ガクヅケ船引亮佑インタビュー 【特別編3】「配信開始記念!第4回単独『天才』を振り返ろう」
ガクヅケの第4回単独公演「天才」が2024年8月15日に開催された。過去の単独同様、今回も配信映像が販売されている(視聴期間は8月31日12:00-9月7日23:59)。ということで、第3回単独の際にも録らせてもらった販促兼単独公演振り返りのインタビューを船引に申し込んだ。
印象深かったのは、船引が語る制作の裏側や心境のところどころに、コントを一緒につくる者としての相方・木田への信頼感を汲み取れそうな節が見受けられたこと。単独公演が充実した経験となったことのみでなく、活動再開後のガクヅケがふつうに健やかな状態にあることが伺い知れるはず。
また、今回は全てのネタ・一部幕間映像について、主に制作や着想の面から話を聞いた(当該箇所はnoteの下書き共有機能を活用し、非公開状態の別記事に掲載しています。今お読みいただいている記事の中腹にリンクを載せておりますので、ぜひ単独を観てからお読みください)。単独から1週間も経たないうちに収録したこともあり、あつあつの感想や達成感、心残りなどが感じられる1万字となっております!
余談だが、今回の写真撮影は「天才」をもじり「天体」に関係する施設、国立天文台三鷹キャンパスで行った。施設見学の感想を聞いたところ、大赤道儀室について「……上にたくさんの重いものを載せている可動式の床の下を見学するのは、危なそうで不安でした」と言っていた。あまりにも船引らしい。
(2024年8月収録。インタビュー・執筆: れみどり)
配信販売情報
ーー まず、配信の購入を検討されている方々へ向けた、第4回単独公演「天才」のアピールポイントをお伺いできますか?
ガクヅケ船引亮佑(以下、船引) 去年の単独(*注1)のときは相方の木田があんまり元気なくて、ネタに関しては僕が1人で準備していた部分が多かったんですけど。
今回の単独「天才」は休業を経て木田も機能している状態で作ったので、ガクヅケ2人でやった感じはありました。
注1: ガクヅケの第3回単独公演「ロングバケーション」。2023年3月16日に東京公演(昼夜2公演)、同年5月30日に大阪公演を開催。
当連載での「ロングバケーション」振り返りインタビューは下記。
ーー 単独の話が持ち上がってから開催されるまでのスケジュール感について、ざっくり確認させてください。
船引 「天才の記録」(*注2)(以下、記録音源)の第1回収録が5月15日なので、5月頭ごろには単独をする話が出ていたはずです。
注2: 「天才」のネタ合わせをラジオ風に録音した音源。18時間以上収録。
その他の単独記念グッズ等とともに船引のオンラインストア「完熟トマト新聞のお店」で購入できるほか、出演ライブでの直接購入も可能(ライブによって例外があるため、事前に船引に問い合わせると確実)。
ネタ合わせ音源はガクヅケの単独公演における恒例商品。
ーー お二人の間で単独をする話が持ち上がったのか、それとも事務所の方からの提案など、外部要因があったのかで言うと?
船引 木田からの提案ですね。
休業前からいただいていたオファーで、有志のファンの方からいただいたリクエストを反映するベストネタライブの話がありまして(*注3)。先延ばしになってしまっていたそちらを先に開催して、その後に単独ライブをやろう、という話が挙がったと思います。
注3: ガクヅケベストネタライブ「元気」。2024年6月6日に開催。本文にもあるとおり、有志のファンによってリクエストされた6本のネタを、ガクヅケが披露した。
船引 マネージャーさんには5月ごろ「単独をやりたいです」って伝えて。その場で会場を探してもらいました。事務所ライブのタイミングだったんで、新宿fu-の前で。
ーー (笑)。そんな立ち話みたいなノリで決まるものですか。
船引 ホンマにすぐ決まりました。
会場の候補としてはバティオスか、舞台の広さが同程度のところ……前回の座・高円寺2ほど大きいところではやりたくなかったので。で、条件に合う会場の中で空きがあったのが、ユーロライブでした。
ーー 「大きい会場でやりたくない」というのは、なぜでしょうか。
船引 その広さに合わせたネタを作らなければいけなくなるのが、ちょっとしんどいというか、それはもう前回やったので……。
普通にネタをやりやすい会場でやりたかったって感じです。
ーー あまり広いと細々としたやりとりや動きで笑わせにくくなったり、空間を活かす見せ方を考える必要が出てきたり、なにかと制限がかかりますからね。
船引 (公共施設の)ホールって、安く借りられてお客さんいっぱい入れられるから使われがちなだけで、もともと単独ライブ向きではないんですよね。ネタをやりやすい会場がよかったんです。
ーー 場所が決まってからは、お二人で内容を詰めていく工程に?
