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【保存版】クリエイター必見!pixivFANBOX中の人に聞く、支援サービスの使い方

クリエイターエコノミーと呼ばれる、個人が創作物によって収益を得られる経済圏が拡大しています。

クリエイター個人がネット経由でお金を稼ぐ方法が多様化していく中で、その知見を発信する当メディア「クリエイターエコノミーラボ」が今回お話を聞いたのは、クリエイター支援サービス「pixivFANBOX」の中の人・坂本寛さん(ピクシブ株式会社)です。

坂本さんは、これまで数多くのクリエイターさんをサポートしてきた経験から、FANBOXに限らず、さまざまなクリエイター支援サービスの使い方と、ファンに直接課金で支援してもらうコツ、支援者とのコミュニケーションで気をつけるべきことをお話ししてくださいました。

クリエイターの活動資金を、ファンが支えるサービス

pixivFANBOX|FANBOXは、国内最大規模のイラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営するピクシブ株式会社による、ファンがクリエイターを月額で支援できるプラットフォームです。イラストレーターや漫画家はもちろん、VTuberなどの配信活動者、小説家、声優、ミュージシャン、プログラマーなど、さまざまなジャンルのクリエイターが利用しています。

ーーFANBOXのようなクリエイター支援サービスを利用する絵描きさんや配信者さん、ずいぶん増えたように感じます。

坂本:そうですね。

クリエイターの活動を続ける上で、やはりお金は必要ですし、経済的な余裕があれば、より創作にリソースを集中できます。この4〜5年でかなり景色が変わったと思います。

もともと日本のある世代以上では、「ファンにお金を恵んでもらうのはダサい」みたいな価値観、いわゆる嫌儲(ネットでお金儲けする人を嫌うこと)のカルチャーが根強くあるように感じます。

「FANBOXをやってみたい」と相談してくださる方でも、自分のまわりからの見え方が気になって始められなかったり。あるいは微妙にうまくいかなくて更新しなくなったり。

一方で、YouTubeネイティブの世代の方になると、動画や配信で広告収益を得たり、スパチャ(スーパーチャット。YouTubeの「投げ銭」機能)の文化に最初からふれているので、当たり前のこととして、あまり心理的な抵抗がない。

やはり、これからは「クリエイターがファンから直接お金をもらっていい」という方向に進んでいったほうが、最終的にはクリエイターもファンも幸せになれるんじゃないかと思っています。

最初は月額500円のプランを作るのがおすすめ

ーークリエイターがpixivFANBOXのようなサービスを利用するとき、気をつけるべきことをお聞きしたいです。

坂本:私がクリエイターさんとお話しするとき、一番よく聞かれるのは、プランの金額設定とコンテンツの更新頻度についてです。

これに関しては明確な答えがあって、金額は月額500円スタート、更新頻度は週一でOKです。

FANBOXの場合、1支援の平均が月額500円くらいですので、プランはこの額に設定しておけば、とりあえず失敗がありません。

100〜200円の安いプランを作っているクリエイターさんは結構いらっしゃるんですが、500円より安いプランを最初に作ることはオススメしません。

ーーなぜですか? 少額のほうが、出してもらいやすそうな気もしますが。

坂本:例えば、同じ10万円の支援を得るために、100円の支援者なら1,000人の支援者を集める必要があります。500円なら200人です。

そう考えると、かなり難易度が違うことがわかるかと思います。もちろん、人によって例外はあるかもしれませんが。

ーーたしかに、かなり変わりますね。

坂本:まずは無難な500円プランだけでスタートしてみて、なかなか支援が集まらないと感じるなら、支援のお試し用として300円くらいのプランを検討してみてもいいかもしれません。

しかし、最初から下げてしまうのはもったいない、ということです。

また、最低金額を100円スタートにすると、何かオマケを追加しない限り、あとから金額を上げるのは難しいです。そのため、本心では金額を上げたいけど、ずっと100円プランを続けているクリエイターさんもいます。

ちなみに、500円の上には1,000円くらいのプランを置いているクリエイターが多いです。さらに支援したい人向けに2,000〜3,000円あたりのプランも多いです。

