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「カスタマーサクセスに飽きた/違うんちゃうか」議論の考察


今回はカスハラについて書くつもりだったんだけど、ちょい予定変更です。

きっかけは「5年後のコンタクトセンター研究会」での議論


先週、月刊コールセンタージャパンが主宰する「5年後のコンタクトセンター研究会」のストラテジー分科会を今年初開催しました。

この研究会は、2014年ころに発足したもので、マネジメント/ソリューション&サービス/ストラテジー(発足当時はカスタマーエクスペリエンス)の3分科会で構成。センター運営企業、ITベンダー、BPOベンダー、コンサルタントなどの立場を超えて集まり、定期的に設定したテーマで議論し、そのアウトプットをイベントや誌面で共有しようという研究会です。

ストラテジー分科会は、その名の通り、「顧客戦略」を議論する目的で、主にカスタマーエクスペリエンスやロイヤルティマネジメントといったテーマで議論を重ねてきました。その性格上、比較的新しい業種――つまりはSaaS/サブスクリプションモデルでサービス提供する企業の皆さまも多数、参加いただき、勢い「カスタマーサクセス」がキーワードになることもあったのです。

で、今年の初会合で、「今年は何を議論しようか」とみんなで意見を言い合う過程で「今、何が興味ある?」みたいなお題になったんですが、いちばん、盛り上がったのが「最近、カスタマーサクセスって飽きてきたというか、ちょっと違う感ない?」というBtoBのSaaS企業の方の発言から起きた議論でした。

最近のカスタマーサクセスって、アップセルばっかやってないか?

ウチ主宰の分科会なんで、BtoBのSaaS企業といえども、いわゆる「カスタマーサポート寄りのカスタマーサクセス」を実践、あるいは志向している方が多いという特徴があります。その方々が口を揃えたのが、まぁ、大まかに表現すると「今、カスタマーサクセスってアップセル偏重型になりすぎてない?」という意見でした。

もともと、「顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を向上して、お客様のビジネスや生活に貢献して、継続利用や推奨してもらう」ことを目的とした議論を重ねてきたメンバーで、この目的は多くのカスタマーサクセス従事者の皆さまと同じだと思っています。今回の議論は、アップセルによる経営貢献(NRRやARR向上含む)は、「その結果、もたらされるものであるはずなのに、これが目的になってない?」という問題提起だと僕は感じました。

この印象は、カスタマーサクセス関連の「X」でのポストを見てて、僕自身、感じていたことです。なので、今のカスタマーサクセスは、「セールス寄りのサクセス」が主流の時期なんだな、と解釈していました。

これは誰か教えてほしいんですが、「顧客の成功の可視化ってどうやって捉えてるんですか?」ということに対する認識のギャップが根底にあるのでは、と思ったりしています。自分の思考を整理するために絵にしてみますが、ホントにむずいですよね。

顧客の成功に対する自社ソリューションの貢献度って可視化できるの?

顧客の成功って何かというと、BtoBのSaaSの場合、そのソリューションを利用しているクライアント企業の収益増だと思うんです。でも、その収益増(あるいは減少もあるかも)に、自社のソリューションやサービスがどんくらい貢献しているのかを可視化するのって至難の業ではないでしょうか?

当たり前ですが、収益の増減って、ひとつのITソリューションだけが影響するわけではないです。それも、クライアント企業の「顧客体験」に影響するソリューションならまだともかく、社内業務の効率化に寄与する仕組みだとすれば、短期的にはスイッチングコストや操作教育の手間がかかるので、収益を圧迫することすらあるはずです。
カスタマーサクセス部門の人が、「ウチの提供するソリューションがどれくらい、御社の収益に貢献したか具体的に金額で出したいんです」と言うのはアリでしょうが、クライアントの担当者にしてみても、「そんなんわかんねーよ、でも使ってると便利だしないと困るよ」くらいの感想が大半ではないかと。実際、僕も決済者としてサブスクのサービスを採用していますが、もしそのベンダーのサクセス担当者から「具体的に成果を聞きたいんです!」と聴かれても、「面倒くさい」という印象しか持たないと思います。。。
最近、ちょっと流行しているように見える「CRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)」は、こうしたことをちゃんと設計できる役割の人のことなんですかね?かなり難易度高いミッションだと思います。

そもそも短期的なファイナンス指標は向いていない

それと、CRMの時代から専門家や識者は「顧客戦略に寄与するソリューションは、四半期や半年、1年くらいで成果が出るような性質ではない。最低でも2〜3年といった中長期的な視野が必要」という指摘が多かったのは事実です。カスタマーサクセスを判断するのも同様ではないかと感じるんだけど、どうも皆さんのポストを見ていると、せいぜい1年、多くは半期、四半期のファイナンス指標で捉えていると感じます。結果、成果を出すためにアップセルに注力する、という図式に見えてしまうんですよね。

「この追加機能を使えば、もっと皆さんの業務やビジネスがよくなります、成功するんです!」というのが明確に見えているアップセルならば、それはそれでOKでしょうが、そうではなくて「自社の売り上げやサクセス部門の目標達成のためのアップセル」に見えてしまってしょうがない、というのが、分科会メンバーの声だと僕は解釈しました。図に書いてみます。

いいアップセルとそうでもないアップセル

「毒まんじゅう」を食べるような目標設定


アップセル戦略は、この前書いたカスタマーサポートでの事例もそうでしたけど、取り組み初期は想像以上の成果が出ることもあります。結果、そこばかりを重視して、「別になくても大丈夫な機能まで無理やり売ってしまう」という現象が起きていないか?――メンバーの1人は、「毒まんじゅうをたべるようなもの」という言い得て妙な発言でまとめてくれました。

僕は昔、チェーン系ドラッグストアの店長さんと仲良しだったことがあったんですが、よく「会社から今月はこの商品を重点的に売るように、って言われてるんだよね」と言ってました。アップセル商材が経営から現場に指定され、それを一生懸命に売っている姿を見ていました。この特定商材の売り上げで、店長の評価が決まるわけです。最近のカスタマーサクセスにおけるアップセルを見ていると、これを思い出してしょうがないんです。

メディアの編集者、記者という立場としては、アップセル重視型のカスタマーサクセスを否定するわけではありません。会社のいち組織である以上、収益貢献が求められて当たり前です。この可視化が難しいから、コールセンターやカスタマーサポート部門の社内の位置づけが向上しないのも事実です。
要は、「バランス感覚」なんだろうな、と。顧客の成功とは何か。それを収益面だけと捉えるのか。絵に書いたように、顧客企業の先には、その利用者(BかCかはともかく)がいるわけです。おそらく、「顧客企業の顧客のサクセスや幸せ」を意識する取り組みが理想ですが、この成果を明確に可視化することは困難。なので、ARRやMRRといったファイナンス指標にプラスアルファした「カスタマーエクスペリエンス」指標を組み合わせ、その相関を可視化するという超高度な取り組みが今後、必要になるのでは、と思った次第です。

まぁ、難しいテーマなんで、継続議案とさせていただきます。

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