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副籍制度について考えてみよう!   「第1回学習・交流会」の報告

<開催決定までの動き>
 わたしたちは、子どものことで不安や悩みを感じたときに相談したり、情報交換ができる仲間づくりの場として、毎月第一土曜日午前に、地区公民館で集まりの会を開いています。日々の生活のこと、学校のこと、医療のこと、将来のことなど、情報や自分の体験談を自由に交換し、エンパワメントするピアサポートの場でもあります。
 昨年5月の集まりで、地区の特別支援学校に児童が在籍している母親から、「副籍制度」に関する話題が出ました。同じ特別支援学校に子どもが在籍している保護者が、制度について「聞いたことがあるような気がするが、よく知らない」と語り、制度の周知が十分でないことがわかりました。
 その後、10月、さらに今年1月、3月と何度も話題に挙がり、参加メンバーから、勉強会を実施してはどうかという声が出ました。滋賀県では、2022年度から開始されたけれど、2024年度の現在でもまだ“試行期間”とされています。(※1) 
 特別支援学校は県立で、地域小学校は市立と管轄が異なるため、制度の改善については、県と市の両方の教育委員会と話をしていく必要がある、他の地区の状況についても情報収集していく必要があるというように話が進み、まずは副籍制度を “知る”ことを目的に勉強会を開催しようということになりました。
 開催に向けて、助成金の申請や場所の確保、誰に話題提供をお願いするかなど、具体的な内容について5月の集まりで話し合い、8月18日(日)に第1回学習・交流会を開催することが決まりました。
 
「障がいあるわが子が地域の子どもたちとどうやったら共に過ごせるのか、一緒に考えてみませんか?」 
 
 これは、案内チラシの作成を担当してくださった保護者の方からの呼びかけの“ことば”です。わたしたちが、今回、この学習・交流会を開催する目的は、まさにこのひと言に込められています。
 当日は、子どもと一緒に来てくださったご家族や、教員、議員、サポート関係者など、参加者は30人ほどで、会場の和室の広さにちょうど良いくらいの規模での開催となりました。
 

<副籍制度の説明>
 最初に特別支援学校教員から制度の概要について、副籍の意義や実施の流れなどが説明されました。
 滋賀県では、2022年度(令和4年度)より副籍制度への取り組みが始まっています。当県において副籍制度とは、障がいのある児童が、小学校における「共に学び育つ機会」と県立特別支援学校における「専門的な教育を受ける機会」の両方を実現するための新たな仕組みです。
 保護者から相談を受けたり、交流授業を行うに当たって地域小学校との窓口となるなど、担任を持たずに副籍制度に専念する“副籍コーディネーター”が中規模の特別支援学校では1人しか配置されておらず(※2)、地域小学校には1人も配置されていないとのこと。交流授業の際には、対象児の学級担任が付き添いのために不在となるため、副籍コーディネーターがその学級に補助に入ることになるので、ひとりの児童に対して学期に1回、あるいは年に1回程度しか交流授業を行うことができていないなど、現場における課題も報告されました。
 制度化前の「居住地校交流」(R3年ごろ)では、特別支援学校での利用者は11人ほどでしたが、制度化されてからは倍増し、昨年度は36人で対象児童の46%に当たるそうです。今後も希望する児童は増加する見込みであり、対応できる人的配置・体制整備が必要です。
 

※1:滋賀県の副籍制度は、「小学校から特別支援学校」のパターンだけが 「試行」です。特別支援学校から小学校の方は制度として確立しています。
※2:副籍コーディネーターは、他の大規模校だと、2人いるところもありま  す。県内では、1人のところが多いです。
 

