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39-あるモーレツ社長の末路

 ある女性のお父さんが、会社の社長をしていたのだが、この人はかなり強引なやり方で短い間に急激に会社を大きくした人で、そのために取り引き先から怨みを買うようなこともあったらしい。そのお父さんが重い病気になり、女性が、どうしようかとあちこちに相談していたら、福岡市と北九州市の中間くらいの場所にある、あるお寺に相談に行ってみることをすすめられた。

 お父さんはそのようなことを一切信じない人だったので、女性がこっそりそのお寺に相談に行くと、住職が、それでは、この日時にお酒を持って来てくださいますか、と日時を指定してきたそうなのだが、それが、夜中だったそうである。

 女性が夜中にお酒を持ってそのお寺を訪ねると、本堂に案内され、そこで住職がお酒を飲みはじめた。そして、酔った住職に明らかに別の人格が乗り移って「悔しい、悔しい」と言い始めたそうである。話を聞いていくと、どうもその人は、お父さんの会社とかつて取り引きがあった人らしく、お父さんの強引なやり方で、大きな損害を受けたようだった。関係者でなければわからないような、個有名詞や個人名が出てきたので、おそらく住職の芝居ではないと思われ、その「悔しい」と言っている人は故人ではなかったため、どうも、その人の生霊がお父さんにとり憑いて、お父さんが病気になっている、ということらしかった。

 結局、女性と住職がその人の生霊を説得して、なんとか納得していただき、お父さんの病気は治ったそうなのだが、当のお父さんはそういうことを一切信じない人だったので、その後も強引な経営を続け、ある土地開発に絡んで、古くからそこにあった祠(ほこら)を、周囲の反対を押し切って移転させたところ、病気が再発して、今度は亡くなってしまったそうである。

 そしてこの話には後日譚がある。そのお父さんの四十九日の前後、雨の降る日の夜に、その家の呼び鈴が何回も鳴った。その家は郊外にある大きなお屋敷で、近所には家もなく、人通りもほとんどない。しかも雨の降る夜だったので、女性とお母さんは気味が悪くなって警察に連絡して、パトカーに来てもらったが、特に怪しい人物は発見されなかった。

 警察がいる間は呼び鈴は鳴らなかったが、警察が帰るとまた呼び鈴が鳴り始めた。その夜は一晩じゅうその家の呼び鈴が鳴り続けたそうだ。次の日、電気屋さんを呼んで、呼び鈴を点検してもらったが、特に異常はなかった。しかし、念のために新品に取り換えてもらった。ところが、その夜も呼び鈴は鳴り続けたそうである。呼び鈴は合計二日間鳴り続けて止まった。きっと父親が「わかったよ、色々ありがとう」と言いたかったんだろうと、女性は思ったそうである。

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