2人子持ちの平日散歩


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 朝、生後9カ月の娘がストローマグのお茶を両手で持って遊びながらガバガバ飲む。せっかく着替えたお気に入りの娘の上着(ブランド物の定価1万くらいするブラウスをフリマで100円で買ったもの)がビチョビチョになり、また着替える。定価で子供服を買う勇気はない。息子はEテレの「みいつけた!」でスイちゃんが歌う「これはプテラ、プテラノドン〜♪」の歌を母が歌っていると「びっくりしちゃうからやめて」と言う。元々絶対音感がある子は、音が外れているとそういう風に指摘するらしいと最近何かで読んだが、どうなんだろう。息子の才能への喜びと、自分が指摘されるほど音痴かも知れないショックが一気に心にくる話だ。

 夕方みんなで散歩に行くために、息子が帰って来る前に夕飯を頑張って仕上げておきたい。お迎えに行ったら間に合いそうもなかったが、昼休憩を取り損なった夫がリモートワークを1時間早く終わりにして息子を迎えに行ってくれた。その間に仕上げて、帰ったら間髪入れずに食べられるようにしておいて、まだギリギリ明るい18時からみんなで八百屋まで散歩に出かけた。緊急事態宣言が出るかも知れないので、それまでに野菜を仕入れておきたいのもあるし。娘をベビーカーに乗せて夫に押してもらって、私は手ぶらで息子と手をつないで歩いた。息子と同い年の友達が通っている保育園の前を通り過ぎる。いつもお迎えがこのくらいだと言っていたから居ないかな、とチラチラみるが見つからず。前から見たことのある男性が知ってる顔の女の子を連れて歩いている。誰だっけな〜と思い出せないまますれ違った時、その女の子は行方不明になったママ友の子だと思い出した。0歳の頃にたまに児童館で一緒になっていた子で、息子が赤ちゃんながら初めて手をつないだ女の子だった。その見たことのある男性は、お宮参りの写真を見せ合っていて見たことがあったのだった。あのママ友は今どこにいるんだろう、最近知り合った人はLINEしか交換しないから、LINEが途絶えてしまうとお手上げだった。家の場所はなんとなく知っているけど、急にピンポンを鳴らすほど親しくなかったし。ママ友が消えるという凄いインパクトのある事件も、居なくなって1年も経つと日常には勝てずに印象が薄まってゆく。

 国道沿いを歩いていると、道路パトロールカーが通った。すぐに息子の脇に手を入れて見えるように持ち上げた。いたね、いたね!と大喜びの息子。東京都の花はツツジなんだよね、と思いながら歩いていると、そういえば妊娠中に夫とこうやって夕方にこの道を歩いた時に時計草があったことを思い出した。懐かしくて夫に話すが車が行き交う音でなかなか聞き取って貰えない。「ト・ケ・イ・ソ・ウ!」と大声で言ってもピンときていない様子。その時にはその派手な見た目の花が時計草だとは知らず、こんな国道沿いにまさか新種の花を見つけたか!?と盛り上がってしまい、写真を撮ってヤフー知恵袋で「この花はなんでしょうか?」と質問してみたら、そう珍しい花ではないらしく少しがっかりしたのだった。めげずに夫に「チ・エ・ブ・ク・ロ!」と叫ぶと「ああ、あれね」という顔で笑ったので嬉しかった。

 家からしばらく歩いたところの、いつもの八百屋さんに入ると大きい桜の枝が飾ってあった。飾ってあるというより、瓶にささって置いてあった。ここの八百屋さんの駐車場に桜の木があるらしく、桜が咲くと枝を切ってお客さんにプレゼントしてくれるのだ。去年、娘を妊娠後期に運動がてら息子をベビーカーに乗せて毎日のようにここの八百屋にきていた。綺麗な桜ですね、と褒めるとここのおばあちゃんがひと枝くれたのだ。そして「子供が3人いるけどみんな全然違う。末っ子は温泉に連れて行ってくれたが長男は全然優しくない。でも男の子は結局お母さんが好きだから男の子の方が優しいのよ。その子もあなたを大切にしてくれるよ。」と話してくれたのだった。欲張って、一番大きい桜の枝を選んでしまい、ベビーカーに差し込んでバランスを取って進むのが難しかった。その頃はまだ歩けないし、喋れなかった息子は2歳になって、一丁前にカゴを引きずってカゴの中に勝手に好物のブドウを入れている。根菜類など備蓄用に沢山買い、レジ前にあった茹でたけのこも買った。ほんのおむすび一個分くらいで350円は高いが、2人子供が居て生のたけのこを煮る時間などない。去年はまだ余裕があったから、生から煮て作った若竹煮は我ながら旨かった。姫皮でたけのこご飯にしてママ友に分けたら好評だった。

