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世界中で「日本食を安く美味しく食べられる」未来を目指して

アグリビジネス投資育成株式会社 取締役・代表執行役 兼 最高投資責任者 松本恭幸氏 ×
コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダー・沢登哲也

「日本の食のバリューチェーンが抱えている様々な課題が、ロボティクスの力で解決するかもしれない」。アグリビジネス投資育成株式会社が、コネクテッドロボティクス株式会社へ出資を決めた背景には、そのような期待があったといいます。

同社が食品工場や飲食店における調理プロセスに関わるロボティクス分野へ出資するのは初めての試み。2002年の設立以来、610社超の農業法人に対する投資育成事業を行ってきたアグリビジネス投資育成株式会社。今回、食産業におけるロボティクス分野のスタートアップへの出資に踏み切ったその理由とは。また、資本提携によってロボティクスが食産業でどのように広がっていくのか。
アグリビジネス投資育成株式会社 取締役代表執行役 兼 最高投資責任者の松本恭幸氏(以下、アグリ社・松本氏)と、コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダーの沢登哲也(以下CR・沢登)に、今回の背景と展望を伺いました。

食産業全体のエコシステムをつくる

―アグリ社さんは、これまで主に農業法人への投資育成事業をされてきたということですが、現在はその事業領域を広げていらっしゃるそうですね。
アグリ社・松本氏:私たちは、投資を通じて農林水産業をはじめ、食のバリューチェーン全体へ貢献するということを理念としております。
2002年の設立以来、特に農業法人の財務基盤をサポートしており、約20年の間に610社を超える農業法人の皆様に対する、投資育成事業を手掛けて参りました。2021年に拡大改正された「農林漁業法人等への投資の円滑化に関する特別措置法」に基づき、足元では当社事業の対象領域も農業法人に加え、漁業・林業法人、国内外の食のバリューチェーンに関わる様々な企業へと拡大しています。
今後は私たちがエコシステムを構築することで、農業法人や漁業・林業法人、食のバリューチェーンに関わる様々な企業が互いに繋がり合い、相乗効果を生み出していくような展開にしていきたいと、新たな挑戦をしているところですね。

アグリビジネス投資育成株式会社 取締役 代表執行役 兼 最高投資責任者
松本 恭幸(まつもと・やすゆき)氏 
静岡県出身。慶応大学経済卒、コーネル大MA、ロンドン大Ph.D.。日本長期信用銀行を経て1999年農林中央金庫入庫。開発投資部副部長、シンガポール支店長、営業第二部長、投融資企画部長、常務理事、常務執行役員グローバル・インベストメンツ本部副本部長、常務執行役員食農法人営業本部副本部長を歴任し、現職に就任。

ー「食のバリューチェーン」というキーワードがありましたが、CRさんも「食産業をロボティクスで革新する」ということで、そのあたりは力を入れているところだと思いますが、いかがでしょうか。
CR・沢登:そうですね。私たちは外食産業からスタートして、2021年からは食品工場にも力を入れはじめています。少量多品種で大量のものをつくる、あるいは変種変量といったようなところに対応できるソリューションをどんどん生み出していこうという段階です。現在力を入れて取り組んでいるのは食品工場ですが、この事業を始めたきっかけでもある飲食店に関わる中で、痛感したのは現場を変えていくためには、大きな影響を与えている「食の上流」を変えていく必要があるということです。さらにいうと食産業全体のエコシステムの活性化・改善といったところが重要であることがわかってきました。そうした背景もあって、今後は農林水産など第1次産業のところにも関わりたいと考えています。

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダー 
沢登哲也(さわのぼり・てつや)
 東京大学 工学部計数工学科卒業、京都大学大学院 情報学研究科修了。MIT発ベンチャー企業でロボットコントローラ開発責任者を経て、2011年に独立。 2014年にコネクテッドロボティクス株式会社を創業。 2017年4月より食産業をロボティクスで革新する研究開発事業をスタート。 

第1次産業の6次産業化を見据えて

―ここからは今回の出資に至った背景を伺いたいのですが、そもそもアグリ社さんとCRさんが接点を持たれたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。

アグリ社・松本氏:弊社の投資担当者がCRさんにラブコールをしたところから始まったようです(笑)。食のバリューチェーンにおいて業界全体の課題解決に取り組んでいる企業を探す中で、非常におもしろい会社を見つけたと。それがCRさんでした。そこから「ぜひ会ってみよう」ということで、まずは投資担当者が沢登さんとお会いしたのが最初ですね。

CR・沢登:はい、2021年でしたね。
アグリ社・松本氏:沢登さんと面談した後、投資担当者からCRさんは日本の食のバリューチェーンが抱えている大きな課題に対して、非常に現実的なソリューションを出してくれる会社だと報告を受けました。
大きな課題というのは、人手不足ですね。やはり日本には人の絶対数という制約があります。食品工場や外食産業、私たちが普段接する農林水産業などにおいて、既に人が足りていません。海外の方に入っていただくなどの対応をしているところもありますが、それでは抜本的な解決にはなりません。CRさんの取り組みは、その人手不足という大きな壁を突破してくださるような印象でしたので、私たちも一歩踏み出してみたと。それで私も沢登さんにお会いさせていただきました。

