見出し画像

ガクヅケ船引亮佑インタビュー【1・後編】

前編

(インタビュー・執筆: れみどり)


ヴィンセントさんがいなかったら僕も今ここにいないかなって感じです

ーー ルーツを辿る流れに戻りましょうか。中高生の頃に触れたお笑いコンテンツでいうと、リチャードホールがあって、その後には落下女があって……。

ガクヅケ船引亮佑(以下、船引) ラーメンズさんの1万円のDVD-BOXとかも買ってました。中3から高1くらいのときはお笑いのDVDを買い漁っていた時期で。こんなにお金使うの初めてやなってぐらいに……中2くらいまで小遣いで欲しい物を買うってことをしてなかったんで、一切。

ーー 小学生のときはお小遣い制ではなかったんですか?

船引 いや、月1000円とか貰ってはいました。でも貯めるばかり。買い食いとかもしないし。

ーー じゃあもう、中学生の時点でえげつない額に。それがお笑いのDVDになって。

船引 自分のお金で買うっていう楽しさを感じながら……CDアルバムとかでも、小遣いから出して買ってるから好きになろうとするみたいなこと、ありませんでした?

ーー たしかに、当時は1回聴いて「イマイチだな」と感じても、変な意地で良い部分を探すように聴いていたこともありました。やっぱり中学生の3000円って、けっこうな額だから。

船引 あと松本人志さん関連はもうちょっと早い時期からで、小5くらいからビデオを借りて見てましたね。「一人ごっつ」とか。レンタルビデオ屋に行く親とか姉とかについていって、ついでに借りてもらってました。

ーー 小学生の頃って、松本人志の作品で笑えるもんでした?「VISUALBUM」とかけっこうなド下ネタなやつありましたけど……。

船引 そのあたりは意味わかってなかったでしょうけど……でも意味がわかるものは真正面から楽しんでたと思います。

ーー そうなんですね。世代と地域が違うためなのかもしれませんが、船引さんやその周りの人々にとって、それがどれくらいポピュラーな視聴体験なのかつかめていなくて。

船引 僕もいきなりビデオから入ったわけではなくて、小3くらいのときかな?テレビでごっつをみて、それが面白かったっていう記憶を頼りに借りてたんだと思います。これに関しては共通の趣味やった友達がいたとかでもなく、自分が見たくて見てた。

ーー なるほど。
 あと先程、中学生のとき家にネットが引かれてからはそちらにハマって……といったお話を少しされていましたよね。ネット大喜利もその頃から?

船引 中2からですね。

ーー あ、そうだ。「天才中学生」って呼ばれてたんでしたっけ。

船引 天才中学生……(笑)。

ーー 面と向かって言われるのもアレかもしれませんけど(笑)。ネットきっかけでコンビを組んでM-1に出てたのはもっと後でした?

船引 大学の2年か3年?ネットの知り合いと組んだのが最初ですね。ニホンカモシカ・ギャラリーってコンビを、完全に遊びで M-1に出るためだけに組みました。M-1に2回出て解散して。

ーー 予選の時期になったら集まってみたいな?

船引 僕が一人暮らししていた神戸に相方が来て、mixiに漫才を上げて。マイミクだけに見せてたんだったかな。あとはヴィンセント(*注1)さんとネタ見せ会もしてました。

注1: ガクヅケの両名が上京する以前から交流のあった、田中誠一と堀芳郎からなる大阪のコンビ。タイガーバームガーデンというコンビ名で活動していた時期もある。現在は解散しているが、YouTubeにて当時のネタ動画等を確認できる。

ーー あ、その頃からヴィンセントさんとの交流があったんですね。

船引 ネットの知り合いで。ヴィンセントさんのネタ見せ会……ヴィンセントさんがトリオだった時期だったんですけど(笑)、3人目の空豆さんという方のお宅に集まって、ネタを見せ合いっこして。

ーー クローズドな会というか、仲の良いもの同士で集まってみたいな。ヴィンセントさん達って同世代ではないですよね?