船引 ほぼそれだけです、ネタ案を出して、ネタ合わせをして、いけるかな?って考える作業です。
……といったやりとりが音声データで記録されていて、聞けるようになっている物販商品が実はありまして(笑)。しかも今回だけでなく全単独のネタ合わせ音源が、奇跡的に残っている。そんなことありえへんのに(笑)。
ーー 単独をご覧になった皆さんはぜひ記録音源をお求めくださいというわけですね(笑)。でも実際おもしろい試みですし、他の芸人さんたちもやってみてもよさそうですけどね。
船引 あんまり裏側を見せたくないんじゃないですかね。
ーー 4回目の単独となると、準備はスムーズに進みましたか?
船引 7月後半あたりに木田が長めの風邪を引いて、その間に予定していた実際に動いて演じるネタ練習ができなかったというピンチはありました。動いてみてあんまり良くないなってなったら別のネタを考えることになるから、この期間はただただ焦ってました。
ただトラブルといえばそれくらいで……準備期間が3ヶ月あれば、単独でも余裕をもってできますね。当日も滞りなく終えられました。
ーー 第2回単独「瞬のビュン」は準備が1ヶ月程度、第3回「ロングバケーション」は先程もお話しされていたように、船引さんの手がけた割合が大きかった。となると、ここ数年のなかではもっとも余裕を持って、つくるという行為に必要な時間をかけられたのではないかと思いました。準備万端で臨めたのではないかと。
船引 あと、本番前に一度通しでリハーサルして確認できるんで、そこでだいぶ余裕ができるんですよね。それによって本番はスムーズにできました。
ーー 単独前日あたりのRadiotalk配信で、当日のスケジュールを読み上げていたのを聞いたんですが、時間的にはかなりカツカツじゃないですか?会場入りからはもうほぼノンストップで、気がついたら終わってるぐらいの。
船引 本当にそうでしたよ。想定と違っていたのは、お昼ごはんを食べる時間があったことぐらい。夜はやはりそれどころじゃなかったんで、弁当を持って帰りました。
ーー 嬉しい誤算でしたね。
船引 本当にスムーズで……今回も事務所主催の単独だったので、スタッフさんがたくさんいてくれて。自分たちで手配しなくてもライブできる体制を整えてくれるというのは、事務所主催の大きなメリットですよね。
ーー ライブを開催するのについて回る裏方業務などを全て任せて、ネタとか幕間とかを作るのに集中できる。
船引 「これやっといてください」ってお願いしたことは全部ちゃんとやっといてくれるんで、ホンマに全くストレスがなかったです。物販が思ったより売れなかったストレスは別でありましたけど(笑)。
ーー (笑)。あとは配信が売れて、物販が売れてくれれば。
エンディングでも発表がありましたが、この単独や物販の売上は、ほぼ全て船引さんに入るんですよね。
船引 はい、木田個人の物販以外の売上は全部僕にって、木田から提案されました。なぜそうなったかの経緯も記録音源に入ってます。
まあ、木田がコンビ休業中に「利尻note」(*注4)で稼いだぶんを、僕に還元しなかったことの罪滅ぼしですね。……本人は罪滅ぼしとは言ってないけど(笑)、わかりやすく言えば罪滅ぼし。
注4: 木田は2023年8月5日-9月7日の約1ヶ月間、利尻島の旅館で住み込みアルバイトをしていた。その体験記はnote記事として公開されており、巧みなストーリーテリングとプチ炎上の影響で広く読まれ、最終的に約200万円の売上が立った。
船引 自分でそうしなきゃと思ったのか、誰かに言われてそうしようと思ったのか、そこは僕にはわからないですけど。
