短編シナリオ『#9 好きなものは何?』
翔太「あれ」
早紀「あ」
今学生に大人気のスイーツ「カラフルもなか」。
開店前にも関わらず、お店には大行列が出来ている。学生はもちろん、主婦、家族連れ、観光客まで様々で、土曜日の今日は、最後尾パネルが無ければ何に並んでいるのかすらも忘れてしまいそうだった。
翔太、早紀の後ろに並ぶ。
早紀「並ぶんだ」
翔太「これ何の列?」
早紀「知らないで並んだの」
早紀・翔太の後ろにはどんどん行列が出来上がる。
翔太「なんか抜けにくくなったし。ほら、行列長すぎて傍から見たら何に並んでるか分からない時とかあるじゃん」
早紀「それ見つけて引っかかったの?」
翔太「引っかかってるフリ」
翔太、前の列を眺める。
早紀「カラフルもなか」
翔太「……何それ」
早紀「分かんない」
翔太「分かんないのに買いに来たの?」
早紀「どうしても食べたいって言われたの」
翔太「誰に」
早紀、黙る。
翔太「またあいつか」
早紀「だから会いたくなかったんだよ」
翔太「もう止めろって言ったじゃん」
早紀「もう、説教するなら並ばないで」
早紀、翔太を列から追い出そうとする。
翔太「ごめん、ごめんって」
早紀、手を止めて前を向く。
翔太「カラフルもなかって、皮がカラフルなのかな、中身がカラフルなのかな」
早紀「知らないよ、興味なかったくせに、」
早紀、振り返ると翔太がスマホで調べている。
翔太「あ、両方?すご」
翔太、早紀にスマホを見せる。
早紀「綺麗……」
翔太「俺何味にしよっかなー」
早紀「買うの?」
翔太「買わないのに並んでるのは俺より後ろの人に失礼でしょ。あと普通に美味そう」
早紀「……そう」
3歩程列が進む。だがまだまだ店は見えない。
翔太「あのさ」
早紀「何?」
翔太「早紀の好きなものって何?」
早紀「……食べ物?芸能人、歌手とか?」
翔太、首を振る。
早紀「じゃあ何」
翔太「好きなもの何?って聞かれた時に何か考えてみ?」
早紀「……緑」
翔太「緑?」
早紀「うん」
翔太「自然が好きってこと?草木とか森林とか」
早紀「そうじゃなくて、緑色が好きなの。好きな色」
翔太「……あ」
翔太、早紀のスマホカバーと鞄が淡い緑色なのに気付く。
早紀「昔から好きなの、緑色。心が落ち着くというか、元気になれるというか」
翔太「そういえば、部活のバッシュ、3年間緑だった」
早紀「よく覚えてたね」
翔太「俺イロチの赤だったから」
列が進む。
早紀「……何?急に」
翔太「会社の後輩にさ、先輩は好きなものなんですかって聞かれたの。だから思い出して」
早紀「なんて答えたの?」
翔太「納豆って答えた」
早紀「……そんな好きだったっけ」
翔太「いや?あったら食べようかな、くらい」
早紀「じゃあなんで」
翔太「飯、誘ってくれようとしたんだと思う。その子のミス庇ったからお礼したいですって言われたし。でも面と向かって断るのも違うじゃん?だから料理名じゃなくて食材言って、やんわりと、こう、断って」
早紀「……翔太の好きなものは?」
翔太「んー……今聞かれるなら、笠岡神社の前って答えるかな」
早紀「高校の近くの?」
翔太「そう、覚えててくれたの?」
早紀「もちろん。よく部活の帰りに2人で寄って話したね」
翔太「うん。立ちながら何時間も喋るから足が痛くて。でも、あそこが俺は1番好き」
列が進む。店の片鱗が見える。
翔太「お、見えてきた」
早紀「場所も好きなものに入るのか……」
翔太「好きなものだからね、食べ物でも、芸能人でも、ゲームでも、場所でも、人でも良い」
早紀「人……」
翔太「最初にあいつが出ないって、本当に好きなのかなー」
早紀「……急に、聞かれたから」
翔太「急に聞かれた時に溢れ出るのが本音だろ。あいつはお前にとっての緑じゃないってこと。そいつに緑が好きって言ったことあんの?」
列が進む。
早紀、立ち止まる。
翔太「早紀、進まないと」
早紀「ああ、うん」
早紀、歩く。
翔太、付いて行く。
翔太「好きな食べ物は?」
早紀「え?」
翔太「好きな食べ物。俺はねー、焼肉」
早紀「……つけ麺」
翔太「1番好きな食べ物つけ麵なの?」
早紀「駄目?」
翔太「全然。全然駄目じゃないよ」
翔太、スマホを操作する。
列が進む。
店の入り口まであと10m。
翔太「好きなものは好き、美味いもんは美味いって言えるって、大事だと思うな」
列が進む。
早紀「え?」
店員「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
早紀、黙る。
翔太「レインボーもなか1つと……グリーンもなか一つ」
早紀、翔太を見る。
店員「かしこまりました。お会計1200円です」
早紀、財布を探す。
翔太「これで」
翔太、スマホを出す。
翔太、カラフルもなかを頬張る。
翔太「え、美味。何これ何味?美味!!」
翔太、早紀を見る。
翔太「これ、早紀のだよ」
翔太、グリーンもなかを渡す。
翔太「抹茶味だったら1口頂戴。俺抹茶好きだからさ」
早紀「……やだ」
翔太「え、なんで」
早紀「私も抹茶味、好きだから」
翔太、笑う。
翔太「なあ。腹減ってない?」
早紀「え?」
翔太「これから飯でもどうよ」
早紀「飯って」
翔太「美味いつけ麺食べられるところ、一緒に行こうよ」
終
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