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自分にも、自然にも、同じように向き合える。日食なつこを形作った“スペクタクル”

人の心を鮮明に映し出す歌詞と、疾走するように奏でるピアノミュージックで根強い人気を誇るピアノ弾き語りソロアーティスト・日食なつこさん。

岩手県で生まれたことから自然環境に親しみがあり、山の中で暮らすようになった現在は、自然と音楽、そして自分との関係性がより深まっているといいます。

自らの内面と向き合い、曲を作りつづけてきた日食さんに、人々が自分と向き合うのと同じように、環境課題にも向き合うヒントをお聞きしました。

日食なつこ(にっしょく・なつこ)

1991年、岩手県花巻市生まれ、ピアノ弾き語りソロアーティスト。9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始める。高校2年の冬から地元岩手県の盛岡にて本格的なアーティスト活動を開始。心の琴線に直接触れるような力強い歌声、そして緻密に練り込まれた詞世界、作曲技術が注目を集め、大型フェスにも多数出演。強さも弱さも鋭さも儚さも、全てを内包して疾走するピアノミュージックは聴き手の胸を突き刺し、唯一無二の音楽体験を提供する。

環境課題に向き合うには、“過去”に学ぶしかない

ーー環境課題に対して向き合わなければならないという気持ちはあっても、結局自分ひとりの力ではどうにもならないと、目を背けてしまう人も多いのではないかと思います。

日食さんは、どうすれば人々が環境課題に向き合うことができるようになると思いますか?

日食さん:
過去に学ぶしかないと思いますね。

人類の歴史は何千年とありますが、そのなかで環境に対する失敗と成功ってたくさんあったと思うんです。私は個人的に、1700年という時代に興味があって。

ーー1700年はどんな時代ですか?

日食さん:
ちょうどイギリスで産業革命が起こった時代ですね。それまで人々が一生懸命に手作業で作っていたものが、機械で作れるようになって、生産効率が一気に上がったそうです。

機械化が進んだということは、環境への負荷もそれ以前と比べると恐ろしく上がったんじゃないかと思うんです。

そんなふうに、自分が興味のあるジャンルの歴史をさかのぼっていくと、必ず環境課題とぶつかる接点があると思うので、そこを深ぼるのがいいのかもしれません。

ーー自分の興味があるジャンルで考えるんですね。

日食さん:
そうですね。たとえば、海で遊ぶのが好きな人だったら、ちょっと意識してニュースに触れてみると、海洋生物が廃棄されたゴミや汚染物質によって苦しめられているということがわかると思います。

それを受けて、そこにアクションを起こしていけるのは、今まさに海で遊べている自分たちの世代なんじゃないか、と気付くことも大事。

歴史を遡ると、私たちの少し上の世代には、「とにかく消費してナンボ」という風潮があったと思うんですよ。その時代の煽りを受けている私たちだからこそ、環境問題に真面目に取り組まないとヤバいと思っている人も増えているはず。

自分の前の世代や次の世代とどう影響し合うかという意識を持って、そこに自分の好きなジャンルのものを1個プラスすれば、あとはうまく料理ができあがるのではないかと思いますね。

自分を守るための山暮らし。自然の力を借りた音楽活動

ーー日食さんが、環境について関心を持つきっかけはなんでしたか?

日食さん:
出身が岩手県で、幼いころから山の近くで暮らしていたため、自然に触れる機会が多かったんです。親も環境課題について日ごろから考えている人なので、その影響も大きかったと思います。

実は、今も山に住んでいるんですよ。

ーーそうなんですか!?

日食さん:
以前は東京都内に住んでいましたが、コロナ禍でインプットができなくなったことで、このままでは曲が書けなくなるんじゃないかと、自分の活動を守るために、引っ越しを決めました。

ーー実際に山の中で暮らしていて、自然から音楽のインスピレーションを受けることはありますか?

日食さん:
ありますね。自然というとすごくクリーンで、やわらかくて人に優しいというイメージがあると思うんですけど、暮らしてみると現実は全然違う。

これほどまでに自然の生命力は強いものなのかと、その脅威を思い知っています。「人間はもともと自然に勝てないものだったな」と、再認識しました。

実はまだ発表していないのですが、そんな自然の強さを意識した曲を今書いているところです。草刈りをしながら(笑)。

ーーなんと! それは、リリースが楽しみです…! 日食さんの曲のMVは、自然の中で撮影されているものも多いですよね。

日食さん:
MVの撮影って、少なからず演技力が要求されるものなんですけど、私にはそういうものが本当にないので…。過酷な自然の力を借りて、生の表情を出しています。

特に、「ログマロープ」という曲のMVは、曲自体が勢いのある過酷なものだったので、「過酷な場所に行かないと、私はMVを撮りません」と言い張って。

真冬の北海道、それも雪が膝上まで積もっているような場所へ行き、
口の中に手を突っ込まないと凍傷になるような環境で撮影しましたね。

カメラマンも指示を出すどころじゃなかったので、リアルな場所でしか出ない表情が出ていると思います。

18歳のときの自分が、いつも心のなかにいる

ーー日食さんの曲からは人の内面を抉(えぐ)りつつも、すべてを包み込んでくれる力を感じます。やはり曲を書くために自分の内面ととことん向き合われてきたのでしょうか?

