
無料で作成するDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)前編
5年前にブログで同様の記事を書きましたが、そのときはデータ作成までで、肝心の納品までの手順は、(面倒臭かったので)簡単に触れる程度でした。それから5年、検索してみても、データ作成後の面倒臭い手順にしっかりと言及されているものを見つけることができなかった(ただし、「劇場上映用デジタルシネマパッケージ(DCP)がよく分かる情報まとめ」はとても参考になると思います)ので、むしろ今回は、そこをしっかりと説明できればと思います。
個人でのDCP作成の必要に迫られるのは、おそらくインディペンデント映画ではないでしょうか。そこで、私が実際に撮影、編集、DCPをマスタリングして劇場公開した『カゾクデッサン』(今井文寛 2020)を実例に解説していこうと思います。ちなみに、これまで私が撮影に関わった作品だけでなく、全国100館規模の映画や、海外の映画祭でかける映画、もちろん単館系の映画など、これから紹介する方法でDCP作成納品してきたので、絶対とは言いませんが、まず問題ないと言っていい方法です。もし何か間違えている点などありましたら、ご指摘ください。
データ作成の準備
DCP作成のソフトウェアは様々ありますが、フリーのものとなると限られてきます。Open DCPが有名で、その作成手順を説明されている記事はしばしば見かけますが、私はDCP-o-maticをお勧めします。リンクのページからダウンロード、インストールしてください。
次に、完成した動画ファイルを用意します。『カゾクデッサン』は、1920x1080(上下黒味の1:2.39)Prores422HQ、23.98fps、ステレオのmovファイルとして書き出されたものです(もし、5.1chなどの音データと画データが別々の場合は、過去記事を参照してください)。頭のリーダーなどDCPにしたくない部分は、あらかじめカットしておきましょう。DCP-o-matic上でもトリムできますが、その説明はしません。また、DCP-o-maticは、素材が23.98fpsであっても24fpsに変換してくれるので、あらかじめ変換しておく必要はありません(もちろんしておいてもいいです)。
DCP-o-matic
DCP-o-maticを立ち上げ、FileメニューからNew...をクリック、データを収納するフォルダを作成します。次に、画面上のContentタブ内Add file(s)...をクリック、完成動画ファイルを読み込みます。
DCPタブをクリックしてデータを入力、変更していきます。
① Nameは、半角英数字のみの単純なものにしましょう。記号など2byte文字は使わないようにしてください。データは書き出せても、インジェストできません。
② Standardは、24コマの場合は、Interopにしましょう。SMPTEは新しい規格で、30コマなど24コマ以外のフレームレートにも対応していますが、古いシネマサーバーでは受け付けない場合もあるようです。
③ Videoタブ内のContainerは、今回のフレームレシオが1:2.39なので、DCI Scopeを選択します。(1:1.85、あるいは16:9の場合は、DCI Flatを選択)
④ JPEG2000 bandwidthは、デフォルトの200Mbit/sにしておいた方がいいようです。(250Mbit/sまで上げられますが、サーバーによっては読み込まないケースも報告されているとのこと)
次に画面内のContentタブをクリックします。DCPタブでContainerをDCI Scope(2048×858)にしたので、1920x1080上の1:2.39の画が、縮小された状態(左右に黒味が追加されたピラーボックス)になっています。
まず、左右の黒味をなくすために、横1920pxの素材を横2048pxのコンテナにストレッチします。VideoタブのScale toを2.39(Scope)に変更してください。左右の黒味がなくなり、横長の画になります。
次に上下の黒味をトリムします。元素材の1920x1080上で1:2.39の画は、1920x804の画に上下それぞれ138pxの黒味ですから、Top cropを138px、Bottom cropを138pxにしてトリムしてください。これで2048×858のコンテナにぴったりはまりました。
アスペクトレシオ
今回は1:2.39でしたが、(1920x1080上の)他の比率ではどうすればいいでしょうか。
1) 2.39よりも横長の場合、2.39の場合(上記)と同じようにしてください。Scopeサイズのコンテナに上下黒味のレーターボックスで収録されます。
2)1:2.35の場合、ContainerはDCI Scope、Scale toで2.35(35mm Scope)を選択し、Top crop、Bottom crop共に131pxと入力しましょう。Scopeサイズのコンテナに左右黒味のピラーボックスで収録されます。
3)1:1.85の場合、ContainerはDCI Flat、Scale toで1.85(Flat)を選択し、Top crop、Bottom crop共に21pxと入力しましょう。Flatサイズのコンテナにぴったり収まります。
4)16:9の場合、ContainerはDCI Flat、Scale toはそのまま1.78(16:9 or HD)の全てデフォルト値で書き出します。Flatサイズのコンテナに左右黒味のピラーボックスで収録されます。
Colour conversion
Colour conversionに関しては、『カゾクデッサン』の場合、D65、ガンマ2.2でキャリブレーションしたモニタでグレーディングしたので、デフォルトのRec.709のままです。Customを選択してUse presetを変更するとプリセットの詳細な値(Rec.709は、D65、ガンマ2.2)がわかります。
PC画面(ガンマ2.2)での作業であれば、デフォルトのRec.709でいいかと思います。もちろんグレーディング時の白色点、ガンマがわかればそれに合わせたプリセットを選択してください。
書き出し
Audioに関しては、画と音素材が一本になったmovファイルであれば、LR(5.1chでも同様)に自動的に振り分けられていると思いますので説明は割愛します(Audioタブで確認できます)。
これで書き出しです。JobsメニューからMake DCPをクリックすればOKです。結構時間がかかりますが、気長に待ちましょう。
DCP-o-matic 2 Player
完成したDCPは、DCP-o-matic 2 Playerで確認できます。シンプルなPlayerなので、説明がなくても上記リンクよりダウンロード、インストールしてもらえれば、簡単に使いこなせると思います。ただし、フリーのPlayerなので、有料のeasyDCP PLAYER+と比較すると、動作が極端に重く解像度落とさないとまともに見れないかもしれません。
HDD、USBのフォーマット
次に、この完成したDCPデータを格納するメディアを用意しなければなりません。シネマサーバーによっては、NTFSフォーマットでOKなものもあるようですが、Linux EXT2 (inode 128)でフォーマットされることが推奨されています。EXT3でも良さそうなものですが、稀にサポートしないケースもあるということなので、Linux EXT2 (inode 128)一択となります。さてこの最も面倒臭い作業に関しては、後編にて解説したいと思います。