船引 5歳くらい上かな。仲良くなったきっかけは高3ぐらいの時、ヴィンセントの田中さんから「俺らのネタ見てくれる?」って連絡があって。姫路のカラオケ屋まで来てくれて、僕だけがお客さんでネタ見せを。

ーー アクティブですね、彼ら……。
 ネット大喜利とかmixiとか、あと船引さんは個人のサイトもやられていたからそこからのお知り合いとかできていったんだと思うんですけど、ヴィンセントさん以外の方ともオフラインでお会いしてたんですか?

船引 ネット大喜利のオフ会みたいなのが、さっきの空豆さんとかが主催で。でもオフ会みたいなんがまだそんな主流じゃなかった頃ですね。BBSなりチャットなりで予定決めて、大阪に10人弱で集まって大喜利とかして。

ーー 私はネットが自由に使えるようになったのが世代の中でも遅いほうだったんで、実感としてはわからないんですけど、当時は中高生のときにネットで知り合った大人たちに会いに行くってけっこうとんでもないことみたいに言われていたような記憶があって。それでも好奇心が勝った感じですか?

船引 まあ、緊張とワクワクですよね(笑)。見た目もわかんないんで、どんな人が来るんだろうって。

ーー ああ、写真なんかもほいほいアップするような時代じゃなかった。

船引 「Tomoro & Puttun」も楽しかったけれど、そっちもそっちで楽しかったですね。

ーー 今でも交流が続いている方々だっておられますものね。良い人たちに巡り会えていた。会うことまでは叶わなくとも、SNSでフォローしあってたまに応援の言葉をかけてくださる方だっていて。「お笑いの世界へ(*注2)」のじょるのさんとか。

注2: 2000年から運営されている、お笑い批評や大喜利などのコンテンツを提供する個人サイト。管理人はじょるの。少年期の船引や牛女しらすが大喜利に参加していた形跡が今も残っている。

船引 じょるのさんはまだお会いしたことないんです。オフ会とかにもあんまり出てなくて……会いたいですけどね。

ーー ここまで伺ってきた感じだと、中学生以降は出会ってきた方々の影響で文化を知るって場面もけっこう多いような印象がありまして。もう少しそういったエピソードがあればお伺いしてみたいです。

船引 ヴィンセントさんからはほんまに色々教えてもらいました。ヴィンセントさんがいなかったら僕も今ここにいないかなって感じです。
 田中さんは、さかなDVDさんやDr.ハインリッヒさん、ジャルジャルさんとか見取り図さんもかな?面白いお笑いやってるよって、その人らが関西で知られるようになる以前の段階で勧めてくれてました。特にさかなDVDさんとDr.ハインリッヒさんについては、劇場にも足を運んで観るようにもなって。音楽も、NUMBER GIRLとかbloodthirsty butchers、MASS OF THE FERMENTING DREGSあたりを。
 堀さんからは「HUNTER×HUNTER」……「HUNTER×HUNTERを教えてもらう」なんてこと、僕の世代の人だとあんまいないのかもしれないけど(笑)。みんな普通に自分から読んでて、僕も読めばよかったんですけどね。

ーー ジャンプとかのマンガ雑誌は買ったり貸し借りしたり、あんまりしなかったんですか?

船引 そうですね、全く。雑誌は通ってない。周りは読んでたけれど、興味がなかったから借りることもなく。
 中2くらいから単行本を買うようになっても、ほとんどギャグマンガしか買わず。最初に買ったのは「ピューと吹く!ジャガー」で、これと「ギャグマンガ日和」はじょるのさんが面白いと書いていたのを見て、読んでみようと思って。読んだらもうゲラゲラ笑って、こんな面白いんや!って。他には「おしゃれ手帖(*注3)」も。単行本でまとめて読んで、感動しましたね……。

注3: 2000年から2006年まで週刊ヤングサンデーで連載されていた、長尾謙一郎によるマンガ作品。全10巻。

ーー 「おしゃれ手帖」については、どういったところに惹かれました?

