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アフガニスタンを巡る20年と反戦歌

2021年8月15日、タリバンがアフガニスタンの首都カブールに迫り、全土を支配下に置いたと宣言したという報道がなされた。


直接的な引き金となった同時多発テロ、イラク戦争が起きた2001~2003年、僕は高校生だった。青春まっさかりの中で、当時この出来事はニュースとしてだけでなく好きだった音楽カルチャーからの問題提起が発信され、彼らが送り出したビルボードTOP40に挙がってくる反戦歌に影響され、10代の僕の価値観は大きく揺さぶられた。

今あらためてその曲群を聴いていると、当時の空気がよみがえってくるとともに、時間とともに薄れていく記憶をリマインドさせてくれる装置として作品が大切な役割を果たしてくれていることに気付いた。

このnoteは、価値観の再編を迫られた当時の社会の空気を呼び起こすものとしてその反戦歌を紹介するとともに、この20年のアフガニスタンの歩みを振り返るものだ。

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その時の話に入るためには、2001年より少し前段から書く必要がある。

1979年、当時共和制だったアフガニスタンにソ連が侵攻。ソ連と対立したのは、反ソを掲げるイスラム聖戦士、ムジャヒディンという組織だった。そのムジャヒディンを支援していたのがビンラディンであり、その勢力を支援したのがアメリカだった。様相はソ連対アメリカの代理戦争を呈していた。

1989年、ソ連は撤退。戦中戦後の難民が隣国パキスタンに流れた。

1996年、アフガニスタンにタリバン政権が発足。お題目的には代理戦争後の混乱の世直しだった。彼らはイスラム教に基づく原理主義的な国家を作ろうとした。※イスラム教の教えに忠実な社会というよりも、教えを基に過度な制限を敷いたと理解したほうが正しい。


Green Day - American Idiot (2004)
アメリカのパンクバンド、Green Dayの7作目のアルバムの1曲目であり、アルバムタイトルにもなった作品。全米・全英ともに1位を獲得。全米で600万枚をセールスするなどの大ヒットとなった。MVでは、背景に建てられたグリーンの星条旗が水に溶けて流れて消えるという演出がメッセージとして強い印象を残した。


2001年、同時多発テロ事件発生。「ビンラディンによって結成された国際テロ組織アルカイーダを、タリバンが援護している」として「悪の枢軸」と呼び、アフガン空爆が開始され、タリバン政権は崩壊。これによりアフガニスタンには、アメリカが主導する暫定政権が誕生することになる。このとき逃げ延びたタリバンはパキスタンに逃れていたとみられている。以降アメリカは、アフガニスタンの正常/安定化よりも対テロ路線を突き進む。

2003年、「イラクのフセイン大統領独裁政権が大量破壊兵器を保有している」とし、アメリカはイラクを攻撃。イラク戦争が勃発(結果的には大量破壊兵器保有の確かな証拠は得られなかったままである)。

2004年、アフガニスタンは新憲法を採択。大統領選挙が行われ、カルザイ大統領就任。アフガニスタンを「普通の国にする」という目標はアメリカだけでなく国際社会の総意だった。しかし、アフガン社会は混乱と腐敗の最中にあったため選挙の不正が囁かれ、アフガニスタン国内では選挙結果に異論が唱えられたもののアメリカがこれを握りつぶした。「アメリカが言う自由と民主化とはなんなのか?」といった疑念がアフガニスタンに住む人々を覆いはじめていた。


The Chicks - Travelin' Soldier (2002)
当時のバンド名は「Dixie Chicks」。カントリー・ミュージックの3人組バンド。アメリカ保守層にファン基盤をもつカントリー出身バンドが反戦歌を歌ったことが衝撃を与えた。歌詞中に登場するのはベトナム戦争ではあったが、リード・ヴォーカルのナタリー・メインズが、ブッシュ大統領が行ったイラク戦争を公共の場で批判し大きな論争となり、グループの方向性を決定づけていくことになる。2020年6月26日、ディクシーという南部奴隷制にリンクするDixieをバンド名から排除し、「The Chicks」に改名。


2009年、アメリカはオバマ大統領就任。対テロ路線から一転、アフガニスタンの安定化を目指す。タリバンを和平交渉に引き込む狙いで、追加派遣を行いながらも一年半後に兵を引き揚げると表明。国連諸国もこの路線に同調しアフガン政権の正統性を認め、アフガン人社会と手を結ぶことになるが、それは同時にアフガン政権への影響力をとる代わりに、横行していた腐敗と人権侵害を知らぬふりしていくことを暗に認めることでもあった。事実、09年・14年・19年の大統領選で大規模な不正が行われたが国連諸国はそれを見逃した。アフガン政権にとって国際社会に認められアメリカと手を結ぶ目的は経済支援を受け続けられるからであり、自らで国を管理する能力はなかった。