ーー そういった事情もあるので、やっぱり皆さん買っていただきたいというところで。
船引 そうですね。ありがとうございます、買ってくださった皆さん。
楽屋泥棒ドッキリ(*注5)関係の方々にも配信を買ってほしいですね。僕が関係者やったら買います、どんなネタやったのか気になるんで。僕が関係者やったらガクヅケにお世話になったと思うんで。ガクヅケがオファー受けてくれて、木田がうまいこと立ち回ってくれて、番組と演者お互いの力で良い回になったので。2000円ぐらいは払って配信を買ってくれるだろうって、僕は信じてます。
注5: 水曜日のダウンタウン 2024年7月24日放送回の企画「ドッキリの仕掛け人 モニタリング中ターゲットのエグい秘密知っちゃっても一旦は見て見ぬフリをする説」。
木田の演技や、きしたかの高野の厚情がSNS等で話題に。
ーー 止まりませんね(笑)。
船引 単独の配信を見て、別に何かを言ってほしいとかは思わないんですけど、見てほしい。関係者の方々には。関係者の方々がリポストして、配信がめっちゃ売れたら嬉しい。配信の売上も僕がもらえますので。配信が売れれば僕は救われる。
……めっちゃ売れる可能性は秘めていると思いますので。
※単独公演「天才」インタビューにはまだまだ続きがありますが、以降は「天才」のネタバレを多く含みますので、下記リンク先(下書き状態の別記事です)にまとめました。
「天才」を観たあとでの閲覧を推奨いたします。
↓ネタ・幕間映像の振り返りインタビュー↓
https://note.com/preview/n0dc69ff84010?prev_access_key=b567320b1a193fa11a749874235a0d2b
おまけ1: 単独の0本目「お会計」
ーー マセキ芸能社のYouTubeに上がっているネタだと、「お会計」が単独ネタの制作時期と近いものだったらしいと聞いています。
船引 そうですね、単独のネタ合わせの中で出来たものです。
ーー もちろん単独ネタと遜色ない出来の、良いネタに仕上がっていたのですが、なぜこのネタが単独に入らなかったのでしょうか。
船引 けっこうね、不安やったんですよ。ただ、不安やったから外したわけではないんですけど。
動いてみたら、あんまり面白いんかどうかわかんなかった。「漢方」のネタ合わせと同じで、お客さんの笑い声がない状態では手応えが得にくかったんです。
ーー ネタの性質上、破綻なくできているかどうかの確認になってしまうのでしょうか。
船引 記録音源では、このネタの案出しでめっちゃはしゃいでると思うんですよ。「めっちゃ面白いやんこれ!勝負ネタになるんちゃう!」ぐらいの盛り上がりだったんですけどね。
動いてみたら「あれ?……なんかむずいな……」みたいな。ネタ合わせの段階がいちばん楽しかったってこと、たまにあるんですけど、そのパターンでした。だから、事務所ライブでやる寸前までビビってました。「ゼロ笑いちゃう!?」ぐらい。
ーー 振り幅が極端。
船引 笑ってもらえたんで、ホッとしました。
……落ち込まないライブ選びをするようにしてますね、最近。笑ってもらえないとしんどいんで。
ーー 前回お話を伺ったときはコンビ再開直前だったこともあり、オファーがあったライブにはできるだけ出る方針だったと記憶してます。
船引 そうですね。今はなるべく傷付かないように。ふふふ(笑)。あと、日が近づいてきたときに休みたいって思わないように(笑)。リアルに考えるようになりましたよ。
おまけ2: ガクヅケ、はじめてのM-1グランプリ
ーー M-1に初挑戦するらしいじゃないですか!