いわゆる「石油王向け」みたいな感じで1万円プランも見かけます。意外と入ってくれる方はいるようです。逆に5,000円くらいだと中途半端なのか、プランがあっても誰も入らないことが多いです。

とはいえ、プランごとに特典を用意するのは大変ですから、プランの数は多くても3つくらいまでにとどめておくのが良いと思います。

あるいは「高いプランはもっと支援したい人専用で内容は同じです」という風にしておかないと、なかなか長くは続けられません。

いずれにせよ、プランの金額や内容に悩んで始められないのは損失でしかありません。支援者を増やすには時間がかかるのですから、始めるのは早いに越したことはない。

FANBOXは、やってみないと分からないことも多いので、とりあえず無難な500円でやってみて、そこから自分なりに試行錯誤して最適なプランを考えてみてほしいですね。

あくまで支援であってコンテンツの対価ではない

ーー以前、「支援額に見合ったコンテンツを提供できる自信がない」と話すクリエイターさんがいました。だから、ついプランの金額を下げてしまう気持ちは分かります。

坂本:FANBOXに限らず、ものすごくよく言われる話なんですが、そもそも、お金に見合った価値があるかどうかは支援者側が判断すべきことなんです。

例えば500円あれば、約200ページあるマンガの単行本が1冊買えるわけです。それに匹敵するコンテンツを個人のクリエイターが毎月出すなんて無理じゃないですか。

にもかかわらず、FANBOXには毎月1万円プランで支援したい人だっていたりするんです。クリエイターがそれに毎月コンテンツだけで100%応えるのは不可能です。

支援者側は、何か見返りを求めているというよりは、どちらかというとクリエイターをただ支えたいんです。

支援したお金がクリエイターに自由を与えて、その結果としておもしろいコンテンツが生まれるということが、支援者にとって一番うれしい。

逆に、好きでお金を払っているのに、私はそのお金に見合ってなくて申し訳なくて活動できませんとクリエイターに言われたら、支援者は困ってしまいます。

もちろん、支援者は新しいコンテンツを楽しみにしているとは思いますが、それよりも「わしが育てた」と言いたいわけです。だから存分に「わしが育てた」と思ってもらえばいい。

支援者に何も返さなくていいという話ではなく、それくらいの気持ちで運営したほうが、お互いにとって幸せになれるということですね。

「支援する側」の気持ちを知ろう

ーーそうは言っても、実際にやるとなると気おくれしてしまうのも分かります。「守銭奴のように思われるんじゃないか」と、見え方が気になってしまったりとか……。

坂本:FANBOXのようなサービスは、お金を払う側を経験しないまま、いきなり支援される側になれてしまうので、支援者の気持ちが分からないという人が多いように思います。

例えば同人誌即売会だと、先に同人誌を買う側を経験する人がほとんどなので、金額設定やどうやったら売れるかといった感覚を掴みやすい。しかし、クリエイター支援サービスはそうではない。

だから、クリエイター側にそういう不安というか、支援者の気持ちとのミスマッチが発生するんですね。最近は「VTuberにスパチャをしたことがあるから感覚が分かる」といったケースも増えてきましたが。

その感覚がいまいち掴めないというクリエイターさんは、まず自分が好きなクリエイターさんのFANBOXを探して、自分がそれにお金を払えるか考えてみたり、実際に支援してみるといいと思います。

いざ支援者側になってみると、そこまで細かいことは気にならなかったり、「もっと支援させてほしい」とか「もっと休んでいいのに」とか思ったりしますからね。

むしろ「気持ちよくお金を払わせてほしい」みたいな。

ーー確かに「支援者側の気持ちを知るタイミングがなかった」という人は、案外多いのかも……。

坂本:「支援額に見合ったコンテンツを出さなきゃいけない」という強迫観念が生まれてしまうのは仕方ないんですけどね。

でも、そう考え始めて、なおさら何も作れなくなるクリエイターさんは、とても多いんです。あるいは、がんばって投稿しすぎて、あるとき反動が来てフッとFANBOX自体をやめてしまう。

