見出し画像

常夏のミャンマーでウールの冬服

話す人:(T)チョウチョウソーさん
ミャンマーのヤンゴン出身 日本に難民として来日、現在は高田馬場でミャンマーレストラン「ルビー」を経営。NHK海外放送キャスター、在日ミャンマー人支援、大学教授と一緒に学生の社会活動協力、など多方面で活動
聞き手:(Y)山下 crafts of myanmar noteの管理人

Y:旅行でミャンマーのヤンゴンに行ったのは2019年11月の後半でした。雨季が終って一番過ごしやすいと言われる季節ですが、それでも毎日30度を軽く超える気温と強い日差しです。冬の初めの日本から直行したのでよけいに暑さを感じました。
ところがショッピングセンターに入ってショーウィンドウを見ると厚手のウールのスーツやコートがディスプレイされていました。ヨーロッパの洋服ブランドBOSSの売り場ですが、ヨーロッパで着るような冬服をそのまま売っているんです。いくらグローバル基準とは言えここは常夏のミャンマーです。ヨーロッパに合わせるのは、それは無いんじゃないか、何なんだと思いました。お店の前を歩く人はロンジ―とサンダルですからね。

厚手のスーツに加えてウールのコートも販売中

T:たしかに変に見えると思いますが、それは売れるからです!
Y:えっ!30度を超える暑さで冬物のウールのスーツを着る人がいるとは。おしゃれも度が過ぎているのでは。
T:こういう服を着る人は街中では見ることはありません。そういう人はクーラーの効いたオフィスに車で通勤して厚手のスーツを着て仕事をしています。
Y:ではお金のある人が暑いのに無理してお洒落で着ているという事?(注:ミャンマーの平均収入からすれば、BOSSは簡単に買える服ではありません)
T:お洒落だからではない。社会的に地位が高いからです。社会的に地位の高い人はミャンマーでもスーツを着てネクタイを締めて仕事をします。
Y:そうか。ホテルでスーツを着たインドや日本や中国のビジネスパーソンを多く観ました。そういう人と相対するミャンマーのビジネスマンも同じようにスーツを着る。日本人だって着物を着ないでスーツを着ていますものね。同じです。でも何故に冬服を。

T:以前ミャンマーの教育についてお話しをしました。(ミャンマーはとても教育熱心な国で学生服は白と緑である件)https://note.com/crafts_myanmar/n/n5dd407190529
そこでイギリスがミャンマーの統治にイギリス式の教育を受けたミャンマー人を登用したとお話しました。もう分かると思いますが、その制度の下で働く高学歴のミャンマー人はスーツを着てネクタイを締めて働きました。ヨーロッパが冬になれば冬服を着ました。その習慣が今でも続いているのです。
冬物のスーツは着る人のステイタスシンボルです。
Y:ミャンマーがビルマであった第二次世界大戦前の状況の続きという事ですね。この冬服はその目に見える象徴。
T:そうです。イギリスに統治されたことは今でもミャンマーのあらゆる面に大きく影響をあたえています。外国の影響についてはあらためてお話ししましょう。

Y:ありがとうございました。
なんという事の無いショッピングセンターのBOSSの売り場であっても、深掘りするとミャンマーの国が置かれた複雑な歴史が見えてくるというとても興味深いお話でした。
ミャンマーだけでなくどの国の何気ない風景であっても、その背景にはグローバルないろいろな出来事が詰まっているようです。これから僕も日本の街を歩きながら同じ視点で周りを見ようと思います。