コンビ休業中のインタビューでは、自分が出場していないKOCや、他の賞レースについても、「自分と関係がないから楽しめてる」みたいなことをおっしゃっていたので、M-1に出場すると知ったときは心底驚きました。
船引 ……まだ全然練習できてないです。
ーー 漫才のビジョンなどは。
船引 漫才のビジョンね!(苦笑)
ーー (笑)。それはともかく、ガクヅケはずっとコントをやってきたコンビですから。今回出場するに至った経緯だとか、どういうスタンスで出ようとしているのかとか、少々お伺いできれば。
船引 「本気です!」って言うのもちゃうし、「遊びです!」って言うのもちゃうし。1回戦のベスト3に入れたら嬉しいなぐらいで。別に1回戦負けてもいいぐらい……いや、勝ちたいですけど。
ーー 出るからには。
船引 けして準決勝行きたいとか、そんなおこがましいこと、マジでないです。準決勝なんていったらもう、絶対痛い目に遭うから。
ーー 周りには漫才を中心にやってる組も少なくないからこそ?
船引 いや……周りはあんまり、どうでもいいですね。
……イヤじゃないですか、でっかい会場で、お客さんにスンとされるの。準決勝に出るような人達とは明らかに漫才の経験値が違うんだから。
ーー それでも、とにかく面白ければのぼっていける可能性がある大会なのではないかとは思いますが。ただ、ガクヅケが目指すのはそこではないと。
船引 単に、これ漫才で面白くできるんちゃう?ってアイディアがあって、それをやりに出てみようってだけです。ホンマにアマチュアの人らみたいな動機ですね。
ーー 芸歴10年の積み重ねで漫才もできるようになりました!というわけではなく。
船引 漫才でできるんじゃないか?っていうネタ案があるだけです。
ーー いや、でも楽しみにはしてますよ。
船引 楽しみにはしてていいんですけどね(笑)。でも、実際に練習してみて「うわ……やっぱやめよ!」みたいになるかもしれませんよ。
ーー 欠場があるかもしれない(笑)。
船引 全然ありえます。僕、そこは全く遠慮しないんで。関係ないんで。マセキもこういう事情を伝えればわかってくれると思います。ちょっと怒られるかもしれんけど。
……緊張するな……漫才。フラフラしちゃダメなんでしょ?僕も木田もけっこうフラフラしてるじゃないですか、平場とかで。立ち位置っていうか距離感が変な漫才師とかもいるじゃないですか。あと衣装とかも全然決まってないですね。もうそのあたりは誰かが全部決めてくれへんかな……。
ーー 「漫才師ガクヅケ」のプロデューサーがほしい!
……自分で出ると決めたのに、「なんやねん」って表情のまま、5分間くらい愚痴が止まらないのが、なんとも。
船引 最悪ですよ……いわゆる「客が重い」日に当たったら……。1回戦のTOP3動画も見ますけど、全然笑い声が入ってないことあるじゃないですか……。
(船引の愚痴は更に7分間ほど止まらなかった)
ーー あったかい環境でガクヅケに漫才をやらせてあげたいなと思った読者の方は、可能であれば1回戦の会場に駆けつけてさしあげてください。9月末頃になる可能性が高いとのことです。
ガクヅケ
船引亮佑と木田からなる、マセキ芸能社所属のお笑いコンビ。2014年結成。都内の劇場を中心に現れては、「面白さ」への純粋な探究心を感じさせるネタで観客を魅了している。コンビとして発表するネタはコントに限定しているが、大喜利プレイヤーとしての活躍など、両者ともにライブの場において幅広く活躍できるポテンシャルを持つ。
2024年4月よりコンビ活動を再開。マイペースに活動中。
HP: https://www.maseki.co.jp/talent/gakuduke
船引亮佑
兵庫県姫路市出身。生来の几帳面さ・生真面目さから、ガクヅケでは「面倒なこと」を担当しがち。
X(旧Twitter): https://x.com/shi__sho
noteマガジン「連続型確率変数」では、ガクヅケ船引さんへのインタビュー連載を行っています。
過去の連載はこちらから。
いただきましたサポートは芸人さんへの還元・取材費用に充てさせていただきます。 ※どなたの記事を読まれてのサポートかも明記していただけると確実にお渡しできるので、差し支えなければお願いします。