Beyoncé「COWBOY CARTER」の「CARTER」の部分
現代最大のスーパースターの一人、Beyoncéが先日新たなアルバム「COWBOY CARTER」をリリースしました。
BeyoncéはR&Bのシーンから登場したアーティストですが、作品によってそのサウンドはかなり異なります。前作「RENAISSANCE」では、ハウスやニューオーリンズバウンス、レゲトンやアトランタベースなど多彩な踊れるサウンドに挑んでいました。
今作で基本となっているのはカントリー、アメリカーナ系のスタイル。しかし、いわゆるダンスミュージックの色が濃かった前作にも「CUFF IT」や「PLASTIC OFF THE SOFA」のような生演奏のストレートなソウル~ファンク系の曲が収録されていましたが、今作にもやはり随所にR&Bやヒップホップの分脈は発見できます。
音楽的にはそもそもBeyoncéの歌声がゴスペルに根差したソウルフルなもので、カントリーに挑んでも当然のようにそのフレイバーが入ります。また、先行シングル「16 CARRIAGES」や「TEXAS HOLD 'EM」などでは一部ラップも披露。ラッパーのShaboozeyの客演のほか、サウンド的にもヒップホップ色が強い「SPAGHETTII」や「TYRANT」のような曲にも挑んでいます。ファンク路線の「DESERT EAGLE」やジャージークラブのキックパターンを取り入れた「SWEET ★ HONEY ★ BUCKIIN'」などは前作に収録されていてもおかしくない曲です。明確にコンセプトがある作品ながら、そこから外れる要素を自然と混在させ、Beyoncéのパワーでねじ伏せてまとめ上げる「Beyoncé力」のようなものが今作(というかBeyoncé作品全般)のユニークなポイントだと思います。
そんな今作に含まれたカントリー~アメリカーナ文脈以外の要素の中でも目立つのが、JAY-Z周辺人脈の参加です。前作で中核を担ったソングライターでプロデューサーのThe-Dreamは、今作でも11曲に関与。The-DreamはJAY-Zが社長を務めていた頃のDef Jamからシンガーとしてデビューしているほか、JAY-ZがフックアップしたRihannaの名曲「Umbrella」を手掛けるなどかなり縁の深い人物です。
今作で9曲に関わったキーボーディストでプロデューサーのKhirye Tylerは、Jay ElectronicaとJAY-Z、The-Dreamが共演した「Ghost of Soulja Slim」や、JAY-ZとNipsey Hussleの共演曲「What It Feels Like」などに関わっていました。
そのほか今作の冒頭を飾る「AMERIICAN REQUIEM」にはJAY-Zの現時点での最新作「4:44」をプロデュースしたNo I.D.と、JAY-Z主催レーベルのRoc Nationに所属するDIXSONの名前があります。さらに「MTV Unplugged」JAY-Z出演回での「Heart of the City (Ain't No Love)」をサンプリング(どこで?)しているため、JAY-Zもソングライターとしてクレジットされています。「TEXAS HOLD 'EM」でシンセを弾くHit-BoyはJAY-Z関連曲も多くプロデュースしており、「SPAGHETTI」に関わったSwizz Beatzや「SWEET ★ HONEY ★ BUCKIIN'」のPharrellもそれは同様です。JAY-Z本人もサンプリング含め5曲でのソングライティング、一曲でのクラップで参加。ラップはしていないものの、陰ながらバックアップしています。また、「OH LOUSIANA」ではChuck Berryの同名曲を早回ししてサンプリングしていますが、この手法はJAY-Zの2001年作「The Blueprint」で浸透したものです。
そんななんとなくJAY-Zの影がよぎる……というかタイトルにJAY-Z(とBeyoncé)の名字「CARTER」と入るのである意味ストレートにJAY-Zな今作は、カントリー~アメリカーナに馴染みのないヒップホップリスナーもきっと楽しめる作品です。私のベストトラックは「TYRANT」。ストリングスをループしたトラップビートで、ちょっとMike Jonesの名曲「Still Tippin'」を思わせる味があってテキサスの地域性を感じました。キレキレのラップも素晴らしいです。
なお、Beyoncéはこのアルバムのリリースと同日にJAY-Zと一緒に来日し、タワーレコード渋谷店でサイン会を行ったことも話題となりました。そのサイン会に仕事の予定を調整して駆け付けたBeyoncéファンのBEYONCE JPNさんに、Beyoncéの魅力やサイン会当日の様子などを伺ったインタビューをWebメディアのMikikiで行いました。皆さま是非。
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