FANBOXでは、そういったクリエイター側の心理的なプレッシャーを可能な限り減らすことや、支援者側が損をしたように感じにくい構造になるよう、設計・運用をしています。

例えば、一度でも支援したら、それ以前の過去の投稿は全部見えるというのも、そうした前提があります。

あえて「コンテンツを販売している」ような構造にならないようにしていますし、私自身もクリエイターさんには、そこをよく理解してほしいとお話ししています。

もちろん、過去の投稿を消したり、まとめ直して弊社運営のBOOTH(創作物の総合ECサイト)で販売したりすることは可能です。

ただ、FANBOXは原則的にファンから支援を受ける場所としたほうがクリエイターさんにとって居心地が良くなるよ、ということですね。

FANBOXは完成品ではなくプロセスを見せる場所

ーー支援者しか見られない限定コンテンツを投稿する上で気をつけるポイントも教えて欲しいです。

坂本:先にお伝えした通り、基本的には週一で何か出しておけばOKです。

そのくらいの頻度で更新しておけば、ファンが極端に離れることはありません。中には月に1〜2回の更新でうまくいってる人もいますしね。

もちろん更新頻度は高いに越したことはないですが、無理なく続けられることを意識するのが一番大事です。

その上で、気合いの入った完成品を投稿するというよりは、何かを作るプロセスを見せるのがオススメです。

ーープロセスですか。

坂本:もちろん、しっかりと完成度の高いものを上げるのは喜ばれるんですけど……例えば漫画家さんだと、週一でちゃんと描いた漫画を上げるってかなり大変じゃないですか。

そうではなく、仮に16ページの漫画を描くなら、FANBOXでは完成したページを4ページずつとか、徐々に上げていくような使い方をすればいい。

最終的にTwitterやpixivで無料公開する漫画だったとしても、ちょっとずつFANBOXで先読みができるとなれば、支援者にとっての価値になります。

あるいはイラストなら、ラフから完成までのプロセスを見せる。月に1枚くらいFANBOXでしか見れない絵とかページとか差分があったりするとかなり良いですが、それがなくても問題ないと思います。

プロセスを見せる過程で、コメントで意見を募ったり、どちらが好きかアンケートを取ったり、ちょっとしたことでも支援者に参加してもらうと「わしが育てた」という満足感は高くなります。

「絶対やってはいけないこと」とは?

ーーアカウントを運営する上で、何か注意することとかありますか?

坂本:無理はしない、できない約束はしない、嘘をつかない」ということですね。

基本的に好きで支援してくれるような人はあまり怒ったりしませんが、クリエイターに約束したことを破られたり、嘘をつかれたと感じたら、どんな人でも怒ります。

むやみに期待値を上げない、ハードルを上げないということでもありますね。

例えば「1年継続して支援してくれた人にサイン色紙を描きます」みたいな約束をしてしまって、忙しくて手を付けられず、クリエイターが更新のたびにずっと謝り続けたり、そもそも気まずくて更新しなくなる、みたいなことがまれにあるんです。

ーーそれは辛いですね……。

坂本:簡単にできると思っていても、約束したら急に重荷になったりするんですよね。

支援者に何かお返しをしたいなら、準備が全部完了してからサプライズでいきなりやったほうがいい

極端なことを言えば、いっそのこと「気が向いたら何かやるかもプラン:1万円」くらいのノリのほうがいいんです。

そのプランを支援する人は、本当に気が向いたときだけ何かしてくれることを望んでいるわけで、それにクリエイターが無理に応えようとするとおかしなことになる。

つまり、支援者は究極的にはクリエイターに自由を与えたくて支援するのであって、その支援がクリエイターの自由を奪う形になったら本末転倒なんです。

支援の見返りに何かを約束するというのは、そう考えると本質的にちょっと矛盾しているんですね。

ちなみに、約束ではありませんが、似たようなお話で、もし忙しくて更新できないとか、病気になってしまったとか、いわゆる報連相は大事です。

予告なく更新が止まると支援者は怒りますし、支援も減りますが、きちんと事前にお知らせがあれば、むしろクリエイターの一大事ということで支援が増えることすらあります

どれくらいの支援者数が見込めるのか?

