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星を追う人

「あの星はどこへ行くのかな?」

永い眠りにつく前に、薄氷の少女は青い瞳を湿らせながらそういった

「きっと何処か遠い大地の上に降るんだね」

ベッドの隣で小さな窓を見上げながら答えにならない返事をする。

「ここの庭にでも降ってくれたらいいのに。あんなに素敵な光があったらもう少し・・・」

差し込んだ月明かりに照らされた少女は残念そうに呟いた。

灯の無い部屋の中で軋む乾いた音だけが微かに響く。

「星はあんなにいっぱいあるんだし。明日は近くに降るかもしれないよ」

「でもまだ一度も見たことない」

「・・・そうだね、でも明日明後日は違うかも知れない。だからさ・・・、分からないからこそ良い方に考えないと」

せめて明るくと口にした言葉は彼女のもとへと届く前に月明かりの中で霧散する。

「うん、そうだね」

空っぽの言葉はシミ一つ無いシーツの純白に重なった。

夜に掛かる星粒が青い尾を引いて黒い絨毯を滑り出す。

次こそは。

荷物を拾い上げると沈む光のもとへと走り出す。光を留める星籠を片手に提げながら降り注ぐ星を追いかけた。

あれはきっと拭えなかった涙の粒。叶わなかった想いの形。

世界の隔たりを超えて果てまで届く境界の光なんだと。

だから走った。逃しては走って、囁く声をかき分けながらいつもその輝きの後を追いかけた。

休んでは追いかけて、日が昇るまでひたすらに何度も繰り返す。

星を望んで空へと翔けた小さな魂に贈るため、夜空がこぼす光目掛けて黒ずんだ籠を激しく揺らした。

あの小さな部屋でただ手を握るだけだった自分を燃やして、一つの願いを求めて走った。

光を失う前にと、息を切らして。

けれど限りある夜は少しずつ明けて、やがて静かに白んでいく。眩しい朝陽が世界を照らすと大地に注いだ星々は石へと変わり、光は色を失ってしまうだろう。

空っぽの籠を提げたまま、草原の上で何度目かの夜を見送る。

足元をさらう冷えた空気には夜の残り香と土の香りが溶けていた。

緑の上で佇む体は糸が切れたように力を失って、そのまま地面に倒れ込む。そして意識はスッと遠のいて、降りる幕の暗がりへゆっくりと深く沈んでいった。

不意にキンッと高く澄んだ音を聞いた。星が転がるような音。

それは傍に転がる星籠の中から。
星籠は灯ることのなかった青い光を芽吹かせて、滲むような明かりで染まっていた。

遅れてごめんね。ほらとっても優しい光だよ

掌の中には眩い光。

瞼の裏でずっと見たかった笑顔が咲いた。

今日も夜はやってくる。輝く星の粒が空を飾って今にも溢れそうにゆらめき立っている。

木々を揺らす緩やかな風は涼しい闇をかき混ぜて、身体を撫でては擦り抜けていく。

重い身体を引きずりながら昨日の続きを追うように、深い夜の暗闇をかき分け輝きの海の下を行く。

瞬く空は時より泣いて、光を大地に注ぎ出す。一歩一歩を突き刺すように踏み出して、伸びる光の筋を追った。

きっと近い、期待の声は口から小さく漏れ出した。

次こそは、幾度と願った言葉の先で眩い光が青く滲んだ。


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