GTMの落とし穴:US営業組織の立ち上げ方
こんにちは、Ron@CrossBayです。シリコンバレーで日本のスタートアップのUS Go-To-Market(GTM)支援と営業代行をやってます。
前回はUSで最初の営業を雇う難しさについて書きました。
プロダクトの英語化が完了し、会社も設立。バックオフィスもある程度整備し、日本からファウンダー自ら・あるいは肝入りの立ち上げオーナーが現地入り。「ここから売上を作っていくぞ」と言うタイミングで営業ヘッドを雇います。実はここに落とし穴が隠れているのです。雇ってみたけど売れない。失敗だと気付いて是正するのに少なくとも1年はかかります。新市場参入において1年のロスはあまりにも痛く、生死を分けるといっても過言ではありません。今回はどのタイミングで何をすると売れる営業組織を作れるのか考察します。
US営業あるある
前回のおさらいですが、USの営業は一般的に:
やたらと面接がうまい
守備範囲がやたら狭い
経験とコネが意外と当てにならない
(売上と報酬が直連動するので)売れないと組織内で軋轢を産む
と言った特性があります(あくまで一般論です)。B2Bビジネスにおいて、スケーラブルな事業基盤を構築するのに「売るプロ」は必要不可欠です。しかし、日本の感覚と大きく違うので営業組織立ち上げに失敗する企業は跡を絶ちません。何に気を付ければ順序、タイミング、人選、体制を誤らずに売れる営業組織を築けるのでしょうか。
仮説検証サイクルを回すのはリーダーの役割
日本でProduct Market Fit(PMF)を達成していたとしても、新市場における PMFには試行錯誤が必要です。売る先を工夫する、売り文句を現地化する、訴求する機能を変える、新チャネルを活用する、ベンダーを変える、お試し期間を設ける、などなど、営業の側面だけでも変数は尽きません。この数多くある変数をいじりながら仮説検証サイクルを回し続けないと日本でどんなに売れたプロダクトでも売れません。
売る→あっさり断られる→売り方を変える→また断られる(ピンときてなさそう)→売り先を変える→断られる(理解はしてもらえた)、と言った具合にお客さんと直接対峙し、その度に学びながら修正を加えていく必要があるのです。
ではこの仮説検証サイクルを回すオーナーは誰でしょうか?それは雇ってきた営業ヘッドではなく、事業長・リーダーであるあなたなのです。営業は不器用です。仮説を立案するのも、お客さんの反応から学んで組織にフィードバックするのも決して得意ではありません。ましてや「売り先を変えてみよう」となると業界経験とネットワークを買って雇ったはずの営業の資産も使えなくなります。逆に言うと、「売るプロ」を雇うことはGTM戦略にコミットすることです。売り方・売り先が大きく変動しうる限り、リーダーがボールを持たざるを得ないのです。
PMFに向けて必要な5つの要素
PMF達成に向けて営業視点で仮説検証サイクルを効果的に回すために必要な要素は5つあります。
① リーダーの気概
まずは精神論から入りますw。新市場参入は逆境の連続です。日本でうまくいったやり方でUSでもうまくいくはず、現地の営業さえ雇えば売れるはず、といったノリだと確実に失敗します。PMFに何としてでも持って行ってやろう、そのためには自分が前線に立つという気概がリーダーには必要なのです。仮説検証サイクルを回す現場にリーダー自らが立ち会ってお客さんの表情を見ないと組織として学習がなく、サイクルが回りません。他の誰かが取った議事録を読んでも変数の最適化は行えないのです。経歴や言語力がどうあれ、最初の契約は自分が取ってくる気概が必要です。
② プロダクトへの深い理解
機能一覧やスペックと言った表層的な理解ではなく、プロダクトが提供する本質的な価値理解が必要です。どういったペインを持つ客層がプロダクトを利用することでどういった価値を感じてくれるのか。その価値をお客さんはどういう言葉で表現するのか?価値を感じたお客さんはどういう行動を取るのか?特に日本で既にPMFを達成しているプロダクトの場合はお客さんと直接触れ合うことで自身のプロダクト価値を深く理解できます。