<事例発表1>
 次に、副籍制度を利用しているふた組の事例発表がありました。
 最初は、特別支援学校に主たる籍があり、地域小学校に副籍を持つ児童の母親からの発表です。
 就学相談会の折に本制度について話を聞いて、保育園で一緒だったおともだちと、普段は違う学校に通っていても、共に学べる機会ができるということに期待を持っていたと言われます。
 しかし現実には、年2回の交流にとどまり、初年度は滞在時間も短く、希望していた給食を共にすることもかないませんでした。
 学級の子どもたちに我が子のことを知ってもらうため、子どもの名前を冠した“通信”を作って、写真やイラストを織り交ぜ、できることやできないこと、好きなことなどを伝えてきました。
 担任の先生とも何度もやり取りして、2年目には母親が介助しながら、みんなと一緒に教室で給食をとることも実現しました。
 発表では、子どもたちとの交流の様子を動画で観ることができましたが、本児を取り巻くように集まってくる子どもらの表情は明るく、とても自然に輪が出来上がっていて、楽しい雰囲気が伝わってきました。
 発表してくれた母親は、まだまだ問題はあるが、たとえ1年に数回であったとしても、この体験は、我が子にとっても、周りの子ども、さらには保護者や教職員にとっても非常に貴重な時間だと語られました。それは、会場で発表を見守っていた本児の笑顔からも、しっかりと感じ取ることができました。
 

<事例発表2>
 続いて、地域小学校に主たる籍があり、特別支援学校に副籍を持つ児童の母親からの発表がありました。
 本児は医療的ケア児であり、本市においては現在、唯一の事例です。
 就学に当たっては学校側との話し合いを何度も繰り返し、受け入れ準備を整えてこられました。
 日々の学校生活や行事の際の対応など、その都度、細かな調整を行いながら、前例として実績を残し、後に続く子どもらへの道を切り開いておられるご家族です。
 特別支援学校での交流の時間を有意義に過ごすため、授業の内容を決める会議や、実施後の振り返り会にも積極的に参加し、より良い実践につなぐための行動を粘り強く継続されています。
 本児のことを知って、就学に合わせて他市から本市へ転入してこられたご家族もおられたそうです。
 本児は、現在6年生で小学校を卒業する年度であるため、来年春に地域の中学校へ進学するか、特別支援学校の中学部に進むかを検討されています。いずれも一長一短があり、本児にとって最善の進路を選択するため、情報収集や学校見学、体験を積んでおられるところです。
 目指すのは、障がいがあっても自立できる世の中になること。両親が年老いた時に、本人が自立できる場があって、きょうだいが時々、サポートするぐらいの社会になることだと力強く語ってくださるひと言ひと言に、深く共感しました。
 

<参加者からの感想、意見>
・本人も家族も地域で助けあいながら、穏やかな気持ちで過ごせる世の中になるといいなぁ。
・子どもの成長に制度が追いつかないもどかしさはありますが、仲間の存在を心強く感じました。
・小さな子どもの親さんに、こんな道もあるんだ、子どものこと一番に考えて動いて大丈夫なんだ、と思っていただけたらと、つくづく思います。
・交流授業は低学年のうちから開始する方が受け入れがスムーズだと考えられる。高学年になると思春期の影響もあって難しくなってくる
 

<課題はたくさんあるけれど・・・  孤独に頑張り過ぎない!>
 事例発表後の質疑応答、意見交換では、他市の副籍制度利用者からの情報提供もありました。
 地区の特別支援学校に主たる籍を置いている児童は、地域小学校に1学期に1回の頻度で、交流授業を行っているとのことです。その小学校には3学級あるので、各学期に1学級ずつ入っていること、また、その日の過ごし方は子どもらが考えて実施しているそうです。そのような方法もあるのだという新たな気づきを得ることができました。
 小学校から特別支援学級への副籍が知的障害を除外している状況や、中学生が制度外になっていることなどは、制度として大きな問題だと思います。
 しかし、本日の事例発表で語られたとおり、子どもらは数少ない交流授業ではあってもお互いの存在を肌で、心で感じ取り、友情をはぐくんでいることもまた、事実です。
 “共生社会の実現”、“インクルーシブ教育の構築”という理想的な社会を手に入れるための小さなステップを着実に積み重ねていくことで、実現への道を一歩ずつ進むことをあきらめない。
 わたしたちは、これからも仲間といっしょに、歩み続けていきたいと思っています。
 






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