本の内科診療所へ通われている患者さんの危険な飲酒やアルコール依存症の有病率、他者から心配されたことがあるかなどについて調べ、その結果を報告しました。この研究は2023年7、8月に岡山、広島、兵庫、大阪の18医療機関、約1,400名の患者さんに対し、AUDITと自記式の調査票を用いて調査しました。その結果、飲酒問題に関係なく内科診療所へ通院していた患者さんの約2割が、危険な飲酒やアルコール依存症が疑われる状態であることがわかりました。

(*2): Prevalence of hazardous drinking and suspected alcohol dependence in Japanese primary care settings (https://doi.org/10.1016/j.genhosppsych.2024.04.002)

周囲から飲酒について心配されている人はアルコール依存症の疑いあり?

 同じ研究の中で、AUDIT8~14点の患者さんのうち、過去1年間に医師を含む他者から飲酒について心配されたと報告したのは22%(95%CI:16%~28%)でしたが15点以上では74%にも昇り、アルコール依存症の疑いがある方の多くが周囲の人から飲酒について心配されている現状が浮き彫りとなりました。お酒の問題を指摘されても「心配しすぎだよ」と応える方が多いかもしれませんが、実はそうではなく心配されるだけのことがあるという可能性が示されたことは意義深いと考えています。

 また、この心配される割合には男女差があり、8~14点の危険な飲酒に該当する男性のうち25%が周囲から心配されていたのに対して、女性では11%と男性の半数以下に過ぎず、女性の危険飲酒は見逃されやすいという傾向も明らかになりました。


「減酒」なら取り組みやすい、実施のポイントを紹介

 アルコール依存症の従来の治療法は断酒が中心であり、治療を受けることには抵抗感を持つ方も多く、早期治療介入が難しいという課題があります。しかし近年、重篤な身体的、精神的、社会的問題にまでは至っていないアルコール依存症の方に対する新たな治療選択として”減酒(飲酒量低減)”を目標とした治療が国内外で広まりつつあります。今年2月に公表された厚生労働省の健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(*3)の中でも、飲酒量による疾患発症リスクなどをもとに健康に配慮した飲酒基準などが示されました。そこで次に減酒に取り組むためにご自身ができること、周囲の人ができることを紹介します(*4)。

(*3): https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
(*4):https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document19.pdf

<ご自身ができる14のこと>

1. まず、お腹を満たす
2. お酒を飲む曜日を決めておく
3. ノンアルコール飲料を上手に活用する
4. 寝酒は止める
5. 1口飲むたびにコップをテーブルに置く
6. 1日3時間以上飲まない
7. 酒席ではコップを空にしない(注がれないために)
8. 上手な断り方を身につける
9. お酒を飲み過ぎてしまう相手や場所を避ける
10. お酒を飲むと検査値が悪くなることを思い浮かべる
11. お酒を減らすと健康になることを思い浮かべる
12. お酒以外の楽しみや趣味を増やす
13. 周りの人に目標を宣言して協力してもらう
14. 家族や友人と楽しく過ごす

<周囲の人ができること>

 大切なご家族やご友人のお酒の飲み方が心配な場合、どのように心配を伝えればよいでしょうか。本人から鬱陶しがられそうで、声をかけるのがはばかられる場合も多いでしょう。そこで、ここでは心配を伝えるときに使えるリーフレットとコツを紹介します。

1. まずは情報提供を行おう

 前述の<ご自身ができる14>のことを情報提供する際に使える「お酒との上手な付き合い方」に関するリーフレットを依存症全国対策センターのwebサイトからダウンロードできます。このリーフレットは著作権を放棄されているので、許諾なく翻案、掲載などが可能です。

ダウンロードはこちら
https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document19.pdf

2.相手を変えようとせず、自分の気持ちを伝えよう

 相手の行動を正そうとするときには、自然と言葉が強くなり、批判的になりがちです。ポイントは「あなた」ではなく「わたし」を主語にして話すこと。「(あなたは)お酒を控えた方がいいよ」という気持ちを「(わたしは)(あなたが)健康でいてくれると嬉しいな」「(わたしは)(あなたが)お酒でしんどくなっているのを見るのが辛い」というように言い換えてみるとよいでしょう。このような話し方の工夫は、飲酒問題や薬物問題に悩む家族のためのコミュニケーション技法として、本人の問題行動を減らしたり、本人の受診に繋がったり、家族のQOLが改善する効果があると実証されています。

お薬や減酒外来、アプリなど、「減酒」の治療選択肢は増えつつある 

 2019年には、大塚製薬が国内初の飲酒量低減治療薬「セリンクロ錠」(*5)を発売し、最近では減酒外来を標榜するクリニックも少しずつ増えてきています。また、2024年3月には株式会社CureAppが、「減酒治療アプリ」の製造販売承認申請を行ったことを発表しました(*6)。今後ますます「減酒」という取り組みが広がっていきそうです。

(*5): セリンクロ錠10mg(ナルメフェン塩酸塩水和物錠)
(*6):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000173.000015777.html

<解説>