CR・沢登:アグリ社さんのように農業中心の投資育成をされている投資会社さんとご一緒できるというのは、私たちにとっても非常にインパクトがあることです。食を取り巻く世界は本当に広くて、しかも強いネットワークで繋がっています。だからこそ部分最適な解決策だけではなくて、ネットワーク全体のエコシステムをより良くしていくことが大事になってきます。今回の取り組みで、私たちがそういったところを目指していることが周囲により理解してもらえるのではないかと。そんなことも期待しています。

アグリ社・松本氏:初めて直接沢登さんにお会いした際に、会社を成長させていこうという明確な意思が感じられました。一般的にエンジニア出身のベンチャー起業家というと、自分が作りたいものを作るいう発想になる方も多くいらっしゃいます。一方、沢登さんご自身もエンジニアとしてのバックグラウンドをお持ちであるものの、そうではなかった。まずは事業として会社の成長を考えつつ、ご自身の技術力により食産業の課題をなんとかしたいという思いが強い。そこが一線を画していると思いましたね。

CR・沢登:ありがとうございます(笑)。

―ちなみに、アグリ社さんがCRさんのようなロボティクスのスタートアップに投資されたのは今回が初めてだということですが。
アグリ社・松本氏:食品工場や飲食店における調理プロセスに関わるロボティクス分野という意味では初めてですね。長期の目線で見たということは間違いありません。いきなり農業や生産者にインパクトを与えるものではありませんが、未来においては極めて重要だろうと。ロボティクスによって食産業の風景が変わっていく。そんな未来を想像して今回、投資に至りました。

―資本提携によって、CRさんのロボティクス技術が、食産業でどのように広がっていくのでしょうか。
CR・沢登:短期でいえば、私たちは特に食品工場に力を入れていますので、その取り組みを拡大していく予定です。具体的には、私たちのロボットシステムを現場でどんどん使っていただいて、効率化・省人化しつつ生産性を上げるといったようなことに貢献していくということ。そうやって裾野を広げていきたいと考えていますので、それに向けて開発を頑張っていくということですね。
長期になってくるとやはり第1次産業の6次産業化といったところで、日本だけではなく世界でも挑戦していきたいですね。特に今後はアメリカをはじめ、世界の市場に進出していきたいと思っていますので、その時にもまたアグリ社さんのご指導やご援助をいただきながら実現していきたいと思っています。

どこにいても日本食を安く美味しく

―CRさんのロボティクスが世界へ広がっていくことで、食産業に大きなインパクトが起こりそうですね。
CR・沢登:食のイノベーションというのは、本当に人々の生活を変えます。特に私たちが起こしたいインパクトは、「美味しくて健康的なものを誰でもどこにいてもすぐに食べれるようになる」ということです。そうなるとより食の多様性・安全性が広がっていきますし、特に6次産業化を進めていくと、食料の生産と最終的なサービスが繋がってきて、たとえばどこかの地域で食べ物がなくて困るとか、そういうこともなくなってくるということですね。突き詰めていくと、宇宙時代にも影響してきます。たとえば地球から火星に向かうのに、その間は宇宙コロニーで暮らさないといけない。そうすると、生産して加工して提供するまでのすべての行程がひとつのコロニーの中で行われるわけです。そこで働くのはロボットになると思うんです。ロボットが食を作ってくれるので、人間はそれ以外の仕事をするか、あるいは仕事しなくてもいい。そうやって、もっと他のことに時間を使えることになる。こうやって食が変わると、圧倒的に人間の働き方っていうのが変わってくるというのが大きなインパクトになるかなと思います。
そうした未来も見据えながら、まずは現場の食の生産を助けて、美味しくて安い健康的なものを誰でも食べられるようになる。そんな世界を目指していきたいと思っています。

―宇宙まで見据えているわけですね。アグリ社さんの立場から改めて今回の投資によって期待する未来をお話いただけますか。
アグリ社・松本氏:世界というキーワードが出てきましたのでその流れでお話ししますと、海外においても日本の食文化の認知度・人気度は益々高まってきているところです。そのような中で「日本食を安く海外で食べたい」というニーズがものすごくあるわけです。
そうした期待の中で、海外の食のバリューチェーンにおいて、CRさんにぜひ活躍していただけたらと思います。私たちも、決して資金を出して終わりだとは思っていません。
弊社は日本政策金融公庫のほか、農林中央金庫などの系統組織が株主になっておりますので、その株主のネットワークも活用しつつ、CRさんのお力になれたらと思います。

CR・沢登:今回は私たちの可能性に注目していただいて、改めてありがとうございます。私たちとしてもアグリビジネス・フードインダストリーの単なる一部ではなくて、ここから全体に広げていくというところを志して取り組んでいます。
直近では上場をひとつのマイルストーンにしていますが、そこに向けてどんどん量産していくフェーズに入りました。より一層アグリ社さんと一緒に食産業全体を盛り上げていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

―どこにいても日本食が美味しく食べられる。そんな未来が待ち遠しいです。ありがとうございました。
 
クレジット)
協力:アグリビジネス投資育成株式会社:https://www.agri-invest.co.jp/
提供:コネクテッドロボティクス株式会社:https://connected-robotics.com/
※    本記事は2023年1月の取材をもとにしています。