【カンヌライオンズ2024】世界のアイデアとインサイトから企画に活かせるポイント
本記事の対象
・カンヌライオンズを知らない人
・「インサイト」などの横文字に抵抗を感じる人
・世界のアイデアに興味がある人
・面白いことが好きな人
本記事の目的と活用方法
本記事は、広告クリエイティブ専門誌「ブレーン2024年9月号」の情報を整理し、企画を考える際のヒントとなることを目的としています。世界の面白いアイデア事例を紹介するだけでなく、インサイトとは何かを中心に、アイデアを深掘りしていきます。企画やアイデアを考える際に、ぜひご活用ください。
以下の順番で、カンヌライオンズで受賞した世界のアイデアを分析し、今後の企画に活かせるポイントを最後に解説します。
・課題
・アイデア
・インサイト
・企画に活かせるポイント
※各観点については、筆者の解釈が含まれていますので、参考程度にご活用ください。特にインサイトに関しては、筆者独自の視点も交えています。
カンヌライオンズとは?
カンヌライオンズは、世界三大広告賞の一つとされる、世界最大級の広告イベント。カンヌはフランスの都市。開催地のカンヌはフランスのリゾート都市で、カンヌ国際映画祭の会場としても知られています。ただ、カンヌライオンズは広告業界以外では、あまり認知されていないかもしれない。まさに広告・クリエイティブ業界のオリンピック!
今年のカンヌライオンズのキーワードは「ヒューマニティとユーモア」、生成AIの進化に対する反動として、人間らしさが求められるアイデアが注目されています。ユーモアは特に、生成AIが苦手とされる分野です。AIはツッコミが得意でも、ボケのセンスにはまだ限界があると感じられます。
インサイトとは?
「インサイト」という言葉は、クリエイティブ、マーケティング、コンサルティングの業界でよく使われますが、定義が曖昧でわかりにくいこともあります。日本語で言えば、生活者や消費者の隠れた「欲求」「心理」「行動」を指します。この「隠れた」という部分が重要です。
例えば、女性が一人で定食屋さんに入るところを見られたくない、というインサイトから、大戸屋は地下や2階に店舗を設けています。大人が自分へのご褒美として楽しめる濃厚で上品なアイスクリームが欲しいというインサイトからハーゲンダッツが生まれました。このように隠れた「欲求」「心理」「行動」から、心を動かすアイデアが生まれ、商品やサービスになることが多い。
逆に、「男性は可愛い子が好き!」「女性はイケメンが好き!」というのは隠れた欲求ではないため、インサイトとは言えません。このような表面的な欲求はインサイトとしては弱い。
2024年の世界の面白いアイデアとインサイト
部門は関係なく、個人的にアイデアとして面白いものをまとめました。今年は生成AIの反動なのか、ユーモアの活用というカテゴリが新設された。人間らしい表現、人間らしいクリエイティブにも賞が与えられます。AIを活用したクリエイティブにも賞が与えられるから面白い。
Coca Cola - "Thanks for Coke-creating"
【課題】
海外の一部地域で非公式のコカ・コーラのロゴが落書きされています。
この状況は、ブランドのイメージを損なう可能性があります。
【アイデア】
海外の一部地域で使われている非公式のコカ・コーラのロゴを、規制するのではなく、受け入れた。テーマは「すべてのコカ・コーラを歓迎します」落書きされたロゴを、商品デザインに取り入れて販売する。このアイデアはシンプルだが、特に大企業にとっては「規制するのではなく受け入れる」という姿勢が新鮮で難しい挑戦となった。
【インサイト】
この落書きは、コカ・コーラへの愛情から生まれている。個人商店の人々が非公式のロゴを使ったのも、それが良いと感じたから。悪意があったわけではない。「コカ・コーラに対する愛着や親しみが、非公式のロゴ使用や落書きに表れている」
【企画に活かせるポイント】
「規制するのではなく受け入れる」
コカ・コラーのロゴのフォントは130年以上の歴史がある。それを壊した。二次創作されたロゴをプロモーションやブランディングに活用するシンプルなアイデアだが、大企業であればあるほど受け入れるのが難しいアイデア。
【余談】
日本で実施すると、落書きを助長しているのではないかと意見もありそう。それも含めてのプロモーションなるかもしれない。昔、伊集院光の深夜の馬鹿力というラジオ番組のコーナーで「大バカの壁」があった。「大バカの壁」ではリスナーから送られた街にある落書きの写真を面白く紹介していた。落書きをユーモアに変えた、伊集院光は天才かもしれない。ラジオのコーナーもアイデアのヒントになるかもしれない。
SIGHTWALKS
【課題】
インサイトと重複
【アイデア概要】
