YouTubeで超話題!ゲーム開発兄弟・Chilla’s Art 2年で20作以上リリース、パトロン300人が支援
個人が創作で収益を得られる「クリエイターエコノミー」と呼ばれる経済圏が、あらゆるクリエイティブの領域で拡大しています。
その流れはゲーム業界にも及んでおり、PCゲーム販売プラットフォーム「Steam」を中心に、インディーゲームの市場が盛り上がっています。
そんな中、新作ゲームを出すたび、数百万人の登録者を抱えるYouTuberたちによって実況配信され、大きく注目を集めるクリエイターがいます。
Chilla’s Artさんは、アメリカ育ちの日本人兄弟二人でゲームを開発しているインディーゲームクリエイター。
その特徴は、1〜2ヶ月に一本という短いスパンでどんどん新作ゲームを出すことと、和風ホラーゲームを作り続けていること。
実況時に配信者がリアクションを取りやすいホラーというジャンルであることも作用し、代表作の一つ『夜勤事件』は100件以上の実況動画が公開されています。
さらに、パトロンサービス(クリエイターがファンから月額課金で支援を受け、支援額に応じたコンテンツを提供できる仕組み)の「Patreon」を活用し、ゲームのベータ版やクレジット掲載権、ゲーム内に登場できる権利などを提供することで、支援者である300人以上のファンを巻き込んでゲーム開発をしています。
今までにない形で資金を集め、個人でゲームを開発し、次々にヒットさせ続ける兄弟にインタビューしました。
アメリカ育ちだからこそ、和風ホラーに惹かれた
ーーChilla’s Artさんはレトロな和風ホラーゲームを続けて制作されています。なぜアメリカ育ちの兄弟二人で、和風ホラーなのでしょう?
兄:小さい頃から、二人とも日本のホラー映画が好きだったんです。
アメリカに住んでいた頃、初めて見たのが『呪怨』。「これは怖いし、面白い」とすごく感動した覚えがあります。
現在は兄弟で日本に住んでいますが、僕たちはアメリカで育ったので、日本の風景が今でもすごく新鮮に見えるんです。
それだけじゃなく、日本の景色ってどこか怖いところがある。公衆電話やトンネル、地下鉄のホームとか……好きなんですよね。
弟:日本でずっと暮らしてきた人からすれば当たり前の景色だと思いますが、僕たちはそういったものに心を動かされるんです。
アメリカにいたときから、兄弟で「日本の風景って良いよね」という話をすることがありました。
兄:日本に住んで、その風景の中で生活しているだけで、作りたいものはどんどん出てくるんです。
心霊スポットとか事故物件とか、調べればいくらでも見つかりますしね。
ーー長年アメリカで暮らしていたからこそ、和風ホラーゲームのアイデアがどんどん出てくるというのは面白いですね。
「悪く言えば手抜き」 でも、ニーズを掴めた
ーーお二人は1〜2ヶ月に一本という短いスパンで次々にゲームを作っては公開されています。
弟:僕たちのゲームって、悪く言ったら手抜きというか、そこまで凝ってないんです。
昔はすごく頑張って作っていた時期もあったんですけど、今はそこまで頑張らずに作っていて。いや、もちろん頑張っているんですけど(笑)。
兄:とにかく新しい作品をどんどん出すことを大切にしています。
そうやって次々とゲームを出してきたからこそ養われたマーケット感覚があると思っていて。
ーーひとつの作品をすごくこだわって出すというより、多少粗くても作品を出してユーザーの反応を見る。それによって、需要のあるゲームを出せるようになった?
兄:まさにそうだと思います。インディーのホラゲー制作って難しいところがあって、みんなが作っている「正解っぽいもの」があるんですよ。
でも、それに追従してうまくいくには、本当にめちゃくちゃ面白いものを作る必要があって。
それってすごく難易度が高いことだから、まずはみんなと違うものを作ることから始めたほうがいいと思うんです。
弟:本当に、みんな同じようなものを作りすぎだと思います。最近は僕らの真似をする人も増えてきましたが……それじゃダメなんじゃないかな。
難しいものを作らなくてもいいんだけど、ユーザーが何を求めているかを知った上で、周りと違うものを作らなきゃいけないというか。
ーーとにかく作品を出すことでユーザーの反応を見ている。
兄:インディーゲームを作ってヒットさせたいなら、簡単なゲームでもいいから、やっぱりいっぱい出すべきだと思います。
そうすると、何が求められているか分かるようになるんです。
兄は退職 弟はゼロからプログラムを学ぶ
ーーインディーゲームを作り始めるまでの話を伺えますか?
