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短編シナリオ『#6 幸せな人生』

早紀「スープ飲む派?」
萌子「うん。飲まない派?」
早紀「ううん、飲む派」

2人が訪れたラーメン屋は女性客が多かった。ピンクとベージュを基調とした店内はテーブル席が多く、中にはソファ席もありカフェのようだった。2人は真ん中で、木で出来た椅子に座っている。2人がラーメンに向き合う度にキコキコ音が鳴った。

早紀「スープ飲み過ぎたら寿命縮むって言うじゃん」
萌子「うん。塩分の摂り過ぎね」
早紀「でも、我慢ってストレスじゃん」
萌子「……話繋がってる?」
早紀「スープを飲まないで我慢すると、我慢した分のストレスが溜まる訳じゃん」

早紀は水を飲み干した。
暇そうにしていた店員が水を持って2人の席まで歩き、水を注ぐ。

早紀「別に、ラーメンのスープを飲まなかっただけで相当なストレスが溜まるわけではないよ?でもストレスってチリツモだから、少しの我慢がストレスのコップを満たしていると思うの」
萌子「うん、それで?」
早紀「好きな物をたくさん食べて生きるのと、健康に気を遣って生きるの、どっちが幸せかって話」
萌子「長生きしたかったら、健康気にした方が良いかもしれないな」
早紀「でも健康に気を遣う人だって自分の寿命がいつかは知らないから、一生気を遣わなきゃいけないよね」
萌子「健康に気を遣うっていうマインドなんじゃない?健康に気を遣えてるってことは自分は健康、自分は長生き出来る、みたいな」
早紀「あー、自分で洗脳してると」
萌子「悪く言えばね」

2人はスープを1口飲む。

萌子「私のひいばあちゃん、最後に口にしたものコーラだったよ」
早紀「え、嘘でしょ?」
萌子「101歳で亡くなった。120歳になったら、地下アイドルになってファンサ貰うって言ってた」
早紀「ファンキーだね」
萌子「ひいばあちゃんは健康の心配なんかしてなかったな。毎日コーラ飲んで、おばあちゃんに怒られたからって私の従兄弟のエナジードリンク奪って」
早紀「元気だね」
萌子「でもおじいちゃんは健康志向だった。ひいばあちゃん見てるから、自分は健康に気を付けたいって。でもひいばあちゃんより先に亡くなったなあ」
早紀「まあ環境とか、働き方とか、元々の健康状態とかで変わるからなんとも言えないけど、健康志向の人と、好きに暮らしてる人でもそんなに変わらないって訳」

萌子「早紀は?どっちが良いの?」

早紀「私?」
萌子「健康に気を遣って長生きしたいか、何も気にしないで好きな物を好きなだけ摂取して生活するか」
早紀「私は……」

萌子はレンゲで掬えるスープの限界を飲み干した。


早紀「自分に都合良く生きたいかな」


萌子「ふーん……あ、レンゲ入っちゃうよ」
早紀「ああ」

早紀はラーメンのスープに全て漬かりそうだったレンゲを救出した。

早紀「好きな物は好きなだけ食べたい。萌子とラーメン屋に行きたいし、休憩室の自販機で砂糖たっぷりにしたカフェラテ飲みたいし、夜は缶ビール開け寝落ちするまでを人生のセットとして組み込みたい。でも、たまに致死量のサラダ食べてみたり、休みの日に家の周り散歩してみたり、健康に気を遣ってるなー自分って思うと、自分が出来た人間でいられる気がする」
萌子「確かに」
早紀「自分が自分でいられる人生を生きたいね」

早紀はレンゲでスープを啜った。


萌子「じゃあ、それは自分が自分でいられる生き方?」


萌子は早紀の丼に入っているトマトを見つめた。

萌子「トマト食べられないのにトマト入りのラーメン頼んでるなーって思ってたんだよね」
早紀「数分前は健康志向だったの。でも今は」
萌子「今は?」
早紀「好きな物食べたい自分に変わりました」

早紀は萌子の方にラーメンの丼を差し出す。
萌子は嬉しそうにトマトを食べた。


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