船引 なんか……最初からこうしようって決めてたのか、描きながら考えが変わっていったのかわからないんですけど、構成がものすごい。5・6巻あたりからですかね?徐々にもう、全く方向性が変わっていくんです。面白さの。ネットの人に「面白いよ」と言われて読み始めただけやのに、途中から見たことのない面白いものが始まって……(笑)。

ーー 「面白い」って評判のみを頼りに、シリーズものにもパッと手をつけられるのって、素直ですよね。

船引 まあ、面白いこと言ってる人が面白いと思うなら面白いんやろなっていうのはあったんで(笑)。
 ……相方の木田もなんか似たようなこと言ってて。たまにすごい怒られることあるけど、「でも、この人おもんないしなー」って思ったらその場をしのげるみたいな(笑)。面白い人に怒られたら怖いけど。なんかわかりますけどね。ただ僕は一方で、本当にいい人は面白くないっていうのを提唱していて。下に見ているとかではなくて、全くお笑いに興味ないんだとかって話。

ーー パラメータを「面白い」に振ってないだけ。

船引 世界を救ってる人は別に面白くなくたって良いし。

ーー 「他人の行いで笑う」ということ自体には、多少の後ろめたさがあって。それが歯止めとして効かなくなっているほうが、色んな「面白い」をキャッチしやすい状態なのかもしれませんね。
 少し逸れてしまってすみません。他にも影響を受けた方っておられますか?

船引 前に組んでいた昆布ろせんの相方、武田白菜児。特にコンビ時代には強く影響を受けていたと思います。固有名詞の面白さとか、武田白菜児がきっかけで面白がれる物事が増えました。

ーー 「ここでこの芸能人の名前を出したら面白いだろう」みたいな?

船引 そう、絶妙なラインの固有名詞や芸能人の名前を出すみたいな。それを面白がる感覚が当時の僕にはなかったもんやから。
 昆布ろせんに「傘」というネタがあるんですけど。これがそのワードの面白さが現れているネタですね。「傘」は2011年キングオブコント1回戦で披露して、落ちたんですけど初めて爆笑をとったネタでもあって。爆笑をとって感動して、その日からを僕の芸歴にしてます(笑)。

ーー 成功体験って言ってしまうと俗になりますけど、でもこういうことをすると面白くなるんだ!と体得できた大事なネタですよね。

船引 これは武田白菜児とやからできたネタなんかなって。最近はもう、ワードが決め手のネタを中心にって感じでもなくなってきているし。
 あと、武田白菜児の家には言葉を集めたノートがたくさんあったんですよ。面白いワードとか、芸能人の名前が五十音順に並んでいるだけのノートとか。

ーー ……自前のタレント名鑑?

船引 もともとは大喜利用なんかな?ネタ作りのときも「なんか使えそうなやつないかな」って見るんですよ(笑)。それがけっこうインパクトあって。

ーー 話を聞いていても変だなあってなりますけど、たくさんのノートとそれを書いた本人を目の当たりにしたら、圧倒されてしまいそう。

船引 すごいですよ、武田白菜児は。僕よりふた回りくらいケチやったし、イジられしろばかりなのにイジられるの嫌いやし……(しばし武田白菜児が残した数々のエピソードを展開)。
 ……いやほんまに、面白い人間ではありましたね。


今は全然、楽しいですけどね。休業なんかーって思った直後よりは

ーー ここまで船引さん自身についてじっくりお伺いしてきたのですが、ガクヅケのことについても。とはいえ今回は時間も限られておりますし、休業を控えたタイミングでもありますので(*取材は7月中旬)、近年の活動に絞ってお伺いしていきます。
 まずはここ2年ほどの、ガクヅケの新ネタおろしの場について整理したいです。まず1ヶ月単位だと事務所ライブで1本、あつやりライブ(*注4)用に4-5本を、それぞれ作られていて。それらとは別に、年1回くらいの頻度で新ネタのみで構成された単独公演があって。ごく稀にこれら以外のライブでも新ネタを発表されることはありましたが。
 事務所ライブ・あつやり・単独、それぞれにおろされる新ネタはどのような基準で決めていましたか?