2010年、イラク戦争終結宣言。

2011年、ウサマ・ビンラディン殺害。


The Black Eyed Peas - Where Is The Love (2003)
アメリカのヒップホップグループ。女性ヴォーカルのファーギーが正式メンバー入りしてのファースト・シングルだった。「?」を街中にタギングしていくMVは記憶している人も多いはず。収録アルバム『Elephunk』は全米売上320万枚を超える大ヒットとなった。


2014年、アフガニスタン大統領選。ガニ大統領就任。大規模な不正があったとして選挙のやり直しの声なども起きた。

2015年、<アフガニスタン>と<タリバン>直接和平交渉。

2016年、<アフガニスタン・パキスタン・中国・アメリカ>と<タリバン>和平交渉。ともに決裂。むしろ、国ではないはずの組織タリバンと大国が対等のテーブルに座ってしまったことで、タリバンを国に準ずるものとして認めた、というメッセージになってしまった。これをきっかけにタリバンはさらに勢いを増していく。

2019年、アフガニスタン大統領選。ガニ大統領が再任。またしても大規模な不正があったとして選挙のやり直しをもとめる声が起きた。既にアフガニスタンの水面下では、ガニ政権よりもタリバンを支持する者、あるいはアメリカが完全に手を引けばタリバンが政権を奪取することは目に見えていたため、政権交代後の粛清を恐れ、心の内では寝返る機を伺っていた者が多数いたとみられている。

2021年、アメリカのバイデン大統領が8月末までに駐留米軍を完全撤退させると発表。タリバンはそれを待つことなく、首都カブールに迫り、アフガニスタン全土を支配下に置いたと宣言した。


ライムスター - 911エブリデイ (2003)
日本のヒップホップグループ。メジャー以降6枚目のシングル『ザ・グレート・アマチュアリズム』のカップリングとして、そして3枚目のアルバム『グレイゾーン』にも収録された。アフガニスタンやイラクに攻め入る戦争映像を観ながら「また本日も記念日指定外か なのに事実あの日と似ていないか?」と日本人の目線からアメリカだけに肩入れすることなく戦争報道をみるようメッセージを発した。

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ここで紹介したのは当時流行した反戦歌のほんの一部だが、『非西洋社会にアメリカが下す平和=民主化は本当に平和をもたらすのか?』という気付きを彼らに与えてもらった。また、それをきっかけに本を読み、そのような仕方が成功している先行事例はほとんどなく、唯一といっていい成功例の日本に住む自分がこの問題を思考することができるのか?という命題に、10代の僕は価値観を揺さぶられた。

その疑念は別にカルチャー小僧の頭の中だけでなく、当時は一部の報道や討論番組でも見られた態度だったと記憶しているが、現在タリバンについてのテレビ報道を見る限りそのような色は微塵も感じさせない。今の十代が何の事前情報もなく「反政府武装組織」とタリバンを表現しているのを耳にしたらどう思うのか。少なくとも疑問を持って自分であらためて調べようとは思えなそうだ。せめてその疑問を抱かせる程度の『複雑さ』くらいは伝えるメディアであってほしいと願う。

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最後にひとつ、もっとも大事な留意をしておかなければならない。この命題に当たったときの安い(といっていい)帰結としてありうる態度を紹介しておきたい。

凶気の桜(Evil crazy sakura) Trailer (2002)
ヒキタクニオ原作、薗田賢次監督の日本映画。
東京の渋谷生まれ、渋谷育ちの主人公、山口進(窪塚洋介)は、戦後から長らく続く日本の歪んでしまった愛国心、多種多様化した人々の価値観、倫理観など憂える。小菅(須藤元気)、市川(RIKIYA)と共に、「ネオ・トージョー」という名のナショナリストとして「暴力こそ正義」という信念で社会を浄化すべく活動する。


日本において「脱アメリカ」と「ナショナリズム」は親和性が高い。こんな設定もフィクションと今見れば笑えるのかもしれないが、事実僕の周りに近い思想にかぶれたひとは少なくなかったし、恥ずかしながら自分も一瞬であったが共振した。このnoteは自分にとっては禊でもあったのかもしれない。

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こちらの記事は、トーク配信「三軒隣」で2021年8月26日に話したものを文章化し直したものです。毎週木曜日の夜にTwitterのスペース機能を使ってMCを週替わりしながら配信しています。

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