兄:最初にゲームの開発を始めたのは、二人ともまだアメリカに住んでいたときで、当時は僕一人で開発していました。
僕はアメリカのゲーム会社で3Dアーティストとして働いていて、趣味としてもゲーム開発をしてみようと、2017年12月から最初の作品『Evie』の開発を始めました。
制作に取り組む中で僕はプログラミングの分野が弱いと気づき、弟に手伝ってもらうことになったんです。
余談ですが、『Evie』の開発中に弟と一緒に日本に引っ越して、ゲームはその後の2018年2月にリリースしました。
弟:僕は兄に誘われた当時、高校を卒業して何もやることがなかった時期で。
大学に行きたいとも思わなかったし、やることが見つからなくて、どうしようかと考えていたところに兄がゲームを作っていると聞いて。
ものづくりをしたい気持ちはあったし、一緒にやってみてもいいかなと思ったんです。
ーー弟さんはプログラミングの経験があったんでしょうか?
弟:実は、一緒にゲームを作ることが決まってほとんどゼロから学んだような感じでした。
とはいえ、Unreal Development Kit(『Fortnite』などを提供するEpic Gamesが配布していたゲーム開発用のフリーソフト)を使って、趣味で友達とゲームを作ったりしていたし、英語が読めることもあって、サクサクと学べたんですよね。
ーー当時はまだ売り上げが立っていなかったはずですが、その道を選ぶことに不安はなかったのでしょうか?
弟:不安は特になかったですね。当時、他の売れているインディーゲームを見て、これは自分たちでも作れるなという感覚があって。
兄:当時、インディーのホラーゲームは流行ってはいたんですが、国産のゲームが全然なかったんですよね。
当時Steamで目立っていた国産ホラゲーって、『青鬼』か『影廊』くらいだったんじゃないかな。
そこで実際に作って出してみたら少しですが売り上げが立ったので、これはいけると思ったんです。
こだわってゲームを作っても売れなかった
ーーじゃあ、最初にゲームを出してからどんどんうまくいったんでしょうか?
兄:それが、最初は足踏みした時期もあったんです。
2019年6月に1年ぐらいかけて『Blame Him』というゲームを作って出したんですが、思ったほど売れなくて。
時間をかけて、こだわって作っても売れるわけじゃないと実感しました。
弟:うまくいかなった時期は、この活動をやめて他のことをやろうかなみたいな考えが浮かぶこともあったりして。
そんなとき、ゲームの題材にならないかと、母に「何か怖いものがないか」という話を振ってみたら、「昔、赤マントの怪談が流行っていた」という話をしてくれたんですよね。
それがきっかけで、兄と「日本の都市伝説って面白いんじゃないか」と盛り上がり、和風ホラゲーを作ることになりました。
そこからさらに議論を重ねて、和風ホラーをテーマにすることになり、その一作目として作ったのが『おかえり』です。
兄:『おかえり』を出すと、すぐに良い反応が返ってきたんですが、このゲームにかけた制作期間って2週間だけだったんですよね。
たったこれだけの手間で作ったゲームがこんなに面白がってもらえるなら、同系統のゲームをいっぱい出せばいいんじゃないかと、短期間でどんどん出してみることにして。
そのまま出し続けて今に至るという感じです。
「そんなに面白いゲームじゃなくても、意外と配信してもらえる」
ーー今ではChilla’s Artさんの新作ゲームが出ると、主にVTuberの人たちが一斉に実況配信をするという盛り上がり方をしていますよね。どういうきっかけで実況されるようになったんでしょう?
