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童話「盲聾の星」第三話

2.
たくさんたくさん考えたラムダは、7日目の朝、父さんと母さんに申しました。

「北の大陸には父さんたちがいらっしゃるし、街灯だってあると聞きます。明かりはもう十分。ぼくまで行く必要はないでしょう」

それは、半分だけ本当のことでした。たしかにラムダの言うとおり、今や都は夜も賑やかで、星が3つもいらないくらい、あちらこちらの建物の明かりが消えないのでした。もう半分の理由は、ラムダが言うまでもなく父さんも母さんも気づいておりました。小さなラムダには、もう守らねばならないものがあるのです。両親は、子の決心を尊重することにしました。

とは言え、さあ都へ発とうという明け方、母さんはやっぱり息子が心配でした。
「いい子や、母さんはとうぶんお前の世話ができないんだ。留守の間に欲しいものはないかい。こしらえて行ってあげよう」
と、顔を覗きこみます。星ですから、食べものや着るものは必要ありません。けれどその代わりに、発光するために精神を消耗するのが星というものでした。はじめは、父さんと母さんが都の街灯に負けず元気でいてくれればいい、としか言わなかったラムダですが、お城の鶏がそろそろ鳴こうとする間際になってとうとう望みを口にしました。

「兄弟か、友だちがほしいのです」

これから両親と離れる幼な子の願いでした。しかし、これには、父さんも母さんもはっとして口をつぐんでしまいました。星の大人たちにも、よくわかっているけれど言葉にできないことがあります。といいますのも、この時代、星が誕生するためには、まず他の星と衝突しなくてはならず、その際の衝撃で散った破片が新たな星となるのでした。――我が身を砕くと覚悟して、他の星とぶつかるんだよ。そのときに飛んだ破片が、お前の新しい仲間だ――そんな真実を、父さんも母さんも、我が子にはとうてい言えなかったのです。二人にとっては、ラムダはそれを知るにはまだ幼なすぎたのでしょう。或いは、どんなに善い親であれ、友だち作りや子作りの方法など自分に訊かないでどこかで自然と知ってくれというのが、やはり親の心情なのでしょうか。
ならば他には何にもいらないと言う息子に、両親は、「いつか、お前に必要なときに、いいものをあげよう」となだめて約束しました。そして、旅立ちの挨拶をしました。
「では、この空を任せたよ。お前なら、きっと守ってくれるね」
行ってらっしゃいませ、と手を振る息子に微笑んで、2つの星は遠く北へ飛んで征きました。

こうして、ラムダはひとりぼっちになりました。いいえ、精確には地上にお姫様がおりましたから、ふたりぼっちでした。

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