ペルーのセメント会社が発案した、点字ブロックをシンプルに改良するアイデア。視覚障害者が近くの施設を識別できるように、点字ブロックのデザインを工夫した。例えば、レストランは縦線1本、銀行は2本など、日常生活で重要な施設を示す。この設計作成手順は公開され、世界標準化を目指している。点字ブロックのオープンソース化を通じて、セメント会社が世界を変える。
【インサイト】
視覚障害者的には今の点字ブロックでも十分だが、もっと普段の生活で使える情報が追加されたら嬉しい。
【企画に活かすポイント】
「ターゲットが最もよく触れているインターフェースと五感からアイデアを生み出す」ことが重要です。視覚障害者のためのサービスといえば、GPSやGoogle MAPの情報を聴覚で伝えるものを思いつきがちですが、視覚障害者が日常的に使っているデバイスは杖で、インターフェースは点字ブロックです。点字ブロックが重要なインターフェースとなっています。
心を動かしたい対象が、日常的にどんなインターフェースに触れているのか、五感のどこを利用しているかを意識して企画を考えよう。スマートフォンやデジタル技術だけでなく、アナログ的な視点を持つことで新たな切り口が見つかるかもしれない。
Appleの創業者スティーブ・ジョブズがiPhoneを開発した際に「指は人類史上最高のデバイス」と語ったことを今思うと深く感じる。
Inflation Cookbook
【課題】
物価高騰(インフレ)における主要食品高騰
【アイデア概要】
カナダの食品宅配会社が食費を抑え健康的なレシピを提案してくれるアプリ。400種類以上の主要食材価格はAIで追跡し、レシピおよび料理の画像は生成AIで行う。今値段が下がっている食品で、健康的なレシピを自動生成を行います。健康的かどうかはAIではなく、プロのシェフや栄養士が監修している。
【インサイト】
物価高騰の今、本当は安く食品を買って健康的な食事をしたいけど、安い食品を探し、そこからレシピを考えるのがめんどくさい。フードデリバリーを頼むときに無駄に考える時間が多いというデータからのインサイト。
【企画に活かすポイント】
生成AI全盛期の時代でも、中心はいつでも人間であること。
AIが作成したレシピが健康的かどうかはプロの人間が監修しており、健康的な料理かどうかは人や時代によって変わるもので、AIによる判断での正解が難しい。データを解析および活用する際もAIの得意分野と苦手分野を見極めること。
日本マクドナルド「スマイルあげない」
【課題】
マクドナルドのアルバイトの応募が減少していること。クルー不足。
【アイデア概要】
マクドナルドは「スマイル」や「スマイル0円」というコンセプトを長年大切にしており、笑顔を通じた親しみやすいブランドイメージを築いてきました。しかし、Z世代に向けては「無理して笑わなくてもいい」という新たなメッセージを発信。この柔軟な姿勢が共感を呼び、Z世代のアルバイト応募が前年比115%に増加した。
【インサイト】
「強制的に笑わされるなんて、嫌だ。自分らしく働きたい」
【企画に活かすポイント】
時代や世代によって人々の心は変わるため、ターゲットに寄り添ったメッセージを発信することが重要。変わらないものもあるけどね。Z世代のインサイトはあのちゃんの歌詞を聞くことがヒントになるかも。
【番外編】MY JAPAN RAILWAY (カンヌ2023のグランプリ)
【課題】
鉄道というインフラが当たり前の存在になっている。
改めて、JR側から鉄道というインフラの素晴らしさを伝えたい。
【アイデア】
「日本のインフラをもう一度デザインする」をテーマに駅のスタンプラリーを優しいデジタルで再現をした。
【インサイト】
駅オリジナルのスタンプを押したいけど、わざわざ立ち止まって、スタンプを押して、紙を持って帰りたくない。
【企画に活かすポイント】
アナログの良さを活かしつつ、デジタルならではの機能を取り入れることが大切。MY JAPAN RAILWAYのデジタルスタンプラリーでは、スマホの画面に駅のスタンプを押す際、押す時間によって色の濃さが変わります。これはアナログの良さを再現したものです。一方で、スタンプを押した際に何番目に押したかという情報が得られるのは、デジタルならではの機能です。単純にアナログとデジタルを融合するだけでなく、それぞれの特徴を最大限に活かすことが企画を考える上で重要だと感じました。
まとめ
世界のアイデアも日本のアイデアも面白い!
カンヌライオンズが広告業界以外でも盛り上がってほしい!
おまけ(私が一番好きなカンヌの金賞作品)
九州や博多に興味を持ったきっかけの1つがJR九州のCMです。
キャッチコピーの「九州が、ひとつになる。」を映像で鮮やかに表現していて好きなCMです。
九州新幹線開通は2011年3月12日。ちょうど東日本大震災の直後のため、幻のCMと言われています。九州ならではの独自の一体感が伝わる素晴らしいCMだと思いました。ちなみに、このイベントを手がけたキャンペーンプランナーの樋口景一さんは福岡ご出身です!