弟:最初の頃に配信してくれたのは、VTuberの人たちではなく、個人でホラゲー実況をしている人たちで。
決して有名な人たちばかりというわけではないんですが、僕たちのゲームを見つけてプレイしてくれたんですよね。
僕たちが何か仕掛けたわけではなく、ゲームが売れるにつれて、配信者の方にも行き届くようになったというだけですね。
兄:勝手に広まった感じですよね。言葉が悪いですが、そんなに面白くないホラゲーでも、割とみんな遊んで配信してくれるんです。
あと、さっきも話しましたが、国産のホラゲーって少なくて。実況者の人たちがプレイするゲームも、海外製のものが多くて、英語やロシア語にしか対応してなかったりするんですよね。
僕たちのゲームは日本語に対応しているから、それも大きかったのかも。
弟:「日本の人たちが作っているゲームなんだね」みたいに、配信でもよく言われていたので。
ーーそこから、これほどまでに実況配信が盛り上がるようになったのは?
兄:『夜勤事件』というゲームを出したときに、VTuberの人たちの間で一気に広まって、たくさん配信されるようになったんです。
もともと有名なホラゲー実況者さんに配信してもらうことはあったんですが、VTuberの人たちの影響はとても大きくて、遊んでくれる人がものすごく増えました。
ゲーム内に登場できるリワードが話題に VTuberの配信で知名度急上昇
ーーChilla’s Artさんのゲームは、Patreonで月100ドル以上を支援するパトロンになると、ゲーム内に登場することができるんですよね。
そのことが、ゲーム内に登場したいという配信者の人たちの間で大きく広まり、配信者本人や、親交のある配信者が登場している様子を見にいく配信が盛り上がっています。
弟:ゲーム以外だと同様のことをしているケースを見かけますが、日本のインディーゲーム開発者でこういうやり方がうまくいっているのって、自分たちがおそらく初なんじゃないかな。
ゲームクリエイターを支援するリワードって、エンドロールに名前が載るとかが多いんですが、僕たちは思いつきでゲーム内広告を作ってみたら、うまくいったという感じです。
ーー今では、パトロンの支援が開発費になり、ゲームが出るとゲーム内広告を出した配信者さんの実況が盛り上がり、動画が話題になるとゲームに登場したいパトロンがまた集まるという好循環になっています。
兄:でも、今となっては楽しんでいただけていますが、始めた頃はめちゃくちゃ不評だったんですよ。
『夜勤事件』という作品で初めてゲーム内広告のリワードを始めたんですが、『行方不明』という作品を出したタイミングでそれが広まって、その次の『幽霊列車』という作品に電車広告を出せるリワードを求めたパトロンが一気に増えて。
有名な配信者さんがたくさん支援してくれて、とてもありがたかったんですが、ゲームをプレイしているときに一目で「見たことある人だ」と分かるようになってしまって。
弟:電車広告だと目立ちすぎたんですよね。だから、ゲームの雰囲気が損なわれて、冷めてしまう人がいたんだと思います。
Steamでもネガティブなレビューをたくさんもらったりして。
弟:あからさまなゲーム内広告は嫌がられると分かったから、ゲームをプレイしていて自然に見つかるものではなく、探せば見つけられるアイテムとして登場させるなど、今はやり方を変えました。
あと、ゲームの設定で広告自体をオフにする機能を付けたりなど、「見つけたくない」という人のための配慮もしています。
海外のクリエイターを真似て、パトロンサービスを開始
ーー日本だと、そもそもPatreonなどのクリエイター支援サービスで金銭的な支援を受けながらゲーム開発をしているインディーゲームクリエイターって、少ないように感じます。
弟:最近少し見かけるようになりましたが、まだ全然いないですね。
海外だとそういうやり方をしている人はそれなりにいて、僕たちがPatreonを始めたのもそういう人たちを参考にしたからなんです。
そういう例を見て、僕たちみたいな小さい規模でもいろいろなリワードを用意できそうだから、やってみようと僕が提案しました。
ーー弟さんが提案されたんですね。
兄:始めた当時は今ほど話題にもなっていませんでしたが、アカウントを開設すると僕たち作品のファンだった人たち20〜30人くらいがパトロンになってくれました。
それから、初期の頃にパトロンになってくれたゲーム配信者の人たちが、動画でPatreonの仕組みを解説して、「入ってみるといいよ」と視聴者さんに声かけしてくれたりして。
そうやって少しずつ広まっていって、ゲーム内広告のリワードが話題になったタイミングで一気にパトロンが増えたという感じですね。
支援のプレッシャーが、制作のモチベーションに
ーーパトロンはどういう人が多いんでしょうか。
兄:一番多いのは、5ドルと10ドルのプランで支援してくれている人。
僕たちのリワードは、5ドル支援するとベータ版を遊ぶことができ、10ドル支援するとゲームのクレジットに載ることができるので、それが引きになっているんだと思います。
ーーリワードであるコンテンツを目的に支援している人が多いんでしょうか?
