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大学初日(普通の主婦がイギリスで弁護士資格に挑戦した話)

差し当たっての懸念であったチャイルドケアも無事に確保し、ドキドキの大学生活が始まりました。ちなみにその時の私の年齢は42歳。ピカピカの一年生ならぬ、お肌カピカピの一年生です。

初日の授業は忘れもしない、Constitutional Law(憲法)のセミナーでした。恐る恐る教室に入ると先生は白髪混じりの、細身で眼鏡をかけた品の良さそうな初老の紳士。いかにも「大学教授」という風貌で、緊張でバクバクしていた私の心もちょっと盛り上がります。ご自分の著書をテキストとして使うように推薦していました。うんうん、それくらいで心象が良くなるなら次の授業までに買っておくよ。(社会人学生ならではの大人の気遣い)

先ずは生徒の気分を解そうとしてくれたのか、授業に入る前に先生がその頃話題になっていたトピックの雑談をした事を覚えています。内容は忘れましたが(笑)何か民主主義についての話題だったと思います。

「それはそうと、House of Lordsの議員は我が国の首相になれない。なぜだか分かるかね?」

イギリスの議会にはHouse of Commons(庶民院)とHouse of Lords(貴族院)があります。貴族院は世襲などの貴族によって構成される終身任期制です。投票により選出された議員ではないため、首相に任命されたら民主主義の精神に反するからかな、と思ったのですが、周りを見回しても皆、緊張のせいかシーンとしています。

あれ、こんな単純な答ではないのかな…でも言ってみようかな…。

Because members of the House of Lords are not elected.

と言えばよいのです。

しかし、ここで一つの問題が持ち上がります。その当時すでに10年近くイギリスで暮らしていた私でしたが、未だLとRの発音に自信がなかったのです。ちょっと油断するとすぐにLがRの発音になってしまいます。

もしも私が

Because members of the House of Lords are not erected.

と言ってしまったら。(Erectの意味が分からない良い子の皆さんは調べて下さいね)

神聖なアカデミックの場に、場違いな東洋人の変態女が紛れ込んでいる思われてしまう危険があります。ただでさえ前途多難と思われる大学生活なのに、初日にそのような第一印象を持たれてしまったら今後が非常にやり難くなる可能性大。まあ確かに貴族院の議員は年寄りが多いけど。いやそういう問題じゃない。

さあ、どうするどうする。周囲は依然として無言です。この空気を打破するべく発言しヤル気を見せるか。変態と思われるリスクを取るか。凄まじい速度で脳内天秤が左右に振れています。……そうだ、言い方を変えてみたらどうだろう。

....Becasue they are not selected by votes.

消え入るような声で発言すると、先生はこちらを向いてくれましたが、よく聞こえなかったらしく、Pardon?と聞き返されてしまいました。

Because they are not selected by election!

今度ははっきりと、RとLの発音も注意深く発言した私。

先生の瞳の奥に微笑みが見えました。一息つき、私にこう言ってくれました。

“Precisely.” (その通り)

やった!こんな程度の事だけど!不安と緊張でガクブルだった私にとって、この言葉は大きな励ましとなり、今後の大学生活、何とかやっていけそうな気がしました。ちょっと自分レベル低すぎの気もしますが。








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