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初めてのナット交換

年末年始にBacchusのギターを一本修理した。フレットのすり合わせや電装系の修理を一通り終えて組み上げてみたところ、3弦だけ開放弦でビビりが発生することがわかった。ナットの溝が深くなりすぎてしまっているようで、解消するにはナットごと交換する必要があったため、初めてのナット交換に挑戦することになった。

ナット交換、調整は今まで自分が経験してきた作業に比べると難易度が高そうに見えたので身構えていた。自信がなかったので、多少工具に投資をしてナット選びも難易度が高そうなものを選んだ結果、スムーズに交換することができた。


古いナットを外す

古いナットの取り外しは最初の懸念ポイントだった。取り外し方を失敗すると塗装や木部にダメージを与える可能性がある、という情報があったからだ。

ギターのタイプによってナットの取り外し方は異なるようだが、テレキャスターの場合は食い切りを使って引き抜くのが一番リスクが小さそうだったので、そうすることにした。食い切りは持っていなかったので新しく購入した。先端部分が平らになっているものの方が作業がしやすいとの情報があったのでそのようなものを選んだ。

ナットと木部の接着が強固だったり、側面部分の塗装が繋がっていると引き抜くときに問題が起きる心配があったのだが、幸いナット側面に塗装は載っておらず固着もしていなかったので簡単に引き抜くことができた。(側面に塗装がのっている場合は塗装部分にカッターなどで切れ目を入れる必要がある)

外したナットをよく見ると裏側にパテを盛ったような跡があった。おそらく高さが足りなくなって一度パテで高さを傘増ししようとしたのだろう。ナットが取り外しやすかったのはこれのおかげかもしれない。

ナットのスロット(取り付け溝)の掃除

古いナットを取った後、ネック側の溝(スロット)の掃除を行った。古い接着剤などが残っていると新しいナットをしっかりと固定できなくなることに加えて、ゴミが多いと後述のナットの底面の形状を調べるのもやりにくくなる。

この溝の掃除用の専用工具もあるようだが、他の用途で使うことがなく使用頻度が極端に低そうなので購入を見送った。紙やすりとデザインカッターで古い接着剤の残りを除去したが、角の部分のゴミの除去にはなかなか苦労した。

交換用のナットを選ぶ/買う

交換する新しいナットを入手する。牛骨のブロックから自分で削り出すという選択肢もあるが、既にある程度成形されていて微調整だけで取り付けられるようなナットも多数販売されているので、今回はそちらを選ぶことにした。

成形済みのナットを買う場合、ナットの横幅、高さ、縦幅といった寸法を調べる必要がある。テレキャスターの場合、それに加えて底面が水平な場合とカーブしている場合があるので、どちらのタイプが適合するのかも調べる必要がある。底面のカーブについては、ナットを外した後の側面に定規などをあえててみることで水平かカーブしているかを確認できる。このBacchusの場合は底面がカーブしているタイプだった。

調べてみたところ、こちらのTUSQの溝切り済みナットが評判も良く寸法的に適合しそうだったので、こちらを使うことにした。2023年1月現在1,000円以下とコストパフォーマンスも高い。

ナットの厚みと幅を調整する

購入直後のナットは、色々なサイズ・状態のギターに取り付けることができるように若干余裕を持った大きめの寸法で販売されているので、ギターにフィットするようにサイズを微調整する。

スロットに差し込もうとしたところ、厚みが若干大きかったので側面をサンディングペーパーで削って少しだけ薄くした。600番のサンディングペーパーを適当な水平な板に両面テープで貼り付けて、面全体が均等に削れるように軽い力で擦る。TUSQは評判通り柔らかすぎず硬すぎず、サイズ調整がやりやすかった。

横幅も若干大きめだったので同じようにサンディングペーパーで削る。中央位置がずれないように左右バランス良く、それでいて変な角度がつかないように削っていく必要があったので、側面に比べると集中力が必要な作業だった。