注4: 正式名称は「あつあつ新ネタやりやり配信ライブ」。2021年初頭から2023年6月までガクヅケが行っていた新ネタライブ。

船引 あつやりライブは配信があるので、既存の楽曲を使用したネタはなしとか。でも判断基準はそれぐらいですかね?

ーー 単独は。

船引 今回の単独は配信があるとあらかじめ聞いていたので、それを念頭に置いて音楽ネタの量を考えました。

ーー その分量を調整するのとかもなんですが、新ネタやそれをおろすライブを作るにあたって超えなきゃいけない障壁というか、縛りみたいなふうに捉えてはいない?

船引 そこまでの感覚ではないけれど……あつやりライブ用の新ネタについては、ネタの思いつき方がまったく違うものって認識になりました。

ーー 違うといいますと?

船引 さっきからあつやりでできないって話に挙げている音楽ネタでいうと……たまにスマホに入っている曲をシャッフル再生してアイデアが浮かぶことがあって。ここの音面白いなとか、あとは歌詞の一部やったりを取り上げてみるんです。

ーー フックになりうるものを曲の中から見つけるのですね。先日の事務所ライブで披露された「理髪店」において使用された、Mr.Childrenの”アンダーシャツ”なんかはまさに。

船引 でも、あつやりライブのネタを考えましょうってなったときは、まずこの馴染みの作り方が工程から外れる。こういったことが積み重なって、それまでの作り方とは違っていたなと……。
 ただ、あつやりライブのネタって便利なんです。あつやりと同条件のライブ、例えば配信を行う関係で音楽などを使えない吉本のライブでも披露できて。笑ってもらえるネタが音楽ネタばかりだとそういった場で全滅するので(笑)。

ーー (笑)。ガクヅケの場合はそれ以外の強みも出せるから、まだ笑いごとにできてますけど……。配信ありなら全部使えないかと思いきや、音楽使用OKのライブもあって。そのあたりの基準が曖昧にしか把握できない状況に、何を作るかを考える側の人達が置かれているというのも、なんか不思議な話ですよね。配信側の制約に作り手が合わせるみたいになってて。

船引 なんかなあなあでずっとやってきてますよね。ただ、僕らの場合はあつやりライブ用の作り方でも良いネタが作れるようになってきたので、かえって好都合とも言えたかも。

ーー あつやりライブ、ガクヅケにとっては良い機会になっていたんですね。あつやりライブは休業もありいったん最終回となりましたが、こういった新ネタライブって休業明けてからもやってみたいですか? 

船引 またやると思います。ただ売上だけが懸念で……これはもう僕の中での、作るモチベーションに関わってきてしまうところなので。でも、最近なんで売れへんのやーって思ってたところに、最終回が休業バブルで売れちゃったので。きっと復帰バブルもあるだろうから(笑)、まあしばらくはやるのかなと思ってますね。

ーー その休業についても。木田さんの体調回復を優先して、8/2から来年の3月頃までコンビ活動を休業すると発表されております。
 こういった事情で休むにもかかわらず、コンスタントにライブに出ると決めたのって、すごいって気はするというか、きちんとされているなと……。体調に無理なくを優先していただきたいのはもちろんなのですが、観客としては心の準備をする時間にもなるので、大変ありがたいといいますか。
 この期間にどのネタをやるかについては、平時と同じようにだいたい船引さんが考えているのでしょうか?それとも木田さんから?

船引 考えているのは僕ですね。僕がこれやるからって言って、木田も準備してきてみたいな。

ーー 今ってだんだんと調整している期間というか。仕事を段階的に減らしていってようやく休業に入るってスケジュールじゃないですか?どういった方針でこのスケジュールに決めましたか?