③ お客さんを理解する力
コンテキスト理解についてはマーケティングの回で詳しく書きました。お客さんの言語、文化的背景、業界動向など、業界を俯瞰した視点と個々のお客さんの目線に立った視点を併せ持つことでより解像度の高い顧客像が描けます。そしてお客さんと対峙する現場で発言内容だけでなく、表情、口調、姿勢などの手掛かりを収集することでより精度の高いフィードバックを得ることができます。
④ ネットワーク構築力
前回でも初期の営業に必要なのは既存ネットワークよりもネットワーク構築力だと書きましたが、PMF模索フェーズでは特に大事です。仮説検証はサイクルを回すことで精度を上げていきます。特に「売り先」を精査していく過程で今まで話していない属性を持ったお客さんと繋がる必要が出てきます。プロダクトを大きく変えるのはリソースと時間がかかりますが、売る相手を調整することはすぐにできます。次にぶつけてみる先をスピーディーに見つけられる柔軟性がPMF達成に活きてきます。
⑤ 仮説検証推進力
上記4つを総合する力であり、①と同様リーダー個人に求められる資質です。まず良質な仮説はプロダクトの本質的な価値の理解と解像度の高い顧客像から生まれます。その後、適切なターゲットと繋がり、仮説をぶつけることで市場からのフィードバックを得られます。そして得たフィードバックを咀嚼し、仮説を改良し、また市場にぶつけるのです。このサイクルをスピード感持って反復することでPMFに向けてビジネスを推進できます。筋の良い仮説を立てるのも、市場からのノイズとフィードバックを識別するのも、次にいじる変数を決めるのも全てセンスと判断力が必要であり、これこそ事業立ち上げ責任者の本分なのです。
営業組織の立ち上げの第一歩
とは言え、PMFはチームスポーツです。リーダー自らが最前線で営業し、個人技でPMFに近づけないといけないわけではありません。当然リーダーにも得手不得手があり、PMFに向けて最前線で引っ張った経験を持つ人もいれば、マーケ・営業経験がない人もいますし、英語力も様々です。社内の力+雇用・外注を通して、組織としてPMFに必要な要素を補完し合い取り揃えば良いのです。
「① リーダーの気概」と「⑤ 仮説検証推進力」はリーダーが持参すべきですが、他の3要素はチームでカバーできます。
有能なUS市場立ち上げ責任者を現地で雇った場合、「② プロダクトへの深い理解」が欠落します。その場合は日本でプロダクトとお客さんに近い人を送り込み、ペアで臨めば良いのです。
日本からプロダクトを深く理解した人をリーダーとして送り込んだ場合、「③ お客さんを理解する力」と「④ ネットワーク構築力」が欠けます。その場合はUS市場で業界の土地勘がある伴走者が必要になります。
5つの要素全てを一人で持ち込めるスゴイ人というケースもあります。その場合も複数人で市場と向き合わないと多角的なフィードバックが得られなかったり、バイアスがかかったりします。少なくとも壁打ち役はいた方が良いです。
いずれの場合も必要なのは業界経験が長く、ネットワークを持つベテラン営業・「売るプロ」ではありません。PMF前はフットワーク軽く守備範囲の広いスタートアップっぽい人の方が重宝します。そしてチームとして仮説検証サイクルを回すことで売り先や売り方が見えて来るのです。営業組織を立ち上げるタイミングは少なくともPMFに向けた道筋が見えるまで我慢しないとズレたGTM戦略にコミットしてしまい、貴重な時間をロスしてしまいます。なので順序としては、まずはリーダーと補完的な何でも屋を起用し、PMFに向けて前進します。そして売り先・売り方の勝ち筋が見えてきてやっと「売るプロ」の出る幕になるのです。
USにおける「③ お客さんを理解する力」と「④ ネットワーク構築力」は私の得意領域ですし、「⑤ 仮説検証推進力」も支援できます。US進出を進めているスタートアップ、USで営業代行を探している企業はウェブサイトかLinkedInからお問い合わせください!
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