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「ハードボイルド小説」へのはじめの一歩

・はじめに
 「ハードボイルド小説に興味があるけれど、何から読んだらいいんだろう?」と思っていらっしゃる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
 ここで、私なりの「はじめの一歩」となるような作品をあげてみたいと思います。まぁ、かなり偏っているので、「ふーん」と思いながら目を通していただければ幸いです。

・おすすめ
・「まず原点が知りたい」
ダシール・ハメット『赤い収穫』(『血の収穫』)
 1929年に出版された、ハードボイルド小説の素晴らしい古典にして偉大なるジャンルの原点です。ハメットならではの客観描写と、数多くの作品にオマージュされたブルータルな内容が素晴らしいです。

・「『ザ・ハードボイルド』みたいな作品が読みたい」
レイモンド・チャンドラー『長い別れ』(『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』)
 フィリップ・マーロウは、レイモンド・チャンドラーが生み出した、「ハードボイルド」と聞いて人が想像するような魅力的なキャラクターです。マーロウを軸に物語を読むといいのではないでしょうか。

・「興味はあるけれど、マチズモにあふれているのはちょっと……」
仁木悦子『冷えきった街』
 一般的に仁木悦子は謎解きミステリ作家として認識されていますが、実はハードボイルド小説としても読める作品を書いています。この作品はロス・マクドナルド風のプロットと謎解き小説の妙味が味わえる作品となっています。

・「キャラクターが立ってるといいよね」
ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』、ジェイムズ・クラムリー『酔いどれの誇り』
ローレンス・ブロックの生み出した私立探偵、マット・スカダー(マシュウ・スカダー)の陰のあるキャラクター造形、ジェイムズ・クラムリーの酔いどれ探偵ミロ(ミルトン・チェスター・ミロドラゴヴィッチ三世)の自己憐憫ただようキャラクター造形は、読んでいて面白いです。

・「タフじゃない私立探偵っていないの?」
マイクル・Z・リューイン『A型の女』
 主人公のアルバート・サムスンは、お酒は必要最小限、たばこは吸わない、母のダイナーで食事をとるのが楽しみ、暴力は苦手、結構小心者、といういわゆる「タフな探偵像」とは違っています。そこが魅力的です。

・「謎解きも好きなんだけど……」
原尞『私が殺した少女』
 直木賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」の年間ランキング1位となった名作です。謎解きミステリとハードボイルド小説の味わいが両方楽しめます。

・「軽いハードボイルド小説が読みたいなぁ」
カーター・ブラウン『ゼルダ』
 タイムリミットサスペンスと謎解きミステリ、そして軽妙なハードボイルド小説が合わさった傑作です。軽く読めて、「楽しかった」で終わります(カーター・ブラウン作品はどれもそうですが)。

・「バディもののハードボイルド小説は?」
S・J・ローザン『冬そして夜』
 中国系アメリカ人のリディア・チンと、南部出身のビル・スミスがバディを組んで、シリーズ一作ごとに視点人物が交互に変わります。この作品はビル視点です。『冬そして夜』は2000年代私立探偵小説の白眉と言ってもいいでしょう。

・「一風変わったハードボイルド小説が読みたい」
ロス・H・スペンサー『さらば愛しきコールガールよ』
 これは本当に変わっています。会話に”「」”がない、一文が短い、一文で改行する、章立てが短い、章のはじめにとある人物の言葉が入る、などですが、内容もだいぶ変わっています。

・「魅力的なサブキャラクターもいいよね」
ハーラン・コーベン『カムバック・ヒーロー』
 主人公、マイロン・ボライターの親友、ウィン(ウィンザー・ホーン・ロックウッド三世)は冷血、容姿端麗、大富豪、喧嘩が強いといった、癖の強いキャラクターです。スピンオフ作品である『WIN』もおすすめです。

・「『友情』テーマも好き」
生島治郎『黄土の奔流』
 どちらかといえば冒険小説ですが、ふたりの男性の間に生まれる不思議な「絆」が読みどころのひとつです。何気に人気があるんですよね、この作品。

・「動物が好き」
マイクル・Z・リューイン『のら犬ローヴァー、町を行く』
 「犬ハードボイルド」です。犬の視点から、街や犬たちの生活を描いた掌編がたくさん収録されています。

・「アンソロジーが読みたいよね」
小鷹信光編『アメリカン・ハードボイルド!』
 タフな(この場合「非情な」)短篇ハードボイルド小説が読みたいときは、このアンソロジーがおすすめです。

・「明るいのってないのかな」
ドナルド・E・ウェストレイク『天から降ってきた泥棒』
 職業泥棒、ジョン・ドートマンダー・シリーズの一作。スラップスティックコメディ的な要素が楽しめ、思わず笑ってしまいます。

・「犯罪悲劇も読みたいよね」
デニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』
 パトリック&アンジー・シリーズの第四作です。ラストで提示されるものは、安易に判断できるものではありませんが、深い余韻を残します。

・雑記
 思いつくままにあげてみましたが、興味を引いた作品がありましたら嬉しいです。

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