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うるしで繕う生活道具/木製品など

雨、雨、雨

梅雨の頃は雨で外出が億劫になったり、湿気で悩まされたり、カビ対策だったりetc…..。予報でも「さあ、いよいよ梅雨ですね!」とにこやかに語られることはほぼ見たことがなく、季節の中でもどちらかというと疎ましがられる立ち位置です。

谷戸地形にある自宅は、周辺の自然環境も豊かでとても過ごしやすいのですが、梅雨の季節は部屋の湿度計も90%を示す日々。。押入れ用の湿気取りは効果を発揮する前に水気に変わり、除湿機は毎日フル稼働しても箪笥の下段にしまった衣類はしっとり。
衣服や鞄など革製品、生活道具の木工品は梅雨の時期、少しの間使わなかったりしまい込んだりすると、途端に黴を纏うことがあります。ここで暮らして10年以上経ちますが、毎年カビに悩まされ、一部は処分せざるを得ませんでした。

漆の仕事がしやすい!

こんなに悩ましい季節ではあるのですが、漆が酸素や水分と反応して固まるように働く酵素は、湿度70〜80%、気温24℃の環境が一番適しているので、梅雨はまさにtopシーズンです。仕事が捗る!と、毎年梅雨入りすると前向きに喜んでいます。住めば都。ものは考えよう。
漆の金継ぎの仕事を始めてから、梅雨は好きな季節へと意識が変わりました。
そして湿度MAXの環境で暮らしていると、日本のカゴ類は海外製品に比べて黴が生えにくいこと、木製品は漆を塗って補修をすれば安心して使えるということを身をもって感じました。漆の効能を実感してから木製品の手入れは漆を使うようになりました。

漆器はいかがでしょう

漆にはウイルスや菌の抑制効果、殺菌効果があることが科学的に証明されているのですが、昔、木こりやマタギが昼食を漆塗りの曲げわっぱに詰めて山に入って行ったのも、経験値として効果をわかっていたと思われます。
金継ぎは元々、漆芸の手法を陶磁器の修理に応用したものですから、木工品を漆で修繕することは、本来の使い方、と言って良いでしょう。

漆塗りと言われて思い浮かべるのは、漆器のお椀や重箱などでしょうか。
輪島塗りなど伝統的な塗り物は使う側も背筋が伸びる思いですし、それ以外にも地域で育まれた様々な塗りの技法があり、普段使いの手頃なものも多くあります。
熱いものを入れても直接熱が伝わりにくく、口に当てた時の柔らかな感触や手に持った時の優しい触り心地が魅力です。
最近は金属のカトラリーの口に入れた時の感触が苦手に感じ、漆塗りや木製品を使っています。冷たいデザートも熱いスープも木製スプーンなら温度がそれほど影響しないので、1年中手放せません。

拭き漆のススメ

塗り物は電子レンジや食洗機は使えませんし、現代の生活において少し気を遣う面もありますが、一度使い始めるとその良さを実感してもらえると思います。漆製品を是非手にとって使っていただきたいです。
そして長く使い続けるために、梅雨の時期におすすめの手入れ方法(または拭き漆製品の作成事例)をご紹介します。どれも、金継ぎ教室を始めた頃からビギナークラスでお伝えしている、拭き漆手法で仕上げられるものです。トップ画像のピクニックスプーンが教材なのですが、参加者の皆さんにとても喜んでいただいています。

その1 カトラリー

最初は小さいものから始めるのが良いかと思います。表面をペーパーで研ぎ、ハケは使わず柔らかい和紙に漆を少量含ませて木地に刷り込みます。長い間オイル塗りで保護していましたが、持ち手が黒ずんで少し残念なことになっていました。漆を塗ることで生き返ったようです。

同じスプーン4本 一番右が拭き漆仕上げ

その2 古道具のお手入れ

数年前、骨董市で求めたくり抜きのお盆です。調べたら讃岐盆という四国のもので、はつり跡が味わい深くとても使いやすいのですが、少し掠れの度合いが強くなってきたので、こちらも拭き漆で補修しました。

before
after


その3 曲げわっぱのお弁当箱

元のクリア塗装がくすみ、内側が黒ずんでしまったので、塗装を剥がしてから拭き漆で仕立て直し。こちらは依頼品ですが、以前、生徒さんも修繕しておられました。

左は塗装を剥がす前の身の部分
拭き漆で仕立て直した身と蓋

その4 塗装を剥がす

市販の木製品は手入れがしやすいように、またナチュラルな雰囲気を残すために、木目が見えるクリア塗装をしてあるものがほとんどです。漆を塗る際は塗装を最初に剥がします。
画像は何年も使い続ける間に剥がれて色むらになっていた、四半世紀使い続けているバターケース。剥がれた塗装を全て研ぎ、表面を整えて拭き漆で仕上げました。

塗装を剥がしてから
長年使った痕跡
木の擦れが塗りむらとして現れ、それも味わい深し

その5 新しい木地から仕立てる

市販の利休箸は漆を塗ると何度も使える塗り箸になります。
デットストックの国産竹しゃもじは、そのまま使うとこの先カビてしまうので、事前に漆を塗りました。竹は油分があるので普通の木地より漆が染み込みにくいことがあります。荒めのペーパーで研ぎ表面を整えてから。塗った漆は時間経過で後々明るく変化していきます。

塗り箸と塗る前の箸
下段は前述のスプーン
木製品の表面は400番くらいからスタートしています
全体的に染まりました左
右は使い込んだ煤竹のしゃもじお手入れ前
しゃもじは一気に漆を吸い込んで濃くなりました
白木の木地(右)から仕立てた山桜の椀
こちらは少し根気が必要ですが、自分で仕立てた漆器は一層愛着が沸きます

最後に

陶磁器の修理(金継ぎ)で愛着のあるものが長く使えるようになりました。
そして今の住まいにあったものを選ぶと、苦手だった季節を好きになり、それぞれの道具の持ち味を一層活かすことができました。
下はある日の朝食ですが、マグカップの持ち手、奥のガラスの小鉢は割れを修理し、パン皿は拭き漆で仕立てたもの、フォークも塗装を剥がして拭き漆で直したものです。ほとんど毎朝変わり映えのないメニューなのですが、手を加えたもので囲まれると日々の生活が落ち着きます。
漆はかぶれという大きなマイナス点があり、扱うには少々コツや知識が必要なのですが、せっかく金継ぎをするのであれば漆という選択を、そしてその先の枝葉の魅力を感じていただければと強く思います。

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