ーー支援者さんの数って、実際どれくらい集まるものでしょう?

坂本:もちろん人によって上下しますが、Twitterやpixiv、YouTubeのフォロワー数(チャンネル登録者数)の約1%が支援者になってくれると見て良いと思います。

たくさんのクリエイターさんにお話をお聞きしてきた経験上、FANBOX以外のサービスであっても、平均すると大体これくらいの数字になるんじゃないかと思います。

そうすると、FANBOXの場合、平均支援額が500円なので、1万フォロワーの人だと5万円、10万フォロワーの人だと50万円くらいの支援が毎月集まるくらいの見込みになります。

ーーかなり明確な数値が出ますね。

坂本:もちろん、あくまで平均のお話ですので、FANBOXを始めたら誰でもすぐその数字になるわけではありませんし、逆に平均よりもっと多い人もいます。

こうした話題では、最近は企業のVTuberさんがよく取り上げられているイメージですが、イラストレーターさんや漫画家さんなど、他のジャンルのクリエイターでも、個人でそれに匹敵する支援を集めている方は、おそらくみなさんの想像以上に増加しています。

私の立場から具体的な数字は出せませんが……「夢がある」とは十分に言えると感じています。

HIKAKINさんのような、具体例として名前を出しやすいヒーロー的なクリエイターが出てきてほしいですね。私も説明しやすくなります(笑)。

個人的にもクリエイターはもっとお金をもらうべきだと思っていますし、そうなるように私たちもお手伝いしたいですね。

クリエイターの選択肢は増えている

ーークリエイター支援サービスでの直接課金を通じて、創作だけで食べていける人の数も増えているように思います。

坂本:少なくともFANBOXに関しては、創作だけで食べていける人の数を確実に増やせていると思います。

また、他社さんのサービスの細かい数値は分かりませんが、同じくらいの規模であろうサービスは国内だけでも複数ありますので、ファンからの支援のみで生活できるようになったクリエイターはかなりの数、おそらく万の単位で存在するはずです。

ーーまさに「クリエイターエコノミー」が拡大しているわけですね。

坂本:例えば、私は過去に漫画編集者もやっていたのですが、商業漫画家は単行本が1巻あたり3〜5万部くらい売れるとなると安定します。

しかし、そこに到達できる人数は極めて少ない。1万部に到達するかしないかくらい、連載を継続できるかギリギリというゾーンの大多数の方は、結局は食っていけなくなり創作をやめてしまうことも多かった。

あるいはアシスタントで食べていくとか、バイトで食いつなぎながら続けるとか、そうしたらバイトが忙しくて描けないとか……。

それが、FANBOXなどのサービスで受けた支援を生活費の足しにしながら創作を続けられるようになった。

場合によっては「商業出版でなくても、個人の活動だけで夢のある金額が入ってきた」ということが起こりうる世界観になっている。

そういう選択肢があることを、より多くのクリエイターに伝えたいですね。

かつてYouTuberという存在がたどった道筋のように、確かな情報が伝わり、世間にも受け入れられ、より創作を続けやすい世界へ向かうための取り組みを、これからも続けていくつもりです。

pixivFANBOXノウハウまとめ

・クリエイター支援サービスのプラン金額設定は月額500円からスタート
・支援者数の目安となる平均目標はSNSフォロワー数の約1%
・更新頻度は週1回が無難だが忙しいときは月1回でもOK
・完成した作品を投稿するというより、完成までのプロセスや完成作品の差分を見せる意識でやったほうが続けやすい(例えば……ボツ素材、落書き、日記、絵のラフ、完成前に先読み、完成作品のオマケや差分、etc.)
・実現が難しい約束などハードルを上げないようにする
・更新できないときは、なるべく早く告知する(可能なら月1で途中経過の報告をアップ)
・支援者とのコミュニケーションを大切にする

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坂本寛|ピクシブ株式会社クリエイター事業部FANBOX部エヴァンジェリスト。ライター、編集、漫画編集業などを経て、2019年より現職。クリエイターのサポートおよび企業単位のFANBOX開設コンサルティングなどを担当。

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