新しい旅立ち
当たり前の毎日
変化のない同じ日々
でも、大切なものはすぐ側にあって
幸せは近くにある
事故も病気もせず、いつもの日常を送る
きっとそれは、奇跡的で幸せな事だ
――君がいなくなったのは、あまりにも突然だったよね。――
一人の女性が慰霊碑の前に立ち、黙祷を捧げ、花を供える。
彼女はいつも花をモチーフにしたネックレスを首からさげていた。
何事もなくこの日を迎えられる、それだけで幸せな事だ。
――慰霊碑。聞こえは良いかも知れないが慰霊碑とは名ばかりだ。罪人や後世に名を残すことができない者が眠る訳ありの墓だ。なかには冤罪の者や時代の闇に葬られた者もいる……。
手を合わせ故人のことを想う。
「今度からは毎月これなくなるな。」
彼女は小さく溜め息をついた。
――何も変わらない日常が幸せか……。君はいつもそう言ってたね。でも、私は自分の道を進むことにしたよ。今度はいつ来れるか分からないけど、必ずまた、ここに来るよ。――
胸元のネックレスを強く握り締め、今にも泣きそうな表情を浮かべている。
ネックレスは多年草であるイカリソウ(Epimedium)をモデルにした手作りの品だ。プレゼントされた大切な思い出のアクセサリー。今では形見となってしまった。
――最初はなんでこの花なのかなって思ったけど。こうなることが分かってたのかな。イカリソウの花言葉は『君を忘れない』『新しい旅立ち』。新しい道に進めと君に背中を押されているようだ。
大切なのは過去に縛られて後悔することじゃない。
過去と現実を受け止めて、これからどう生きて行くかだよね。
過去で止まったままだと君に合わせる顔がないよ。――
過去を受け入れ新しい一歩を踏み出そうとする彼女は、凛とした強い女性の表情になっていた。
「行こう。『新しい旅』の始まりだ。」
新しい未来を見つめ生きていこう。希望はたくさんあるさ。
君に出会えて良かったよ――。ありがとう――。
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