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個人的おすすめ、ミステリエッセイ・解説・評論

 ミステリー小説を読むにあたって、「フィクションには興味あるけれど、関連するエッセイや解説、評論ってあまり興味ないな」という方もいらっしゃると思いますが、良いと思える(自分の腑に落ちる・目から鱗が落ちる)ものに出会えると、ミステリの読書の幅や見方が自分の中で少し変化する気がしています。
 そこで、この記事では私が良いと思えたものをいくつかあげてみたいと思います。

・都筑道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか?』
 言わずと知れた、ミステリ評論の名作であり古典です。そう言われると、「お堅い文章が続くのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、文章は平易で、著者が伝えたいことも明確にわかります。
 もともとはミステリマガジン連載のエッセイがもとになっているので、謎解きミステリを読みなれている人は納得できる論なのではないでしょうか。ずいぶん昔の本ではありますが、今でも謎解きミステリ論として通じるところがあるのがすごいところです。

・結城昌治「一視点一人称」
 短めのエッセイ的評論です。おそらく十ページあるかないか程度でしょう。ちょっと今ではエッセイにアクセスしづらいですが、著者のミステリ観と、「一視点一人称」のミステリの意義が描き出された意欲的エッセイだと思います。

・千街晶之『水面の星座 水底の宝石』
 謎解きミステリを、様々な観点(名探偵、「操り」、語り手、など)から論じた評論集です。著者の確かな読みのおかげで、私は「この作品にはそういう読み方があったのか」と感じることができました。
 海外ミステリから国内ミステリまで広く取り扱っていて、謎解きミステリに軸を置きジャンルを論じています。

・中条省平「夢野久作『瓶詰地獄』 書簡体を用いる」
 こちらも短いエッセイですが、夢野久作がいかに計算して「瓶詰地獄」を書いたか、ということが読み解かれます。こちらも平易な文章で論旨は明解なので、難しくありません。

・霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』
 アガサ・クリスティーの全作品を、ネタばらしをほぼせずに解説するという労作です。著者はプロの書評家として活動していますが、クリスティー作品にはあまり触れてこなかったそうで、著者が作品を読み進めるにしたがってクリスティーの魅力と「本質」について理解が深まっていくところも読みどころの一つです。

・小鷹信光『私のハードボイルド 固茹で玉子の戦後史』
 ハードボイルド研究の第一人者だった、小鷹信光さんのハードボイルド評論です。
 この本の面白いところは、個人のハードボイルドというジャンルの受容史が、日本のハードボイルド受容史と大きく重なってくるところです。
 「ハードボイルド」という言葉を日本で初めて使ったのは誰かということから語義語用の変遷まで、第一資料にできるだけあたって書かれた大変な労作です。

・瀬戸川猛資『夜明けの睡魔』
 この評論は、とにかく著者の語り口や作品の切り口が楽しく、読んでいて興味深いです。ミステリファンでミステリ評論を読みなれていない人におすすめするとしたら、今では古くなってしまった(ものもある)のは置いておくとして、このあたりではないかと。

・最後に
 こうしていくつか選んでみると、古めのものが多いな、という印象を自分でも受けました(申し訳ないです……)。ここで紹介しきれなかったものもたくさんありますが、私も色んなものを読んで認識をアップデートしつつ、小説やこうしたものを楽しんでいきたいと思います。

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