何度もネックに取り付けてみて位置を確認して、外して削るという作業の繰り返しになった。接着剤で固定する前とはいえピッタリのサイズのナットを外すのは結構大変なので、食い切りニッパーを買っておいてよかった。

ナットの高さ(底辺カーブ)を調整する

今回購入したTUSQのナットは、高さもある程度ちょうど良い状態に加工されていた。ただし底面のカーブ部分はギターに合わせて調整をする必要があった。

ナットの底面中央にカーブ調整用に高くなっている箇所があるので、ここを削って高さ・カーブを調整する。削った面を水平に保たないと安定して取り付けることができず、また削りすぎてもやはりフィットしなくなってしまうため、ここもある程度慎重に作業を行う必要があった。

ナットの取り付け

瞬間接着剤を軽く底面につけて、ナットを本体に固定する。一応、手元が狂った時に変な場所にくっついてしまったり接着剤が付着してしまわないように、スロット以外の周辺部分はマスキングテープでマスキングしておく。

あまり強く固着してしまうと、後で取り外したくなった時に困りそうだなということと、通常は弦に押しつけられる形で固定されているものなので、接着剤の使用は最小限に留めておいた。

ナットの面取りをする

サイズ調整のために色々な面を削ったことで角張った形状になってしまったので、弾く時に指が引っかからないように、また見た目的にも美しくなるように棒やすりと紙やすりで面取りを行った。

弦を張ってビビりを確認する

一旦この状態で弦を張って状態を確認する。このナットの場合、取り付け時点で結構高さが低めに加工されていたのでちゃんと十分な高さがあるか少し心配だったのだが、幸い問題はなかった。

溝の高さを調整する

いよいよナット交換の最大の難関であり、醍醐味でもあるナットの溝調整。適切な高さまで切ることができれば演奏性を大きく改善することができる一方、溝を切りすぎてビビリが発生する高さになってしまったら全て最初からやり直しになってしまう。

「3フレットを抑えた時に1フレットと弦の間の距離が名刺一枚分の厚さになるように」といった説明をよく目にするが、正直これを感覚でなんとかできる自信はなかったので、ここも工具に頼ることにした。

GrooBarという板を使うと、ナットの溝を削る際に狙った以上に溝を切りすぎないようにすることができる。ナットの横に置いて溝切りをすることで、板の厚み以上に溝を深く切ってしまうのを防ぐというシンプルな工具(というかただの板)だ。用意されている板の厚みは4種類で、1Fの高さより少しだけ高い板を選び、ナットの横に置いて溝切りをする形になる。弦高をギリギリまで攻めるというのであればもっと高さのバリエーションが欲しいところではあるが、自分のような初心者が「事故を防ぐ」目的で使うには十分だった。板は結構硬めで指板のアールに沿って曲がってくれるということはないので、1弦や6弦など外側の弦に対して使うときは若干固定しにくいという問題があったが、それでも今回この工具があることによる安心感はだいぶ大きかった。

なお、使うときは文字が書いてある面を下にするよう注意する。(出ないと文字の面に傷がついて削れてしまう)

溝切りも専用のヤスリを購入した。正直にいうと、溝加工済みのナットの高さの微調整程度であれば、この専用溝切りヤスリではなくもっと安く入手できる小さなナットファイルでもなんとかなったかもしれない。

完了

今回は初のナット交換/調整ということもあり、「ビビりが発生したり、音程がシャープしたりしない」ことを目標に作業をしてきた。工具とパーツに課金したことと事前に大分予習/イメトレをして臨んだこともあり、期待通りの出来栄えとなった。ナット取り付け時の高い弦高から、溝の調整をして原稿を下げた時の弾きやすさはなんとも感動があった。

フレットのすり合わせに加えて、ナット交換/調整まで自分一人でできたというのは素直に嬉しく、少し自信をつけることができた。これで今後また一段階、ギターリペアの幅が広がり楽しんでいけそうだという実感がある。良い経験になった。


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