上半期読んでよかった作品10作

・はじめに
 今年の上半期に読んでよかったなぁ、と思った作品を10作あげます。順不同です。

1:千街晶之『水面の星座 水底の宝石』
 ミステリ評論です。多くの作品のネタばらしがあるので、読む人を選ぶかもしれませんが、ミステリに関する博識で学びがある評論となっています。今のミステリ評論をおさえておきたい人は読んだ方がいいかもしれません。

2:パトリシア・ハイスミス『11の物語』
 ハイスミス、短篇が(も)うますぎます。切れ味がとても鋭く、人の心の奥底を震えさせる短篇を読みたいなら、ぜひ読むといいと思います。粒ぞろいの短篇集です。

3:ミシェル・エルベール&ウジューヌ・ヴィル『禁じられた館』
 フランス産の、発掘された古典本格ミステリです。「あること」が判明したとき、私は思わず「なるほど、そうだったのか!」と盲点を突かれた感じでした。大時代的でおおげさな文体に慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、私が今年読んだ本格ミステリの中では上位に入ります。

4:飯城勇三『エラリー・クイーン論』
 本格的なエラリー・クイーン評論本です。「なるほど、そう解釈するのか」という発見にあふれています。若干著者がクイーンをひいきしすぎている感はあるかもしれませんが、読んで損はありません。

5:アン・クリーヴス『哀惜』
 本格ミステリであり、登場人物のキャラクター性が謎解きや物語に密接につながっているという点で、キャラクター小説的というか性格小説的というか、そんな感じになっています。読みごたえのある読書をしたい人におすすめです。

6:ドロレス・ヒッチェンズ『はなればなれに』
 ゴダールの映画の原作となったクライムノベルです。ライオネル・ホワイト『気狂いピエロ』が「犯罪小説のひとつの理想形」なら、本書は「犯罪小説のひとつのお手本」なのではないでしょうか。著者のくっきりとした倫理観と、そこから描かれる犯罪者たちのあり方が、読者を途方もない方向へいざないます。

7:『日本ハードボイルド全集5 結城昌治 幻の殺意/夜が暗いように』
 結城昌治という稀有なミステリ作家がつむぐ、透徹な「眼」のあり方が素晴らしいです。「日本のハードボイルド小説ってどんなものがあるの?」という人におすすめしたいです。

8:ダシール・ハメット『ガラスの鍵』
 ミステリ史上でも追随者の少ないハメットですが、その作品の中でも特に追随している作家が見受けられないのが本書です。非常に噛みごたえのある読書になると思いますが、その分の価値は十分あります。

9:ジュリアン・シモンズ『ブラッディ・マーダー 探偵小説から犯罪小説への歴史』
 ミステリ評論家・作家のジュリアン・シモンズが、ミステリ史およびシモンズのミステリ作品の評価を描いています。これを読めば、ミステリ史がなんとなく頭に浮かんできますし、ためになることがたくさん書かれています。

10:ジェルジュ・シムノン『サン・フォリアン教会の首吊り男』
 メグレ警視ものの初期の作品にあたります。滋味深い、深い余韻を残す作品です。薄くて読みやすいので、そこもおすすめです。

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