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東京スカパラダイスオーケストラというバンドについて(6) END.

13.『大人げない』試行錯誤

『まだ俺たちは落ち着いていない』という意識は周りが思っていたよりも強く、冷牟田竜之在籍時とはまた違った意味でパンクなスカパラを模索していくことになる。

歌ものコラボ三部作、もついに『バンドコラボ』という、ただでさえ大所帯のスカパラがバンド単位でコラボをするという、もはやよくわからないものになり、その相手も10-FEET、MONGOL800、ASISN KUNG-FU GENERATIONという、パンク/ラウド色の強いセレクトとなる。

なんとなく迷走しているように見えたスカパラだが、ここでひとつの転機を迎える。

『The Last』。最初はタイトルだけ公開され、表題曲が公開されてみれば壮大かつ明るくない曲調だったため、すわ解散かとまで思われたのだが、蓋を開けてみればオールタイムベストの発売、というだけであった。

しかし今考えてみれば、これまでのスカパラを集大成として過去にしよう、という思いがあったのかもしれない。スカパラの作曲は次の段階に突入する。

14.海外展開、隠れ名盤

多少時間軸が前後するが、2013年にはコーチェラ・フェスティバルへの出演、というトピックがあり、2016年はリオ・オリンピックの関係でブラジルへと渡航し、スラムの子供たちと楽器のワークショップを行う一幕なども見られた。


当時はブラジル向けのベスト盤、というのが出ており、これは日本でも発売されているため入手もしやすく、またこのために録音された「マシュ・ケ・ナダ」のカバーやブラジルのラッパーEmicidaを招いての「上を向いて歩こう」など、スカパラのセンスの良さが存分に発揮された楽曲が楽しめる好盤だ。

また、こちらもあまり話題に上ることがないが、『Plays Disney』という、ディズニー・ソングをまとめたアルバムも出ている。いかにもヴィレ・ヴァン的アイデアの一枚ではあるが、スタンダードの解釈として日本ではそういった路線の元祖とも言えるスカパラのアレンジ力が楽しめるいいアルバムである。

15.続くコラボ

『The Last』を転機として、少しずつまたスカパラは変化していく。まだインストでのシングルこそ出ない(少なくともフィジカルでは『STROKE OF FATE』以降出ていない)ものの、歌ものに於ける作曲がさらに自由に進化していく。

片面のタイトルこそ「めくれたオレンジ」のセルフ・パロディだが、尾崎世界観(クリープハイプ)を迎え、普段使わないような歌詞とバンドのアイデンティティが混在した名シングルである。

他にも片平里菜のような、一癖ある若手とのコラボを重ねて歌ものの新しい方向性を模索する一方で、横山健(Hi-STANDARD)やTOSHI-LOW(BRAHMAN)らとのパンク路線も続けていく。

そうこうしているうちにスカパラは2019年にデビュー30周年を迎え、22枚目のオリジナル・アルバム『ツギハギカラフル』をリリースする。

桜井和寿を始めとして、錚々たる面子を迎えたシングルをまとめたベスト盤的な『歌もの』サイドと、本来のスカパラの持ち味と言えるほぼ新録の『インスト』盤に分けられた2枚組、というコンセプトが功を奏したのか、充実の、まさに30周年を記念するにふさわしいアルバムである。

今作に於ける最大の魅力は、スカパラのひねくれに近いユーモアだろう。

「Paradise Has No Border」を野球の応援に使った縁から始まった習志野高校吹奏楽部とのコラボは歌ものとして結節し、天から与えられた才能としてこれ以上のものはないのではと思わせるほどの声を持つチバユウスケ(The Birthday)をインストでかけ声に起用する。最新作『SKA=ALMIGHTY』でも似た感じでアイナ・ジ・エンド(BiSH)を起用していたが、こういう、コラボの舵取りに於いて『普通じゃつまらない』という感覚が作品を支配し、尚且つクオリティを落とさないまま進化していく姿こそが現在のスカパラの魅力だと言えるだろう。

16.現在、そして

そして2021年。スカパラは『SKA=ALMIGHTY』をリリースした。

今作に関しては単体で記事を上げているのでそちらを参照していただきたいのだが、『ツギハギカラフル』に続き、この時勢にあって充実した攻めのアルバムとなっている。

東京スカパラダイスオーケストラ、というバンドはデビューから数えても30年以上のキャリアを重ね、今もなお活動を続けている。

メンバー曰く『THE SKATALITES(スカのオリジネイターとして知られる)が老人になってもライブを続けているように、スカパラも死ぬまで続けたい』そうだが、きっと老いたスカパラも新しい曲を、過去曲のアレンジを、変わらずに笑顔で演奏し続け、ステージに立ち続けているのではないだろうか。

長く続けるために変わらずにいられなかったこと、積極的に変わろうとしたこと、スカパラという大きな、現象にも近い存在がそのクリエイティブさを保ったまま現存しているということの偉大さについて、もう少し評価されても良いのではないだろうか。

最初に想定していたよりもだいぶ長くなってしまったが、ポップでありながら一筋縄ではいかないスカパラというバンドの姿が、今回の文章によって少しでも魅力的に見えたなら、幸いである。


投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。