詩04『話したかった、もしものはなし』
「もしもの話をしても、意味がないじゃないですか」
と、先生は言ったんだ。
背の高い、耳の大きな、理科の先生
白衣の目立つ、生物の先生
「今、存在するものだけに意味があるんですから」
と、先生は言ったんだ。
日本でいちばん頭のいい大学を出た、
哲学とか文学を、よく知っていた先生
高校二年生のとき、ぼくの小説を読んでくれた、
ぼくがそれまで大好きだった先生
ねえ先生、意味って何?誰が決めたん?
意味があることしか、話したらあかんの?
ほら、たとえば、あのとき
教室の窓枠からぼくたちを見下ろしていた、あの雲
あの子のきもちや行き先について
ぼくは、先生と想像したかった。
ぼくは、もしもの話、大好きだよ
わくわくするから。
「それでは」と先生がいなくなって、隠れていた空が見えた。
透き通った、大きな青色だった。
[今日のおはなし]
『端と端を持って畳む』のって、やはり大切。
文章を書くときに、始まりと目指すゴールとを見据えて、短くまとめるみたいに。
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