船引 出るライブは木田に選んでもらいました。休業前最後の8/2のライブ(*注5)も、オファーがニッポンの社長さん、たぶん辻さんのご指名やったんで、そこまでということにしただけで。これがなければもっと早かったんだと思う。たぶん最重要案件(*注6)が最後やったんかな?

注5: 正式名称は「ウケたりスベったりするライブ」。2023年8月2日にヨシモト∞ホールで開催されたライブ。
注6: 正式名称は「最重要おでかけ案件」。2023年7月22日に横浜市港南区民文化センターひまわりの郷で開催されたライブ。主催はラクシュミ。

ーー 船引さんはどういった心持ちで今の期間を過ごされていますか。

船引 もう慣れましたけどね。全くコンビ活動がなくなるっていう状態には入ってないんで、そこまで変わらんっちゃ変わらんですね、今までと。もともとそんなにライブをやっていたコンビでもないし……。

ーー たしかに、ガクヅケの場合は週に4-5日ライブがあったらもうかなり多いほうってイメージがあります。1日に入れるライブも1本であることがほとんどで。

船引 今までも3-4連休だって当たり前だったから。とはいえ、今まではライブも何もない日は「小道具作る日」だったんですよね。近しい芸人のラジオ聞きながら。

ーー 休みの日は準備の日って認識だった。船引さん、余暇をとられるのがけっこう苦手なんだろうなって印象はありますね。

船引 ふふ、そうっすね(笑)。スケジュールを「小道具を作らな」や「ネタを作らな」でいっぱいにして。これを作るためにはあれが足りてない?じゃあこの日に買い出しに行くか、この日はライブの準備するからもっと前の日に作っておくか、みたいな。それだけで「生活」を構築していける。小道具作るとかネタの準備をするっていう日、ライブがない日は。

ーー 作るという行為がそのまま生活に……お笑いの活動をすることによって船引さんの日々が作られていたと言えるかもしれません。

船引 だからあつやりライブがあった時期は、他の芸人ほどにはライブを入れないようにしてました。日々がライブとその準備だけで終わっちゃうのは、それはそれでよくないから。あかんから。
 ……だから、これからしばらくは時間を持て余すことになるということで(笑)。

ーー これを機に何か見に行くとか……別の時間の使い方をするようにはならなさそうです?

船引 何かを?……外出るとかもね、季節関係なくあんまり。もともと「小道具買いに行く」とかがなきゃ外に出なかったから。

ーー 実際休業期間が来たら変わるかも……なんか変わるっていうのも変ですけど。自分ってこういうのやりたかったの?みたいに驚くこともあるかもしれないし。別に無くったって、ここまで長い期間休むってこと自体がこれまで無かったでしょうから。計画がずっとあってっていう生活から解かれるって、なかなかない経験になるんじゃないでしょうか。

船引 とはいえ今は全然、楽しいですけどね。休業なんかーって思った直後よりは。

ーー 直後はけっこうガツンと?

船引 まあ、そうですね……うん。

ーー 単独ライブが終わってさあこれから、というタイミングでしたものね。

船引 今年はキングオブコント出れへんな、とかなりましたし。

ーー 出たかったですか?

船引 出たかったというか、当然出るもんやって。

ーー ガクヅケはそのあたりのスタンスも割と不思議な感じというか。キングオブコントなどの賞を獲るぞ!を活動の主軸に置いているようには見えていなくて。でも取り組む姿勢は大会に対して真面目というか、闘志がみえる。

船引 キングオブコントについては、決勝に出たいとは思ってますよ。テレビ番組としてのキングオブコントに出たい。でもそれぐらいですかね。優勝は現実味がない。準決勝いっても笑ってもらえへんのやから(笑)。

ーー はは……(笑)。とはいえ決勝で見たい気持ちはこちらとしても。
 休業前の心境についてもう少し。今はあんまりネタを考える気にならないと、生配信などでおっしゃっていますよね。

船引 コンビのネタもそうじゃないのも……今のところ全く考える気にはならないですね。「考える気力がない」ではなくて。考えても披露するところがないし……なんかね。

ーー 思いついたことを新鮮な状態で出せないっていう状態がもどかしい?

