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一柳慧の『ピアノ・メディア』がすごい!

一柳慧は日本の作曲家であり、現代音楽家だ。
『ピアノ・メディア』は、ピアニストの高橋アキが、1972年に開催した、「高橋アキ、ピアノ・リサイタル」のために作られた楽曲である。一柳慧は、ニューヨークの音大で学び、そこで出会ったジョンケージの音楽に影響を受ける。帰国後、アメリカの現代音楽を紹介する一方で当時、新しかったミニマルミュージックの草分け的存在である、スティーヴライヒを自ら演奏し紹介している。そして、その時期に生まれたのが記事のタイトルにもなっているこちらの曲、『ピアノ・メディア』だ。歪で奇怪な単音が一定のリズムを刻み、機械のようにただひたすら反復される。そこへ、異なったリズムの不協和音や、単体ではノイズにしかならないような、鍵盤の端の音がいたずらに鳴らされる。迷路に迷い込みぐるぐると空が回っている。そんなアヴァンギャルドな映像が頭の中で描かれる。音程のはずれた軽快なメロディが後ろから爪音を立て追いかけてくる。突然呼応するように二つのメロディが重なったかと思うと、すぐに離れ、また近づいていく。テクノでも聴いているかのような細かい、ビートが反復され、ツマミをいじるように、徐々にフェードアウトを始める。鼓動のような単音が、裏拍子でフェードインされ、その音が徐々に大きくなっていくと、そこで演奏は唐突に幕を閉じる。ミニマルミュージックとは、言ってしまえば、音を反復させる音楽ということになるのだが、この『ピアノ・メディア』が一味違うのは、ただ、単調な音の繰り返しをしているわけではないということだ。まず、この曲に含まれる情報量は莫大だ。次から次へと流れるように、空間に隙間なく音が詰め込まれていき、あっと言う間に6分半が過ぎる。本来は繰り返しであるはずのミニマルミュージックが、こんなにも流動的に変化を繰り返し、ダイナミックに生成と消滅の循環が行われているのだ。現代の日本のj-popには、楽曲に詰められた情報量の多さが顕著に表れている。この『ピアノ・メディア』は、その古い祖先のように遠い雲の向こうから、こちらを見下ろしているのかもしれない。ジャンルは違えど、高い演奏力を武器とする、ZAZEN BOYSや凛として時雨など、現代の邦楽に繋がっていくような予感を感じさせる楽曲だ。


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