日食さん:
そうだと思います。
曲にもよりますが、「自分の納得のいかない部分に向き合い、自分の考えを表明していかなければ、大人になっても大した存在にはなれない」と若いころから考えていましたね。

ーー自分の内面と向き合うって、しんどいことだと思うのですが…。

日食さん:
しんどい、ですね。しんどいから、逃げることもたくさんあります。

でも、自分自身もやっぱり、しんどさに逃げずに曲を書いてきた人たちに共鳴したから、自分もそれに続かなければと考えてきました。

自分で開拓したというよりかは、私のさらに前に同じことをされていた先人がいたので、その脈を絶やしてはいけないと、背中を追わせていただいただけなんです。

ーー人の内面を描くときに、普段から気をつけていることはありますか?

最近だと特に、歌詞を書くために「人と触れ合わない」ということを意識しています。

つねに人とコミュニケーションをとって、誰かに向けて発信しつづけている状態だと、言葉が希釈されていくような気がして。

感情の発生って化学反応と似ていると思っていて、どれだけ化学反応をしても平気な肉体を持っている人もいるし、1回の化学反応で疲れてしまう人もいる。

私はどちらかというと後者で、1回1回の感情の発生を大事にするために、あえて人と触れ合う機会を減らしています。

山の中で1人で暮らしてるのも、そういう狙いですね。人との関わりを意識的に減らすことで、人と喋ること、人と関わることのありがたみを感じられるんです。

ーー今は、SNSで誰とでも繋がれる時代ですが、日食さんはそれとは逆の生活をしているんですね。

日食さん:
あえて、逃げましたね。

SNSによって様々な世代の言葉が聞けるようになったから、狭いコミュニティのなかでしか言葉を聞けなかった我々の世代よりも、今の若い世代の方たちは社交的な人が多いと思います。でも、私は絶え間ない人との関わりに耐えられなかったんです。

ーー日食さんのファンの方々は、きっとそういう日食さんの内面に共感しているのかもしれませんね。

日食さん:
今はお客さんに共感してもらおうと意識して曲を作るのではなく、17〜18歳のときの自分が聞くか聞かないかを基準に曲を作っていますね。

日食なつこを名乗りはじめた、自分の原点である年齢なので、そのときの自分が振り向いてくれる曲には、今の世代の私と似たような人たちも必ず共鳴してくれると思っていて。

逆に、そのときの自分がワンコーラスで止めるような曲はダメだなと思いますね。

ーー過去の自分に向けて作っている、と。

日食さん:
お客さんに向けて曲を書いていたときもあったのですが、作っているうちに「これって自分じゃなくてもいいよな」という結論に至りました。

自分本意な判断基準だけど、自分の人生にとって重要な時期だったころの感情や感覚を、大事にしていきたいという気持ちがあります。

ただ、最近は曲が書けすぎてしまうので、お客さんたちを置いていかないように、心の中にいる17〜18歳のときの自分をいさめている感じです(笑)。

地球を守るために、音楽ができること

ーー日食さんの音楽によって、心が救われた人々がたくさんいると思います。

それと同じように、地球環境を救うためには、音楽はどんな役割を担ってくれると思いますか?

日食さん:
音楽は、環境問題を、よりとっつきやすくすることができるんじゃないかと思います。

音楽はプラスのエネルギーを持っているものなので、環境問題と音楽がセットになることで、人々が環境へ向き合うハードルを下げることができると信じていますね。

ーー音楽を通じて、今まで知らなかった世界を見ることができる感覚ってありますよね。

日食さん:
私が高校3年生のときに書いた「スペクタクル」という曲は、自然環境について考えて書いた曲なんです。初めて渋谷の大きなライブハウスに行ったときに、あえて地元の山奥で描き下ろしました。

渋谷って、街の明かりでキラキラしているじゃないですか。そのキラキラと、私のいる地元はそのまばゆさには勝てないけれど、渋谷にないスペクタクルがこの土地にはある。

そんな地で私は生きて、今この渋谷のライブハウスで立っているんだ、と伝えたかったんです。

日食さん:
そんな曲やライブを通じた体験が、地球環境に対して考えるきっかけになったら嬉しいですね。

今後もその気持ちを大事にして、みんなで一緒に地球について考えていきたい。環境のことは考えず、“ただ楽しいだけ”で過ごせる時代はもう終わりが来ているんじゃないかな。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=友海(@6stom__

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