 隣にある小さなスーパーでも買い物、まさかのアルコール除菌ウエットティッシュがありラッキー!買い占めたかったが、もういい大人なので母の分を入れて4つだけにした。高齢者向けのラインナップのスーパーならではのお菓子があった、ボーロともクッキーとも言えないような「ちょぼちょぼ」という名前のもの。息子がお会計済みのちょぼちょぼを手に持ってお店を出ようとしたら、レジのおじさんが取っ手付きのビニール袋に入れてくれた。2歳は買い物袋をさげるのがとにかく楽しいらしい、おじさんはきっと子育てをしたことがある人なんだろうな。「優しい人だね」と息子に話すと、息子も意味は分かっていないだろうが復唱して「優しい人だね」と言っていた。こうやって言葉を覚えて行くんだな。家まであと200mというところで「母さん抱っこ〜」となり、「疲れた?母さんは腰が痛いから父さんにしてもらおうね。」と言うと、ベビーカー担当だった夫が嬉しそうに抱っこしてエレベーターへ。娘は暇だったのかいつの間にかベビーカーの中で不機嫌そうにぶすっと寝ていた。白いおもちのような娘がほっぺをつるぴかにしていて可愛かった。

 夕飯は里芋と人参の煮っころがし、ブロッコリーと白菜入りそぼろご飯、豆腐とわかめの白味噌汁と切り干し大根。息子のイヤイヤ期が発動し「ご飯食べない!」となったが、海苔かける?と魔法のワードを出したら何事もなかったかのように食べた。味が嫌なわけでは無いらしい。娘はみんなでぶどうを食べているときに、つかまり立ちで赤いぶどうを皿から一粒かすめ取った。私が手に持っていた一粒のぶどうを娘のにぶつけて「かんぱーい」とやると嬉しそうにお尻を大きく振った。屈伸するような動きで、楽しくてたまらない!わくわくという感じ。

 金曜ロードショーで『思い出のマーニー』を見てる途中、息子が「お風呂に入る!」と立ち上がって高らかに宣言していきなり自分のオムツを下げた。そのオムツにはうんちが入っており、大変大変!と夫を呼び、おしりふきとビニール袋を持ってきてもらった。お風呂から出ると今度は子供用の保湿のクリームの容器に手を突っ込んでケタケタと笑う。クリームたっぷりの手で洗面所を触りまくり、洗面所はげんなりするほどクリームだらけでべたべたになった。とりあえずそこにあったおしりふきでクリームを拭き取りながら「そんなことしないよ!」と怒ると「母さん怒らないよ!」と言われてまう。怯んだら負けると思いビシッと「怒られることばかりワザとしないの!」と言い返す。こちらが叱って気持ちがイガイガしているというのに「母さん母さん、今日これいたね〜」と、穏やかにトミカの道路パトロールカーを見せてくれた。息子は切り替えが早い。

 授乳する前に、私のそばでいもとようこさんの「いっすんぼうし」の絵本を開いていた息子。作者の既刊絵本の表紙が小さく宣伝に載っているページを見て「これは知ってる、これは知らない」と指を指して喋っている。コロナで図書館は閉館していたが「図書館ね、予約図書の貸し出しだけ始まったみたいだから、どれか読みたいのあったら予約しとくよ。」と言うと「なんでもいいよ!」という。読んだことのない絵本の表紙を指差し数えて「1.2.3で予約しといて」と言われた。意味は分からないが、なんか大人っぽい言い回しをしたかったんだなと思うと微笑ましい。「うん分かった。1.2.3で予約しとくね」と私がいうと息子は満足そうに笑った。

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