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川の流れを下る葉っぱのように

2021年の年の瀬、ふとLINEの友人の一覧を見たくなり、画面をスワイプしてみる。すると、過去に連絡をとっていた友人たちの存在に気づく。なぜ彼らと連絡を取らなくなったのか。

いや、特に理由はない。別に嫌いでも何でもないのに、距離と時間が離れれば、自然と他人の状態に戻ることも多いと、30歳になった頃から実感し始める。

その後もLINEの友人一覧を見ていると、元カノの苗字が変わっていることに気づく。それを見て、悲しい気持ちを抱くことなく、事実として受け止めている自分に、大人になったなと感慨深くなる。

その足で、久しぶりにFacebookを開くと、LINEと同じく名前や職業が変化している人が多いことに気づいた。

ある前職の先輩が、10数年務めた会社を転職していた。私はとても驚いた。と同時に、祝福したい気持ちで溢れた。ついに会社を辞めるのか。40過ぎた先輩の新たなチャレンジに、心が躍らずにいられなかった。

ただ、この一連の変化に対する出来事が、なぜか自分の中でモヤモヤしていたが、今ようやく言語化できるようになった。

そう、歳をとったのだ。正確に言えば、時がしっかりと過ぎていること。周りの変化を、あらためて実感せざるを得なかった。

前に好きだった人は、今は名前を変えて幸せな家庭を築いている。前職の先輩は、新たな環境で新しく仕事を始める。それを見て私は、祝福と同時に、正直恐怖感も覚えていた。怖い。もう元に戻れないという漠然とした不安。

立ち止まってその不安について考える。それは、「その気になればあの時に戻れる」という退路が絶たれたことを認知してしまったことだと思う。

もし自分が今の彼女と別れても、もしかしたら前に好きだった人と一緒になれるかもしれない。もしも自分が新しい職場で失敗しても、前職の仲のいい先輩が、前の会社で待ってくれているかもしれない。何も変わらない状態。こうした「自分で築いた透明なセーフティネット」がなくなったことに改めて気づく。

自分の周りにあるものは、昔と同じに見えて同じではない。時間の影響を平等に受けていること。自分が変化するのと同じく、周りも変化をしている。

それだけでなく、自分がその変化に気づかず見てみないふりをしていることに違和感を感じていた。時間が流れる中で、彼らも苦悩し、決断し、変化しているのだと改めて感じる。

そして気づけば今年、私は32歳になる。小さいころに想像していた大人の像とは、正直良くも悪くも想像の範囲を超えた姿になっている。

この歳で婚約をすると思わなかったし、年収もこれだけしかもらえないとも思っていなかった。それだけでなく、自分が大人になった実感がいまだにない。大人ってなんだろう、と未だに思う。まるで川の流れの中に浮かぶ葉っぱのように、徐々に意思もなく時間に流されている自分の姿がはっきりと見えた。

怖い。気づかないうちに歳を取り、老いている。自分だけでなくまわりも老い、変化をしている。同じだと思っていた「彼ら」は、しっかりと変化を享受しているように見える。自分だけが時の中で取り残されている感覚がして、どうすればいいかわからなくなってしまった。

実際どうすればいいのだろうか。わからない。けど、進むしかないのだろう。止まってくれない時間の中で、何もうまくいかず、停滞してしまうこともあるかもしれない。周りだけが先に進んでいると感じる時があるかもしれない。

川の流れを下る葉っぱのように、何もしなくても流されていく。どこに辿り着くかはわからない。けど、流されていく。ゆっくりと、流されていく。同じ景色を見ていると思っていた友人も、父も母も、スピードは違えども、流されていく。残された川の長さはわからないが、確実に葉っぱは流れていく。

でも、下流に流れることを避けられないのであれば、せめて行き着く先は自分で決めたい。歳をとる両親を哀れに思うのではなく、残された時間でしっかりと親孝行をする。長く付き合ってくれている友人に、感謝を伝える。そして、川の旅路で出会う新たな出来事や関係性に、心を開く。それだけは、自分の意思でしなければならない、とふと思う。

川の流れを上流に遡ることはできないかもしれない。けれど、どうにか自分でオールを漕いで、自分の思う水の流れを見つける。

積み重ねの中で作られてきた人生の中で、自分の葉っぱを卑下することはきっとない。平等に流れていく水の音に気づいた今、抗いながら、試行錯誤しながら、自分の意志というエンジンで人生の川を進んでいく。その先に何が待っているかは分からないが、自分だけが納得をいく答えを見つけたい。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか新年を迎えていた。やはり考えているうちも進んでいくのだなと思わず苦笑いをする。

流れゆく川の中で、まだ見ぬ激流に想いを馳せる。振り返れば、遡ることはできないが、後ろに続く川の軌跡がある。川の先に何があるかは分からない。けど、流されながらも後悔をしないよう、改めて意志を持って流れることを決意した。

#エンジンがかかった瞬間

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