弟:単に僕たちを応援したいというだけで支援してくれている人も、半分くらいいる印象です。
特に最初の頃にパトロンになってくれた人たちは、今も続けて支援してくれている人が多いです。
他にも、ゲーム実況をしたことがない、つまりゲーム内広告が目的ではないのに、ずっと100ドルの支援し続けてくれている方もいたりします。
ーーChilla’s Artさんのゲームは数百円という安価でプレイできることも魅力です。パトロンの支援があるからこそ、こういった価格で提供できている側面はありますか?
兄:いや、そういうことはないですね。僕たちの活動の利益の大部分はSteamでのゲームの売り上げから生まれています。
パトロンの方々からの支援総額はそれなりに大きいですが、それよりも支援を受けることで得られるモチベーションのほうが、活動への影響が大きいですね。
というのも、Patreonの支援は月単位なので、毎月何か支援に見合うものを出し続けなければいけないというプレッシャーがあって。
弟:僕たちの場合は、そのおかげで毎月ゲームを作り続けられるような感覚があります。
待っていてくれる人たちのために、早くゲームを出してあげたいんですよね。極論、個人だとゲームを出す締め切りってないじゃないですか。
けれど、毎月パトロンの方たちの期待に応えなければいけないとなると、スピード感を持ってゲームが作れるし、それが原動力になっているんですよね。
成功の秘訣は、やはり多作であること
ーーChilla’s ArtさんのPatreonの運営がうまくいっている理由として、何か思い当たることはありますか?
兄:ゲームクリエイターが継続課金型のパトロンサービスで成功する秘訣は一つしかないと思っていて、短期間でどんどん作品を出せることです。
こういったサービスでは毎月支援者の期待に応えて何かしらを出す必要があり、ゲーム制作でそれができないといけないんですよね。
ーーそういった開発スタイルが合う人であれば、Chilla’s Artさんと同じようにうまくいくかもしれませんね。
兄:インディーゲーム開発者って、一つの作品をこだわって作る人が多いイメージがあります。
けれど個人的には、うまくいかなくても次々作って出して反応を見るのが大切だと思います。
いっぱい作品を出す中で、一つでもヒットさせられたら知名度もファンも付いてくる。
僕たちも『夜勤事件』が売れる前は、今ほどプレイしてもらえませんでしたから。
弟:今も全部のゲームに手応えを感じているわけではないんです。
次作っているゲームも当然、ヒットさせたい。でも、ヒットしなかったとしても作り続ける。それだけです。
ーー短いスパンで出しているからこそ、プレイしてくれる人が増えている側面はありますか?
兄:そうだと思います。配信者の人たちもゲーム実況のネタを探しているはずで、そういう人たちに1〜2ヶ月に一回ゲームを出すクリエイターだと認知されると、新作を出せばプレイして話題にしてもらえます。
配信を見ていると、「前に実況した作品と同じ人が作っているゲームです」と毎回言ってくださっている人が多い。
今やChilla’s Artのゲームというだけで分かってくれる人が結構増えました。
ーー短期間でゲームを出し続けたことで、Chilla’s Artというブランドとして認知されたということですね。
これからもインディー開発を続ける
ーーお二人は今後もインディーでのゲーム開発を続ける予定なのでしょうか?
弟:そのつもりです。
兄:個人開発の良いところは、自由なところ。上下関係がある会社の中で言われた通りのものを作るよりも、自分がやりたいものを作りたいんですよね。
弟:その上で、今は全部自分たちでやっているんですが、音声や音楽、ムービーの作業などの外注を増やしたい。
自分たちの時間は、より良いゲームを考案するために使いたいんです。
兄:今のところ自分たちはPCゲームしか出していませんが、スマホやSwitch、PS5に対応したゲームも出して、もっと多くの人に遊んでもらえるといいなと思っています。
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Chilla’s Artの新作ゲーム『The Closing Shift | 閉店事件』が開発中。Steamでウィッシュリストに追加すれば、リリース通知が届きます。
https://store.steampowered.com/app/1843090/The_Closing_Shift/
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