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世界の香りの話

東京から三浦半島の先っぽまで自転車で

大学では自転車部に入ってるので、度々自転車で遠出をする。

それで今回は三浦半島まで。

話したことあるかもしれないけど、私はアスファルトが嫌いだ。こつこつと鳴って、堅く足を押し返してくるアスファルトがなんだか非常にムカつく。

それと比べて土は良い。

良いにおいがするし、柔らかいし、何より土の歩きにくさが歩いている気がする。

渋谷で飲食店バイトをやってるから都会の臭さは嫌というほど知っている。22時を過ぎれば既に街は酔っ払いの吐瀉物の臭いに侵されはじめ、街を覆うネズミなどの獣臭さも相まって、非常に不愉快な臭いに包まれる。

下水の臭い、煙草の臭い。原因を上げ始めたらキリがない。

でも住めば都。最近はそんな臭いにも慣れてきている自分がいた。

価値観は変わる

それこそ昔は牧場とかのあの直接的な糞の臭いが嫌いだった。

動物との触れ合いは好きだが、そのあとに残る手の獣臭さが如何ともし難く、手洗い場でじゃばじゃばと手を洗ったものだった。

でも新たな変化に気づいた。

三浦半島も終盤にはいり、周りに畑が増えてきて、自転車でほぼ畦道のような道路を走っていた時、やはりそういうところでは肥料だろうか、動物の糞の様な香りがどことなく香ってくる。

辺りは木々に覆われ、道にもちらほらと枝なり木片なりが転がり、少なからずロードバイクで走るのは少し憚られるような道。

湿った土の香りに、緑の青臭さ、そして遠くに堆肥の香り。

心地よかった。

自分の身体はこれほどまでに自然を求めていたのかと、痛感するほどに、その匂いは私の身体を包み込む。

脳天に落雷を食らったような衝撃と共に、今まで七十キロ近く走って疲弊した体が、一気に息を吹き返すように、熱が入る。

気持ちが良かった。

就活なり、バイトなりで都会ばかりを歩いていた私にとって、久々の自然は嫌というほどに、自分が彼らなしでは生きられないのだと自覚させた。

昔こそ嫌いであった獣臭さも今は良い匂いだと思える。

足の裏で柔らかくなった枯れた葉を踏みしめ、じんわりと濡れていくのを感じながら、肺いっぱいに青臭い空気を溜め込む。

汗をかけば、耳を癒すせせらぎで体を清め、山から吹き下ろす風に身体を冷やす。

土から顔を出すフキノトウに春を感じ、セミの幼虫が空けた穴に夏を感じ、流れゆく葉の色味で夏の儚さを憐れむ。

どうだろう。やはり私の生きる道に、コンクリートのビルたちは必要ない。


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