モニタリングはもちろん異常検知や画像認識,イントロダクション 外部装置駆動まで! 実用レベルのIoT データ・サーバを個人で作れる時代
土屋 健
IoT(Internet of Things)時代と言われて随分経ち,その間にIoTデバイスの開発環境も整ってきました.センサのデータを取得して無線伝送するマイコン・プログラムであれば,ライブラリやサンプルが充実していることから,容易に作れるようになりました.そうなると次は,データをためておくサーバが欲しくなります.特集ではデータ蓄積・解析用サーバの作り方を紹介します.
個人でデータ・サーバを作れる条件が完全に整った
● 100 点に近いIoT環境が整った
現在では,以下のように,身近にIoTシステムを作れる環境が整っています.
● ほとんど無料で構築できる
企業や事業者でなければ構築/運用が難しいと思われていたIoTシステムですが,個人レベルで入手可能なデバイスやサーバ環境,そしてフリーのソフトウェアを利用して,家庭用,小規模事業用のIoTシステムを作成できるようになっています.
ハードウェア,ソフトウェア,サービス全てのものが無償または安価に入手可能となったため「ちょっと試してみよう」ができる時代になりました.特に,システム実現のために必要なサーバ・ソフトウェアが,オープンソース・ソフトウェアとして入手できることが大きいです.
● 個人で作れる
コンピュータ雑誌やウェブ・サイトの記事などでは,環境センサをマイコンやラズベリー・パイに搭載し,Wi-Fiを使ってラズベリー・パイやPC上に準備したデータ蓄積サーバにデータを集め,それを分析して気温や湿度に応じてビニール・ハウス内に散水するようなシステムが紹介されています.センサによるデータ収集だけでなく,散水システムのような装置側の情報などもウェブ上で入手できますし,ネット通販で部品も簡単に入手できるのも,こういったものを個人で製作することが可能となった一因です.
● サービスとして提供されている「取得,蓄積,可視化,分析」
IoTシステムでは,「データ取得,データ蓄積,データ可視化,データ分析」が主な機能となります.実はこれらの機能を自分で作らなくても,サービスとして利用できるものを組み合わせてシステムを構築できます.
環境センサで得られる気温や湿度など,気象情報は公開されているものもありますし,その他にもさまざまなデータがオープンデータなどとして入手可能です.
それらを利用すれば,データ取得および蓄積機能は準備不要ですし,データ分析やデータ可視化といったサービスもさまざまなものがあります.
これからのIoTシステム
● 全てのモノがネットワークに接続されている
IoTシステムの基本は,センサや装置などからの情報を蓄積し,そのデータを可視化したり,解析したりして状況を判断し,他の装置を制御するような仕組みかと思います.
これを実現するために,家電はもとよりカメラ,センサ,照明などさまざまなデバイスをネットワークにつなげるように進化してきました.その結果,
が実現し,全てのものがネットワークに常時接続している状況が現実となってきました.特に,スマートフォンの普及によって,ほぼ全ての人がカメラやセンサと通信環境を常備している状態となり,それらを利用すれば,人が住む全領域をカバーした全てのものがつながったネットワーク網が実現可能です.
● 全てのモノのデータが蓄積されている
これまでのように欲しいデータ取得のためにセンサを設置し,データを送り,サーバにデータを蓄積し,それを取り出して利用するという方式から,全てのデータが常に取得され,ネットワークを流れており,必要なときに必要なデータを選んで利用できるようになることも考えられます.
● リアルタイム処理/画像認識が当たり前に
デバイスの処理性能が向上しているので,リアルタイムに処理できることが多くなってきています.少し前までリアルタイムでは難しいと思われていた画像認識などは当たり前となっているので,これからもできることが高機能化しデータを蓄積する必要はなくリアルタイムで何でも処理できるようになるかもしれません.
● ネットワークの信頼性やデータ保護が重要に
何でも処理できるようになると,流れているデータのアクセス制御やデータの信頼性が重要となってきます.見てもよいものダメなもの,データの素性はしっかりしたものなのかを判断することが重要となり,ブロックチェーン技術を利用した信頼性の確保やデータ保護なども考えられてきています.
データ・サーバを作るとできるようになること
データ・サーバを作成すると以下ができるようになります.
● 1,センサ・データを保存しモニタリングする
受け取ったデータをリアルタイムでグラフ化してウェブ・ブラウザで確認できます(図1).
● 2,端末からGPS データを送信しリアルタイムに位置情報を把握する
用途に応じた任意の処理を追加することで,ビルや工場などの見回り向けに,以下のことができます(図2).
● 3,収集データを解析して,外部装置を駆動する
● 具体的なシステム例
▶①天気予報
ある気象予報データのない地区において,気象センサとGPSを積んだ小さい装置を持ち歩いて定期的に気象データを送り,その実測データと近隣地区の気象予報データを比較学習することで,気象予報データのない地区の気象を予測できるようなシステムを育てられます(図4).
▶②タクシーの配車システム
タクシーの乗客の乗り降りした場所,走行ルートを随時サーバに送って記録し,リアルタイムに状況を把握します.そうすることでタクシーの利用が多い場所に重点的に配車したり,蓄積した情報を使って利用を予測したりできます(図5).さらに気象情報と気象予測を組み合わせると,より的確な予測ができるかと思います.
▶③牛のミルク量や運動量の把握,散水システムの稼働
牛に加速度センサを付け,運動量を記録します.併せて搾乳量や気象情報を記録しておき,運動量および天候と搾乳量の相関を解析したり,天候に応じて牧草に散水したりするシステムを作ると,酪農の効率を高められそうです(図6).
特集で紹介する要素技術
特集では,表1の技術に触れながらデータ・サーバを作っていきます.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?