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短編シナリオ『#3 もしも自分が極悪人だったら』

フードコートにいる卓也と翔太。
平日夕方は、2人と同じ高校生と、午前中から居座るマダム達、仕事終わりのサラリーマンがいる。

卓也「あ」

テーブルに置いた呼び出しベルが鳴る。

翔太「取ってくるよ」
卓也「マジ?ありがとう」

店に近い席に座っていた翔太がラーメンを持ってくる。

翔太「おまたせしましたー」
卓也「レンゲ2つ?」
翔太「うん」
卓也「小皿要らないけど」
翔太「ちょっと貰おうと思って」
卓也「お前そういう所だよ?」
翔太「何が?」

翔太はカツ丼を食べる。
卓也はラーメンを小皿に分ける。

翔太「この前さ、親戚が捕まって」
卓也「え、は?」
翔太「銀行員だったんだけど、300万横領したって」

翔太はスマホを開く。

翔太「ん」

翔太は卓也にスマホの画面を見せる。銀行員横領事件のニュースが流れている。

卓也「親戚って、従姉妹とか?」
翔太「母さんの父さん、えっと、じいちゃんの3番目の兄ちゃんの、4番目の娘の旦那さんの姪っ子」
卓也「……は?」
翔太「もっかい言おうか?じいちゃんの」
卓也「いやいい。いいわ」
翔太「そう?その人がさ」
卓也「お前どこまでを親戚と捉える気だよ」
翔太「え?」
卓也「その人と会ったことあんの?」
翔太「分かんねえよ。親戚の集まりって誰が誰の何か分かんないまま過ごすもんじゃん。1人他人混ざっても誰も気付かないくらい」
卓也「会ったことあるって認識がある人から親戚だろうよ」
翔太「じいちゃんが言うには、めちゃくちゃ真面目な人らしくて、横領なんて信じられないって」
卓也「へえ」

翔太「でも母さんは、あの子昔から変な子だったって」

卓也「……ん?」
翔太「小さい頃から人の物奪うし、不倫とか浮気とか普通。じいちゃん家の猫死んだ時も自分の家の猫に使うからって、誰にも言わないでキャットフード全部持って帰ったって」
卓也「怖い人じゃん」
翔太「根っからの極悪人ってこと」
卓也「怖ぇ」

卓也は翔太を見つめる。

翔太「何」
卓也「お前もその血、流れてんの?」
翔太「流れてないだろ。だってじいちゃんの、」
卓也「いいよ、いいって」

翔太は卓也から貰ったラーメンを食べる。
卓也は翔太から貰ったトンカツを食べる。

翔太「俺らが極悪人だったら何する?」
卓也「は?」
翔太「犯罪とは程遠い俺らが、もし根っからの悪人だったら何するかって話」
卓也「……水いる?」
翔太「いる」

卓也は立ち上がり、水を汲みに行く。

翔太「さんきゅー」
卓也「この紙コップさ、ボタン押したら出てくるじゃん」
翔太「うん」
卓也「ちょっと細工して、紙コップ出てこないようにする、とかどう?」
翔太「……え?何がどう?」
卓也「俺らが極悪人だったら」
翔太「……弱いよ。なんだそれ」
卓也「いや結構迷惑だよ?」
翔太「お前なあ、もっと、」

翔太、隣の席の客を見る。
若い女性が2人、笑いながらお子様ヌードルを食べる女の子が2人いる。

翔太「誘拐する」
卓也「は?」
翔太「誘拐して、身代金請求するね」
卓也「あのヤンママに?」
翔太「子どもの服見てみろ」
卓也「……あれ」
翔太「俺らでも見たことあるブランド」
卓也「身代金踏んだくれるってこと?」
翔太「そう」
卓也「……弱くない?」
翔太「弱くないよ、子ども連れ去るんだよ?」
卓也「悪人なのは分かるけど、極悪人ではないかも。もっとこう、そんなんよく思い付くな、みたいな」
翔太「紙コップに言われたくないけど」

卓也「極悪人って何を求めて極悪になるわけ?人に迷惑掛けることが快楽とか?」
翔太「……幸せとか?」
卓也「幸せ?」
翔太「他人とか自分じゃないものの幸せを貰って、自分の幸せにする、とか」

卓也・翔太、目を合わせる。
翔太はスマホを取り出して横領事件のニュースを流す。

スマホ「警察によりますと○○被告は、2週間前に同じく横領の容疑で逮捕された○△被告の部下で、○△被告が残していた裏金を横領していました」

卓也「……上司が貯めてた金を使ったってこと?」
翔太「他人の、幸せを貰って、自分の、幸せに……」


彼ら2人の間にある食べ物を、隣の席の2人が見つめていた。

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