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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 15: Gimgigam、ヤング・キュン、2seam

国内新譜アルバム紹介Vol. 15です。

今回紹介するのは、Gimgigam「Summer Deja Vu」ヤング・キュン「正夢」2seam「EXTSOURCE」です。


Gimgigam「Summer Deja Vu」

東京のギタリスト兼ビートメイカー。pool$ide光学の面々と同じ、Local Visionからのリリースです。

近年ミュージシャンがリリースするソロ作品は、ミュージシャンとしての技巧を軸にしたものではなく、Robert GlasperThundercatのようにプロデューサーとしての手腕を活かすような作りのものが目立つ傾向にあるように思います。以前紹介したT-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE「Lady Champagne」や、YUMA HARA「Reality」もその流れで聴ける作品です。

今作もそんな作品の一つです。Gimgigamはプロデューサーとしても活躍しており、xiangyuTina Moonなどの作品でその手腕を聴くことができます。それらの作品ではエレクトロニックでいて生演奏(と思しき)音も導入し、ファンキーな味わいであったりトロピカルな空気を注入したようなものが印象的です。そして今作でも、そういった提供曲と同じフィーリングを備えたサウンドを多く聴くことができます。

今作はインストも収録されていますが、8曲中3曲がゲスト・ヴォーカリストを迎えた歌モノ路線です。客演にはぷにぷに電機uamiヨシカワミノリが参加。全員異なる方向性の持ち主ですが、その音楽性を活かしつつGimgigamらしいサウンドに仕上げた良曲を生み出すことに成功しています。特にブギー的なシンセに小気味良いギターが絡むぷにぷに電機との「ラッキー・ドライブ」は今作のハイライトの一つです。

客演を迎えないインスト曲も充実しています。「Tonttu」はポコポコしたパーカッションと奇妙な声ネタやシンセが印象に残るインタールード的な一曲。「Airport Dub」はレゲエ風味、「Nivi」はヒップホップ系ビートメイカーのJUNES Kとの共作によるリラックスした仕上がりです。ラストを飾る「Monstera」はスペイシーなシンセやちょっとアフリカっぽい匂いのするリズムが効いたクールな路線です。シングルとして聴かせるような曲を含みつつも、トータルで聴かせる良作。


ヤング・キュン「正夢」

東京のラッパー。全曲をミステリアスなビートメイカーの復讐霊Gが制作しており、ソロ名義ですが実質タッグ作です。

ヤング・キュンは、今作にも参加しているLEXUZ YENと組んだラップデュオのOGGYWESTでの活動で知られているラッパーです。OGGYWEST作品についてはこれまでにも何回か書いています。

スキルというより味とパンチラインで聴かせる無骨なヤング・キュンと、メロディアスなアプローチを得意とする器用なLEXUZ YENのコンビネーションはデュオとして絶妙なバランスです。なので聴く前は逆にソロではアクが強すぎるのではないかというドキドキ感がありましたが、聴いてみたら意外なほどすんなりと入ってくる作品でした。また、The Neptunes的なミニマル感覚やアイデア多彩なビートメイクに、トラップマナーの現代性をくぐらせたようなもの復讐霊Gのビートも強力。OGGYWESTと通じるものでありつつ、それとは違う聴き心地を持った素晴らしい作品に仕上がっています。

冒頭を飾る「本能」からミニマルで跳ねるようなビートに生活感のあるラップを乗せ、かなり癖のある曲を聴かせてくれます。このビートは少しハイフィっぽさも。

続く「Brain Man」もThe Neptunes風味かつダウナーな仕上がりで強烈。「激LOW」でのロウテンション表現も見事です。「Searchin' for the Ghost」はテキサスGのようなメロウ路線。くるまやラーメンのラインは今作のハイライトの一つです。OGGYWESTの二人での「ロマンス・シート」もメロウ路線で、流石の名コンビが楽しめます。「マスター・プラン」はおどろおどろしいビートと生活感のあるラップの組み合わせもマッチが楽しく、逆に「Hajime Murata」はダークな雰囲気とおどけたアドリブやリリックが不思議なハマり方をしています。ラストを飾る「My World」ではDie, No, Ties Flyでの活動でも知られるVOLOJZAをフィーチャー。低速化したNJSみたいな哀愁漂うメロウなビートで、二人でパーソナルなラップを聴かせる良曲となっています。


2seam「EXTSOURCE」

福井のビートメイカー。同郷のビートメイカーだけのクルー、DRSのメンバーです。以前こちらでその作風について書いています。

「picture」はインスト作品でしたが、今作はアメリカのラップのリミックス集です。「picturie」レビューで書いた通り、東海岸ヒップホップ的なサンプリングセンス+よれたグルーヴが基本の2seamですが、今作でもそのモードは継続。やはり東海岸的なスタイルが中心のラップを、原曲とは異なる2seamのカラーに見事に染め上げています。

一曲目の「softly, as in a morning sunrise」では、太い声のどっしりとしたラップをジャジー&ローファイに調理。不思議なメロディを奏でるフレーズをループし、ラップを彩っています。「ringo grinder」はメロウでクールなエレピと極太ベースで、低音の無骨なラップをスムースに聴かせる作り。「pounds up」ではジャジーなピアノと細かく揺れるようなグルーヴが印象的なビートで、暑苦しくエネルギッシュなラップをクールダウンさせています。「driftin'」でのラップは「picture」収録曲と同じものですが、ここでは美しい歌声のサンプリングでまた異なる印象に。「spicy」はウッドベースのループと若干南部風のパターンを取り入れたドラムで、フリーキーなラップを活かしています。そのほか「shootouts」「books of rhyme」はメロウ路線、「baked apple」は和風のウワモノが目立つユニークなビート、「microphone master」は「pounds up」系のジャジーなスタイル、「warlord leather」は「driftin'」タイプのソウルフルなものを披露。軸をしっかりと持ちつつも、多少の振れ幅を持った充実したビートが堪能できます。

そう、今作はラップをリミックスした作品ですが、主役はあくまでもビートなのです。いくつかの曲はフックが目立たないような作りとなっており、ラップアルバムとは違ったビートメイカーの作品らしい魅力が生まれています。ビートテープ感覚でも聴ける好作。

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