船引 今だったらnoteがあるので、思いついたらそっちに書いて公開しちゃう。「船引小説」だって言って。そこに書いた発想だって、後にネタとして作り替えてもいいと思っているし……。

ーー noteの「船引小説」も、読み手としては創作物のひとつであるといった認識で捉えてはいるのですが、船引さんとしても?

船引 新作をアップすると、サポート機能を通じて投げ銭が入ることもあるんで。これも仕事と捉えたら仕事やなって思って。

ーー たしかに、面白いことを考えて発表して、他者からの反応を受けて、じゃあ次は別のアプローチを試して……って試行錯誤するサイクルは、普段の活動とも近いのかも。

船引 もちろん、何もないよりは絶対やる気にもなってるし、自分の。逆に何もアップせんかったら0円やから。

ーー 報酬が得られなくなることの残念さが、続けるしんどさを上回っているから続けられる?

船引 noteに関しては、今のところしんどくないですけどね。しんどさが上回ったらやらないだけだし……。

ーー 船引さんのやる/やらないの判断、何事においてもそんな印象がありますね。やりたくないと感じたらきっぱりと「やらない」を選択できる。

船引 あー……そうですね。やりたくないことがね、多いですね(笑)。

ーー 例えば何をやりたくないですか?

船引 やりたくない……よく言ってるのはユニットコント。ピンネタもそうやし。若手ライブのMC もやりたくないし、前説もやりたくないし。向いてないっていうのもあるんですけど。それやるくらいだったら家で生配信しとった方が楽しい(笑)。

ーー 自分の時間を自分が向いてないことに使うっていうことがあんまりお好きではないのですね。まあでも、健康的な気がしますけどね。選べるほうが。

船引 マネージャーもなんか、僕のそういうところを割とわかってくれてるんで。
 休業絡みの話をした面談のときにも「船引には事務所ライブのMCとか頼むこともあるけど」って、マネージャーに言われたんですけど。どうも僕の表情が曇ったのがわかったみたいで(笑)。

ーー (笑)。

船引 すぐに「もちろん1人でじゃなくて、誰かと2人でとかで……」って補足が(笑)。僕が表情に出やすいってのもあるんでしょうけれど。

ーー 秘めるとか隠すとかがあまり上手ではないイメージはありますね。

船引 嫌そうに見えるんでしょうね。まあでも得やとも思いますね。怒られにくくはなるし(笑)。
 でも休業面談以来マネージャーもマセキの人たちも、他の芸人たちもめちゃめちゃ優しくて……優しいですけど、もともと。一層優しくなってくれてますね。


ガクヅケ
船引亮佑と木田からなる、マセキ芸能社所属のお笑いコンビ。2014年結成。都内の劇場を中心に現れては、「面白さ」への純粋な探究心を感じさせるネタで観客を魅了している。コンビとして発表するネタはコントに限定しているが、大喜利プレイヤーとしての活躍など、両者ともにライブの場において幅広く活躍できるポテンシャルを持つ。
2023年8月から2024年春頃にかけて、木田の体調を鑑みコンビ活動を原則休止とする予定。
HP: https://www.maseki.co.jp/talent/gakuduke

船引亮佑
兵庫県姫路市出身。生来の几帳面さ・生真面目さから、ガクヅケでは「面倒なこと」を担当しがち。
Twitter: https://twitter.com/shi__sho



ガクヅケ第3回単独「ロングバケーション」配信記念インタビューはこちら!

いただきましたサポートは芸人さんへの還元・取材費用に充てさせていただきます。 ※どなたの記事を読まれてのサポートかも明記していただけると確実にお渡しできるので、差し支えなければお願いします。